第2話
彼女と初めて話した1週間後、再び授業を担当することになった。その時、やっと彼女の顔を知った。主に横顔を拝むことになったのだが、顔を見て話せるだけで授業はうんとやりやすくなった。
画面越しの授業では音声が聞き取りづらく、相手にも伝わりにくい。だからリアクションを大きくしたりジェスチャーを使ったりして、工夫しながら授業をしていた。
「この問題でわからないところとか、疑問に思ったところはある?」
「いや、大丈夫です」
「おっけー!」
この時僕は親指を立てて、グッドポーズを作った。彼女はそれを見て、笑いながら同じポーズを返してきた。予想外だった。今まで同じことをしても、そんな反応を返してくる生徒はいなかったから。彼女はノリがいい女の子なだけなんだろうけど、自分のしたことで笑ってくれたことがうれしかった。
それから授業を担当するたびに、僕がしたポーズと同じポーズを彼女が返すということが恒例のネタみたいになった。その時から、僕の中で彼女の授業を担当することが楽しみになっていた。
しかし、楽しい時間はいつまでも続かず、突然に状況は変わった。塾全体の方針として、画面越しの授業から対面型の授業に切り替わることになったのだ。対面型に切り替わると、授業の曜日や時間帯も組み直しになるし、担当する先生も変更になり得る。僕は対面型に切り替わる前の最後の授業の時に、彼女に名前を憶えてもらおうとした。教室でもし会えたら、僕のことを認識してほしいと思ったから。でも、名前だとすぐ忘れてしまうかもしれないと思いなおした。
繰り返しになるが、僕と彼女には2人だけの恒例ネタがあった。
「俺のこと、グッド(ポーズをとって)よくする奴で覚えといて!お前誰って言われたら悲しいからさ(笑)」
「わかった!覚えとく!」
彼女は満面の笑みで答えてくれた。後々この時のことを思い返せば、僕は画面越しに見る彼女の笑顔にすでに恋をしてしまっていたのかもしれない。
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