第4話

 僕は彼女の担当講師になったので、毎週授業で顔を合わせて、話をする機会があった。80分間の授業時間があっという間に感じられるほど、楽しんで教えることができていた。彼女は、もともと頭が良く、学校の成績も悪くなかった。理解力も高かったので、教えることに苦労はほとんどなかった。そして、僕のくだらない冗談に笑ってくれて、楽しそうに話を聞いてくれることが心地よかった。


 ある日、僕が塾に向かって家を出発したとき、道路を挟んだ反対側に彼女らしき人の姿が見えた。確証はなかったが、もしかすると近所に住んでいるのかもしれないなと思った。


 そんなことがあった後のある日の授業後に、たまたま彼女と帰る時間が近くなった。僕は、いつも途中まで一緒に帰っている講師の友達がいたので、彼女とは塾の近くでバイバイした。いつも通り途中まで友達と帰ったあと、ふと家の前で彼女らしき人を見かけたことを思い出した。見かけた人が本当に彼女であったなら、帰り道で会えるかもしれない。僕はわずかな望みにかけて、自転車を速く漕いだ。ちょうど家まであと1分という距離まで来たとき、横断歩道の向かい側に信号待ちをしている彼女の姿が見えた。僕は彼女にまた会えたことがうれしかったが、信号が青になるのを待つ勇気がなかった。


「じゃあねー!」


 道路越しに叫び、去った。恒例のグッドポーズを添えて。


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