004 人々が望むもの①
━━大聖堂二階にある
〈トントン〉
その日最初のお
「…………どうぞ」
〈カチャリ〉
「……失礼します。シスタースズシロ、こちらが午前の申請書になります」
そう言って入ってきた修道服姿の女性は、部屋の入口で一度頭を下げてからシスタースズシロがいる机の正面に立ち、
「ありがとう。確認してすぐに向かうから、先に行って街の方達のご案内をしていて
「……分かりました。それでは」
入ってきた時と同様に、扉の前で頭を下げた修道服姿の女性が部屋から出ていくと……シスタースズシロは置かれた書類を手に取り、目を通し始める。
どちらかと言えば、朝の
街の行政を担っている役人や、街全体を警備している
街の中央に位置するこのバジリカへとわざわざ
限られた時間を
申請が多く、忙しい。
申請が少なく、暇だ。
それはあくまでもこちら側の勝手な
多いのなら多いなりの、少ないのなら少ないなりのやり方で。
ましてやそこに、
……シスタースズシロの信条でもあった。
「また、あのような事が起きないようにしなくてはね。……信頼に関わりますものね」
自分に言い聞かせるように小さく
この街のバジリカでは、大聖堂を主軸に様々な建物がそれに
西側に隣接し、
召喚室前に
その場で対応にあたっていた先ほどの修道服姿の女性に声をかけ、順番待ちをしている人達に軽く
部屋の四隅に立つ、太く大きな柱。
中央やや奥には
そして、入口以外の三方の壁には礼拝堂と同じくステンドグラスが輝き……それぞれにはこちらを見守る様な形で一人ずつ、天使の姿が
「では……最初の方からどうぞ」
室内にて準備を整えていたシスタースズシロが、修道服姿の女性を通して広間で待っている街の人を呼び入れ始める……
まず最初に入って来たのは、商人風の男性。
どうやら全身鎧一式を持ってきているようで、男性は抱えていた鎧の胴にあたる部分を慎重に部屋の中央へと下ろしていく。
「申請書には[護衛用/同調率50%]とありますが……間違いありませんか?」
「ええ、大丈夫です。前回召喚して頂いたドールのうちの一体が´切れて´しまったので……今回はその補充、といったところです」
「ああ……その
「いえいえ。私も聞いたことがないものでしたからね、いい体験になりましたよ。 ハハハ 」
そう笑いながらも男性は部屋の外にある全身鎧を何度かに分け、召喚室へと運び入れる。
「それで……今回は同調率を上げるようですが?」
「はい、前回の30%だと
前回から移動時の馬車の護衛を人からドールに変えたばかりで、こちらも手探り状態でして……」
シスタースズシロからの問いに男性はそう言葉を返すと、決まりが悪そうに頭をかいてみせた。
「なるほど……分かりました。では、召喚に入りますね」
三方のステンドグラスに
「天に
シスタースズシロの祈りに
やがて、その光は召喚室全体を柔らかに包みこんでいき……最後に優しく……そして、
「……これにて、召喚は無事終わりました」
本来の明るさを取り戻した室内で、シスタースズシロが男性へと振り返る。
「今回もありがとうございました、シスタースズシロ。さあ、私達は帰ろうか」
感謝の言葉を告げた後、男性はそう言って召喚室中央に置かれた全身鎧の肩を叩くと……
まるで意思を持っているかの
……≪ドール召喚≫。
それは、バジリカにおける主要業務のうちのひとつであり、バジリカ内にある召喚室でしか行えないとされている。
ドールを召喚する際には決められた額の寄付金と
≪ドール≫は同調率が低い程、
そのため、[家庭用/産業用]は人に近い動きをさせるために同調率を高くし、[護衛用]では鎧等の材質を生かすために同調率を低くするのが一般的であった。
━━街の人々からの様々な申請も
「……次の方、どうぞ」
「…………はい」
シスタースズシロからの呼び掛けに対し、やや遅れて入ってきたのは……小さな女の子を抱え、少し疲れた表情を見せる若い男性だった。
「こんにちは!」
父親である若い男性の腕の中から、女の子が大きな声で
「はい、こんにちは。とても元気ね」
「うん!」
返ってきたその言葉に女の子は大きく
「それでは、今回の
「はい……こちらになります……」
「これは……衣服、ですか?」
「はい……これは
「おかあさんのふくなの!」
遠くを見る様な……少しだけ寂しそうな瞳でそれを見つめる若い男性の言葉を
「これはね、おかあさんがつくったふくなの! おかあさん、つくるのとってもじょうずなのー!
えーっと…………あっ! いまきてるこのふくもね、おなじ……きじ? で、できてるの!
おかあさんとおそろいでね、いちばんすきなふくなの!」
そう言って女の子は若い男性が持っていた衣服を掴み、その小さな胸の中へとぎゅっと抱きしめるのだった。
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