一番苦しくて一番幸せな恋

橘 里樹

第1話

 僕の心にずっと残る痛み。この痛みは、いつか薄れて消えていくのだろうか。痛みが消えればもう苦しまずに済む。だけど忘れたくない。そんな恋をした。


 僕は、東京の大学に通う真面目な大学生だ。埼玉の実家から大学に通っており、1年生の時から、地元で塾講師のアルバイトをしていた。僕が彼女に出会ったのは、大学2年の春のことだった。


「こんにちは!」「音声聞こえてますかー?」

「はい。聞こえてます。」

 これが彼女と交わした最初のやり取りだった。


 彼女は僕が働いていた塾に生徒として入塾してきた。当時中学3年生だった彼女は、高校受験を目前に控えたタイミングで塾を探していたのだ。彼女と会ったその日、僕はパソコンの画面を見ていた。画面には彼女の首から下の部分しか映っていなかったので、厳密には会っていない。


 画面越しで授業をするのは、ただでさえ大変だった。しかも顔が見えないから、コミュニケーションがより一層取りづらい。


「顔映せますか?」


 その一言が口から出かかった時、ふと頭にある考えが浮かんだ。(顔を見せるのが嫌だからあえて見せないようにしているのかも。)僕は出かかった言葉を喉に引っ込め、そのまま授業を続けた。


 このときはまだ、自分が彼女を好きになるなんて思ってもみなかった。


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