016 中庭に響く音色③
「本当にそこが、お花でいっぱいになるの?」
「ああ…………必ず!」
スコップを突き立てる度、ガチリと音を鳴らしては次々に石を
それに
「……ふうん。お花はね、好き。いろんな形があって、いろんなニオイがあって。おっきいのも、ちっちゃいのも、みんな好き。でも、お花が土から出てくるところは見たことがないの」
「おっ、そりゃあいい。じゃあ……天気の良い日には、お花達が元気な
「……うん!」
しばしそのまま……会話もなしに手を動かし続けていた若い男性だったが、
「……そうだ、
「ううん」
「えーっと……うん、これなら良さそうかな」
近くに
〈ピーーィ……〉
中庭に響き渡る高音に、少女からは驚いた様子の声があがる。
「……音! 葉っぱから音がでた!」
その音を鳴らしたのは……普段からそこいらで見かけるような、何の
しかしそんなただの葉っぱが思いもよらない音を出したことで、少女の目はすっかりと輝き、音の
〈ピーッ……ピピーーィ……〉
音を鳴らせば鳴らすだけ、何かしらの反応を見せてくれる少女の姿がなんとも
知らず知らず笑顔となっていた若い男性の口からはつい、それが声となってこぼれ落ちた。
「ふふっ。……ふふふっ。
最後の一言で、少女の動きがはたと止まる。
「……お友達?」
明らかに
「あれ? 違ったかな?」
「…………」
「そのクマさんはお友達じゃないのかい? 僕が来る少し前まで、楽しそうにお
「そ、そんなこと……ない……。リリーは誰とも
急に
「もしかして……そのクマさんは、他の
そして、何かを
「……大丈夫。ここには僕達以外は誰も居ないし、誰かが来ることもない。僕の……いや、僕達だけの世界さ。
この
…………でもね?
いつもの場所に向かう
ふと……思っちゃったんだ。
ああ、今日は一人じゃないんだな。ひとりぼっちじゃ……ないんだな、ってね」
「…………」
「だから、そんな僕だから…………
「ずっと……一人……」
ぼそりと
やがて少女は胸に抱きしめるクマのぬいぐるみを持ち直し、少しだけ
「……ロッコ。クマさんじゃなくて、この子はロッコ」
「…………。……よ、よぉ」
両脇の下を抱えられ、足が
「こうやって一緒に
「こちらこそ……よろしく、ロッコ。リリーも本当にありがとう……とても
こくりと
「それじゃあ
〈カツリ……ガツッ……〉
若い男性が自身の作業を続ける
ヒューヒューと息だけが抜ける音……
ビー、ブーと
それらが聞こえるたび、少女とクマのぬいぐるみの楽しそうな笑い声が後に続く。
そして……
〈ピーーーッ……〉
「……でた!」
「おっ、やったなリリー!」
━━━━━━━━━━
「━━だいぶ……
中庭で一人、立ちながらに作業をしている若い男性の後ろから……少女に抱きかかえられてやって来たクマのぬいぐるみが言葉をかける。
目の前に広がる地面は、
ふかふかなその土には何かを植えた後なのか、若い男性がジョウロを
「いい感じだろう?
そう言って振り返る若い男性は、
「倉庫の奥で
「へえ……あるだけで
「もう、座ってもいいの?」
「もちろん! これは僕達だけのベンチ。僕もまだ座っていないから、今なら一番乗りになれるよ」
「聞いたかリリー? 一番だってよ、一番! ほら、早く座ろうぜ!」
「……うん!」
さっそくベンチに腰を落ち着けた少女の腕の中から、居ても立っても居られない様子でスルリと抜け出るクマのぬいぐるみ。
そのまま少女の隣に座ったり、立ち上がって背もたれを
ベンチの下を
「…………ふう。あとは花が咲くのを待つだけかあ」
「他にもやりたいことはあるにはあるけど……やっぱり、まずは色が欲しいよね。風に
〈ガランッ〉
その言葉を言い終えるのを待たずして……若い男性の手から、持っていたジョウロが落ちた。
水を吸った地面が、どんどんと黒くなっていく。
「……? どうしたの?」
「うーん…………。たまになんだけど、体が言うことを聞いてくれない
動かしにくそうな右腕を左手で
「なんだよ、それって
「ハハ、ありがとう。そうだね、
「いってらっしゃい、スコップさん」
クマのぬいぐるみからの遠回しな
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