011 オバケのうわさ①
大図書館から礼拝堂へと二人でやって来た少女は、少し奥に座るという
すると、
「なあなあ。リリー、知ってるか? 今、この街にはオバケが出るんだってさ!」
「……オバケ?」
「そう、オバケ! 色んな人が
「オバケに会いたいの?」
「……? そりゃそうだろ? 一番先にオバケを見つけてさ、俺の子分にするんだ!」
「ふうん……」
「なんだよリリー、興味ないのかよー……つまんねーなあ」
「暗いとこは……イヤ」
「おっ、そう思うじゃん? なんとこのオバケ━━」
抱えていたクマのぬいぐるみを
「もうっ……ほら、周りをごらんなさい? 皆さんはちゃんと静かに座っていますよ。
「…………。……ちぇーっ」
礼拝堂内をぐるりと見渡した後に、口を
「(姉ちゃんにオバケの話、聞かせてもらう約束なんだ。リリーもさ、これが終わったら食堂に来いよ!)」
━━━━━━━━━━
「━━で、この後は
長い一日において最後の日課となる夜のお祈りが終わり、
「ロッコ、聞きたいの?」
「リリーは気にならないのか? この街じゃ全然聞かない話だし、なんたってオバケはまだ見たことがないしな!」
「うーん……」
オバケという言葉には何かを
「なあ、頼むよリリー……つまらなかったらすぐ帰ってもいいからさぁ」
「んー……そんなに行きたい?」
「行きたい行きたい! 食堂に行ってさ、俺だけをそこに残す感じでもいいからっ……!」
「むぅ…………わかった。でも、ロッコを置いてくのはやだ。リリーも一緒に聞く。だから、聞いてる間はじっとしててね?」
「おうっ! ありがとよ、リリー!」
努力の
「さ、はやく行こうぜっ」
長椅子から立ち上がったばかりの少女を、そのつぶらな二つの瞳で見上げながらにそう
礼拝堂から離れ、廊下を抜け、大聖堂を通り……
食堂までの道すがら、腕の中にいる嬉しげなクマのぬいぐるみから伝わってくる……ほんのりと温かな感覚。
それはとても不思議なもので、あまり興味を
「……きたきた」
先にその場に来ていた少年が、食堂へと入ってくる少女の姿を見るなりニッと白い歯を見せる。
「何だよ、やっぱリリーも気になるんじゃーん!」
「話が途中だったから来ただけ。……気になったのは、ロッコだから」
ふざけた様子でからかう少年に少女は少しだけ顔をしかめると、抱いていたクマのぬいぐるみをぐいっと前に突き出す。
「おっ、さすがロッコは違うなあ! 何よりもまずは、オ・バ・ケ……だよなっ?」
そんな少女を気にも
「お待たせ〜……あっ、リリーも来てたの?」
「姉ちゃん遅いぞ!」
「これでも急いだんだから〜! (本当はまだ終わってないんだけど……)」
「……ん? 姉ちゃんなんかいった?」
「なんでもないです〜!」
自分の事を
そして、そのままテーブルを
「さて」
そう短い言葉を使うと、その場の空気を切り替えた。
「……例の物を」
そう言って右の手のひらをテーブルの上へと差し出し、じっと少年を
「…………。はぁ……わかってるよ」
それを受け、少年はやや面倒くさそうな顔でズボンのポケットに手を突っ込むと……若いシスターに、取り出した´何か´を握らせる。
小さく丸みを
少年から受け取った物に対して、若いシスターが
何を思ったか、突然パッと自分の口の中へとその´何か´を放り込む!
「!!!」
「ん~〜〜〜っ! これこれっ! やっぱり、苺ミルクのキャンディは最高ねっ!」
……と、自分の
「まったく……。手に入れるの大変だったんだからなっ!」
「ふぁ〜い、ありがほね〜」
笑顔のまま口をモゴモゴとさせている若いシスターへ、少年がテーブルに身を乗り出すようにして言葉を続ける。
「ほら、ちゃんと渡しただろー。早くオバケのはなし聞かせてくれよー!」
聞きたくて仕方がないといったような、少年からの
「…………」
何かを言いたそうにも見えるクマのぬいぐるみと共にこちらを
「……わかったわかった」
口の中に広がっていく
「……大聖堂の正面にある地区の一つに、大きなお屋敷があるのは知ってる?」
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