010 窓際の向日葵
立ち並ぶ
そんな中において、胸にクマのぬいぐるみを
「うーん……」
「これ……と、こっちは……んー……」
少女の小さな
そのため、多少の時間を
「あとは……これも…………ん……しょ」
そうして選ばれた
……ここは大図書館。
二階建てからなるこの建物はバジリカの中でも古い部類であり、
一階中央部分では、上階へと続く歴史を感じさせる
階段の上部を含んだ二階中央は大きく吹き抜けとなっており、階下にある読書スペース全体を見渡せるような
また、窓際で日当たりの良い場所には小さめの机と椅子が
胸に抱えたクマのぬいぐるみや本を落とさないよう、やや時間をかけて慎重に階段を上り……少女が足を向ける、いつもの場所。
二階の一番奥に位置し、ちょうど建物の角にあたる窓際のその席には、
「こんにちは、リリー」
「こんにちは」
足音に気が付き、持っていた本を開いたままにそう
少女はそれに言葉だけで返すと、抱えていた本を少し重そうにしながら机の上に置き、クマのぬいぐるみと共に向かい合うようにして椅子へと腰かける。
「今日はどんな本を持ってきたの?」
「絵がいっぱいの本。まだ、誰も見てないの。これも……これも……誰も見てない」
そのまま言葉を続ける若い女性に大図書館へ
「
「……いいよ、リリーが読み終わったらね」
そう言って
━━━━━━━━━━
むかしむかし……ある丘の上に立つ、大きな大きなお
そこでは、お母さんと
いつも優しいお母さんは子供達全員をとても
ですがある時、子供達の中でも特にやんちゃな三人の娘達がそんなお母さんを困らせようと
最初の
ぴょんぴょんと
次の
今度こそはとお母さんは他の子供達にもお願いして皆で探そうとしましたが、場所をコロコロと変えながらも小さな
そして娘達は最後の
そこは、普段からお母さんに入っては
他の子供達を
机に置かれたままとなっている鍵を手に、急いで奥の扉へと駆け寄ります。
カチリ…………キィ……
そう音を立てながら開いた扉の先には……とてもとてもキレイな、様々な色に光る、一つの宝物がありました。
思わず足が止まり、
そんなお母さんの腕の中で、娘達は口々にその宝物について聞いたり欲しがったりしましたが……
ようやく捕まえることが出来てほっとしたお母さんは、娘達を強く
━━その後、反省した三人の娘達は言われた通りにそれぞれで土を
やがて畑は、様々な色をした野菜や
朝日を
━━━━━━━━━━
「……おしまい」
本を声に出して読んでいた少女は最後にそう言うと、何かを確かめるかのように膝の上でお話を聞いていたクマのぬいぐるみの顔を
「
机を
「でも……」
しかし、その言葉を聞いた少女は何やら少し不思議そうな様子。
「部屋にこっそり入って見つかっちゃったことと、誰にも見せないように宝物を隠してたこと…………最後は、どっちの方が悪いのかな?」
クマのぬいぐるみを持ち上げ、黒くまあるい顔と見つめ合いながらに少女はそう答えるのだった。
「確かに……初めからお母さんが宝物を隠していなければ、三人の子達はこっそり入る必要もなかったのね……」
うーん、と難しい顔をしながら、若い女性はそう言って首を
「でも、リリーは
そして言葉を言い終わると、途中までしか読んでいないであろう本を……何も言わず、パタリと閉じた。
「また……」
次はどの本を読もうかと迷っていた少女は、閉じた本を机へと置いた若い女性を見て小さく
「また、最後まで読まないの?」
「……えっ?」
若い女性は少し驚いたようだったが、どこか寂しそうな目をして続けた。
「…………最後まで読んじゃったら、必要が無くなっちゃうでしょう?」
「……? ……必要?」
「え……? あ……えっと……そう。それにね、最後まで読まなければ物語のラストを自分好みで自由に作れるじゃない?」
言葉を言い直し、ニコリと笑った若い女性の髪を
窓から差し込み始めた西日に目を細め、髪飾りと共にオレンジに染まったその横顔には……
〈ゴーン……ゴーン……〉
少女が三冊目の本を読み終わった頃、夕方を
「……そろそろ向かいましょうか」
若い女性はそう言うと立ち上がり、本を片手に使っていた椅子を元へと戻し……
「うん」
続く少女も本の半分を持ってもらい、残りをクマのぬいぐるみと一緒に抱えると……夜のお祈りに参加するべく、一階への階段に向かい二人は歩いていった。
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