019 中庭に響く音色⑥
「━━わわ、すっごいキレイになってる!」
まるで人の気配がなく、周囲は壁に囲まれ、見上げた先では空の青さに小鳥が
「だいぶ前に来た時は草がボーボーだったのに! すごいすごい!」
以前の姿と比べているのか、キョロキョロと中庭を見回しては
その様子が、この場所を作った´彼´の事も一緒に
「さってそれじゃあ、
「……あっち。大きい
遠くを見るように
そして、ベンチと向かい合うように倒れた……
「ん、どれどれ…………おっ、いたいた!」
そう言って若いシスターはベンチへと
「そっかそっか、この子だったかぁ。……すっかり忘れちゃってたなぁ」
その場で
「……あの光はどこへ行くんだろうね。それに……どこから来たんだろう」
「…………」
「知ってる? あの光の事をね、´魔力´って呼ぶ人もいるらしいの」
「……´まりょく´?」
「そう。
動ける時間もバラバラで、同じ
ほんと、魔法みたいだよね。不思議不思議……」
話を終えた若いシスターが自身の
「よ〜し! じゃあ戻ろうか、リリー」
「うん」
「よっ……と。……うぐ。そ、そうだった……この子、意外と重いんだった……」
地面に落ちたそれを、少女は見つめる。
何かを思い出すかのように、じっと見つめる。
「す……すっかり、忘れちゃってた……なぁ……うぐぐ」
ひいひいと
お気に入りのクマのぬいぐるみと……
━━━━━━━━━━
いつもの朝。いつもの静けさ。いつもの中庭。
「━━なあ、リリー。そろそろ来るよな?」
「…………たぶん」
空を見上げて何やらそわそわとしはじめたクマのぬいぐるみに返される、少女からのどこか
来るでもなく、来ないでもなく…………たぶん。
そんな言葉に込められた思いなど
その先の通路から現れる、よくよく
「お、大丈夫だったのか? 心配したん━━」
麦わら帽子を浅くかぶり、手には園芸用の道具を
「(……リリー?)」
口に人差し指を当て、胸に抱くクマのぬいぐるみへ何も言わず
行動の理由は……すぐに
「やあ、お嬢さん。´はじめまして´」
近くまでやってきた若い男性が、そう言ってベンチに座る少女へにこやかに笑いかける。
「お嬢さんじゃなくて、私はリリーよ。…………スコップさん」
「では、改めて。はじめまして、リリー」
「……はじめまして」
少女の返答にも
「
「…………」
「誰かと一緒に来たのかい?」
「ロッ…………ううん、ひとり」
「へえ。それにしても……リリーはよくこんな場所に来ようと━━」
「……! ……こんな場所じゃないっ!」
言葉少なに返事をする少女であったが……若い男性が口に出そうとした言葉を
「ここには花がいっぱい
……こんな場所じゃないっ! ここは立派な……立派な世界なの! まだ知らないだけっ! みんなも…………´あなた´もっ!」
口から出たのは……この場所で
小さな少女が見せる、精一杯の主張。
若いシスターが、礼拝堂で言っていた言葉……´前と同じ´。
´前と同じ´、
´前と同じ´、土で
そして、´前と同じ´……顔。声。姿。
だけど…………それは´彼´じゃない。
ドールについての研究を行っている都市も
━━声を大にした
……´彼´と同じ姿をした若い男性に、何かを言ってしまうより先に。
クマのぬいぐるみを胸に、少女は足早に中庭を
……´彼´の作った´世界´が、自分を振り返らせてしまうより前に。
「リリー……」
通路を
「……また、あの花を見に行こうな」
「…………うん」
それ以上の言葉は
大聖堂へ着くまで、少女がその足を止める事はなかった。
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