006 人々が望むもの③
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まるで、光を固めたかのような見事なシャンデリア。
大きく縦に長いテーブルには、純白のクロス。
順に
……そこでは、
「あまり屋敷に帰ってこれず、すまないね」
「……お父様がお忙しいのは分かっていますっ」
手にしていたカトラリーを下ろし、そう話を切り出した男性に少女はわざとらしく
「このシチュー、
…………。ほ、ほら、今使っているグラスもこの日のために……」
どうにかして娘の気を引こうと、男性はあの手この手を使って
当の本人である少女は
「お、お嬢様……
「そんな事は関係ありませんっ」
「は…………はい……」
他の使用人達と共に後ろで静かに控えていた
その言葉が終わるより先にピシャリと少女によって言い捨てられてしまうと、
「………………」
〈カチャリ……カチャ……〉
徐々に少なくなっていく会話……やたらと耳に付き始める、食器が立てた
食事が終わった後も続いているそれを
「━━そんなに
口を
テーブルの上に置かれた、自分へのプレゼントが入っているであろう素敵な
ぴくりと反応をする、少女の
目の前にある魅力的な存在から必死に目線を
「……お誕生日おめでとう。ほら、開けてごらん?」
「…………!!」
少女の
「わぁ……!」
するりとリボンがほどけ……袋の中が
が……
先ほどまで自分が見せていた振る舞いの
「お父様が持っているような、大きな剣や盾の方がよかったわっ」
そんな少女を見て、男性は椅子から立ち上がるとゆっくりとした足取りで近付き……テーブルに戻された袋から娘への誕生日プレゼントを取り出し、両手で優しく持ち上げる。
「……私のような騎士という職に
でもね……いいかい? 騎士というのはね、剣や盾があるから騎士なんじゃないんだ。自分より弱い者を……自分が思う大切な者を守ってこそ、なんだよ?
…………ちゃんと守ってあげられるかな?」
言葉の最後に男性はそう付け足し、手にしていたプレゼントを少女へと手渡す。
「…………」
……´ありがとう´。今の気持ちを伝える事が出来る、とても簡単な言葉。
しかし、恥ずかしいであったり格好悪いといった様な自分に
プレゼントを胸に抱いた少女に、何らかの反応を期待する父親からの視線。
自分の事の様にドキドキとしながらも少女を見守る、使用人達が
それらの全てが……素直になれず、もう少しだけ時間が必要な少女の口を、内側から無理に押し広げてはその何かを言わさんとする。
「…………っ!」
室内を
逃げ場を無くしていく、少女の
そして……
「そ、そんな事言われなくても……分かってるもん!」
思いが
自分の口から出た言葉に気が付き、その顔は見る見るうちに
「……!! …………い、行こっ━━!」
ぽっぽと熱を
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「あれ……なんだっけ……?」
「……?」
「何か……何か、大切な…………」
ベンチに座ったまま、少女は少しだけ困った様な顔をして首を
「リリー?」
少女の腕の中から、その様子を不思議そうに見上げるクマのぬいぐるみ。
「大切な…………」
呼び掛けに対しての返事はそこには無く。
胸元を見つめ返した二つの瞳は、ここではない……どこか遠くを見ている様でもあった。
━━暖かな太陽の
そんなクマのぬいぐるみの体が、ふんわり柔らかとなった頃……少女の小さな手は動いた。
「……ううん、なんでもないの」
そう言って少女はクマのぬいぐるみの頭を
……少女が見せた、いつもとは違う
「…………」
真上に登った太陽。
通りを行き
ベンチに少女、胸にはクマのぬいぐるみ。
今はまだ、
今はまだ、動かなくていい。
ただただ思うがまま、自分を
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