第6話
彼女のことが好きだと気づいてからは、思い悩むことが多くなった。先生と生徒の恋愛は、いわゆる"禁断の恋"というやつだ。映画やドラマなどで描かれることが多いテーマだが、まさか現実で、しかも当事者になるなんて。
いつものように授業後に彼女と一緒に帰る帰り道、僕は自分のしていることは許されざることなのではないかと考え始めていた。もし他の生徒や先生に、一緒に帰っているところを見られて、あらぬ噂を立てられてしまったら。塾にも迷惑をかけてしまうかもしれない。考えれば考えるほど、悪い結末が浮かんだ。
「今日は俺こっちから帰るから、また明日!」
「そっか。バイバイ。」
僕はわざといつもと違う道で帰ることによって、彼女と一緒になるのを避けた。明るく彼女とお別れしようと努めていたけど、心の中ではすごく苦しかった。彼女と一緒に帰って、いろんな話がしたかったし、もっと仲を深めたかった。そのチャンスがあるのに、自分から諦めなければいけない苦しさは、今まで経験したことがないものだった。
苦しみから解放されたいのに、胸の痛みはどんどん増していった。諦めなければいけない、一緒に帰ってはいけないと思うほどに、彼女への想いは強くなってしまう。もう限界だった。もういっそのこと、自分の気持ちに正直に生きよう。どんな結果になってもいいから、彼女と一緒に帰りたい。そう思った。
ある日の授業の後、僕は彼女に正直な気持ちを伝えようと心に決めていた。好きだとかそういうことじゃなくて、ただ一緒に帰りたいと、それだけを伝えようと思っていた。しかし、僕の気持ちは彼女に届くことはなかった。最悪のタイミングで恐れていたことが起きたからだ。
「○○先生、授業後少し個人面談してもいいですか?」
「はい、わかりました。」
塾長に声をかけられた時、内容がどんなものなのか見当もついていなかった。
「○○先生、言いにくいのですが…」
塾長から、僕と彼女との関係が噂され始めていると聞かされた。一緒に帰っているところを他の生徒や先生方に目撃されていたようだった。僕はそれを聞いた瞬間、「終わった。」と思った。僕の恋も大好きな塾での仕事も、もう続けられないだろう。
しかし、塾長から出た言葉は僕の予想とは違ったものだった。彼女が僕に好意を持っているようだから、僕の方で彼女と線引きをうまくしてほしいという内容のことを言われたのだ。
「いや、でも僕も彼女のことが好きになってしまったんです。」
僕は思わず本当の気持ちを塾長に明かしてしまった。黙っていれば、僕が非難されることはなかっただろう。むしろ生徒に言い寄られた被害者のように扱ってもらえたかもしれない。だけど、どれだけ周りに認められても、許されても、自分が自分を絶対に許せなくなる。僕は自分の中にある大切なものを守るために、嘘をつくことはできなかった。
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