005 人々が望むもの②
「[家庭用/同調率99%]…………なるほど」
二人のやり取りを見ていたシスタースズシロは持っていた申請書に視線を移し、小さく
≪同調率≫は主に10~90%の間で収められる事が多い。
その理由は簡単で、10%以下だと召喚したドールは動く事すらままならないからだ。
希望する
それとは逆に、同調率が90%を超えてくると
また、どのような理由があろうとも最高値は99%とされ、その先の1%は決して踏み込んではならない……というのが、この世界全体での共通認識でもあった。
「すみません……。この子にはまだ理解が出来ていないみたいで……」
「このふくはね、おひさまの……おかあさんのにおいがしてだいすきなの!
おかあさんはいま´とおく´にでかけてるから、かえってくるまでどーるにあそんでもらうのー!」
女の子の言葉に少し困った様な顔を見せながらも、亡き母親の衣服に顔を
そんな我が子の頭を撫でる様に優しく触れ……
「……事情は
「……と、言いますと?」
「今回は同調率が99%になりますので、召喚後にそのままドールを連れて外を歩かれますと……
ドールの足元が汚れてしまったり、周囲からの目もございますので……」
「おとうさん、おとうさん」
母親の衣服を胸に抱えたまま、シスタースズシロと向かい合い会話を続ける若い男性の手を女の子はくいくいと引き……言葉と共にその顔を見上げる。
「くつをはかないであるいたらね、だめなの。あぶないからって、おかあさんもいってたの!」
「ああ、そうか……言われて見れば。…………確かに、このままじゃあドールが
若い男性はそう言って女の子の隣にしゃがみ、大事そうに抱えている衣服にそっと触れた
「……すみません、シスタースズシロ。すぐに戻りますので少しの間、待って頂く事は……」
「時間の事でしたらお気になさらず……お嬢さんは私が責任を持って見ておりますので、お気をつけて行っていらしてください」
「……ありがとうございます。家はそれほど離れていませんので…………では、娘を少しの間よろしくお願い致します」
「いってらっしゃい、おとうさん!」
お互いに手を振り合い、この場を後にする若い男性を笑顔で見送ると……女の子はシスタースズシロが用意した椅子へと腰を降ろし、嬉しそうに亡き母親の衣服を抱きしめる。
片側の扉が開いたままとなっている召喚室で、去っていく若い男性の足音が完全に聞こえなくなった頃……
「…………あのね」
抱きしめた衣服に顔を
「あのね、ほんとは…………しってるの。
……おかあさんをね、たくさんさがしたの。たくさんたくさん……さがしたの。
まどからみたり、おそとにでてみたり……ごはんだっていそいでたべて、すぐにさがしたの……」
女の子は肩を震わせ、鼻水をすすりながら続ける。
「おとうさんがとなりでねてからね、こっそりべっどからでて……おそとにさがしにもいったよ。よるなら、おかあさんいるかな……って。
いつもおかあさんといっしょにあそんでた、ひろばのおおきないすにすわってまわりをみても……おかあさん、ってよんでみても…………だめだったの……
そうしたらね、おとうさんがおおきなこえではしってきて……ぎゅっ、てして……いったの」
こみ上げる
「お……おかあさんは……´とおく´にでかけてるだけだって。もうすぐしたら……おかあさんは……おうちにかえってくるって。
…………でも……それはね。たぶん……ちがうの。だって、おとうさん……ないてたの……すごいかなしそうなかお、してたの……
だから……だからね、おとうさんがいるときはね、しらないふりを……しないとだめなの! しらないふりをしてわらってるとね、おとうさんも……わらってくれるから……」
女の子の告白を静かに聞いていたシスタースズシロだったが、そこに何を返す訳でもなく……ただ、亡き母親の衣服で顔を隠し、
しばらくそのまま、
「いまのは、おんなどうしの…………えっと……うーん……あっ! おんなどうしのひみつなの!」
そして顔を上げ、シスタースズシロに指を差すと……どこで覚えたのか、女の子は使い慣れていないであろう言葉でそう言い、目を赤く
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「おとうさん! それでね、それでね……」
「……あっ!」
大聖堂の入口から放射状に伸びる、幅を広く取られた
そこをぴょんぴょんと
「あのね、おひるごはんはね……しちゅーがいいの!」
腰元から見上げる女の子の瞳に……優しげに
「ええ、そうしましょう」
「えへへ……おかあさんのにおいがするの!」
「それじゃあ、このまま市場に寄ってからお
「うん! しちゅーをたべたら、いっぱいあそんでもらうの!」
「この時間は人が多いからね、はぐれないように……ほら、おいで?」
嬉しそうに顔を
それを左手でしっかりと握ると……女の子は空いていた右手も伸ばし、隣に立つ若い女性の手を握る。
「これで、だいじょうぶ!」
お互いに顔を見合わせた若い男女の
街を
はやくはやくとせがむ、女の子の
手を引かれ、やや
つい先ほどまでこの場で形を
「━━リリー」
大聖堂の入口近くでいつものベンチに座り、通りを行き
「……なあに、ロッコ」
「さっき大聖堂から出てきた……あの家族がどうかしたのか? ずっと見ていたようだったけど……」
「…………。シチュー……」
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