第285話 サエカ襲撃

 カリクガルと対決するその日の朝、サエカが襲われた。サエカを取り囲んだ数はおよそ500人。神聖クロエッシエル教皇国よりの侵略軍だった。


 10艘の大艦隊で兵を運んで来た。ジェホロ島の水軍はムスタンの危機にリングルに向けて移動中だった。クーデターと連動した見事な連携だ。


 神聖クロエッシエル教皇国軍は歩兵が主体。昨夜は精鋭の隠密部隊がユグドラシルを攻撃して、すぐ撤退している。これでエルフとドライアドをしばらく足止めできた。彼等の作戦は大成功である。


 次の目標はサエカ占領。ここには王位継承権を持つライラがいる。ライラの生け捕り、あるいは殺害。サエカの正規兵は20人という情報を得ていた。500人で包囲すれば勝てると読んでいる。25倍の戦力なのだ。


 大軍を発見したのは、城壁上で監視をしていたヒト女型のカードモンスター。先日ライラが得た古代船サルベージの収益、3億3千万チコリの一部は、結界魔道具の整備にあてられていた。すぐ犬笛が鳴らされ、城壁を包む二重結界と4つのトーチカに結界が発動する。


 来襲を知ったアデルは、まずカリンという少女を呼ぶ。ムササビ隊の訓練を受けて帰ってきていた15歳の少女である。カリンはリポップする者全員を連れて、大至急脱出路から外へ出た。時間との勝負だ。脱出路は土の家を主体とする街に必ず作られている。カナスにも3キロ程度離れた場所にいくつかある。


 今回選ばれたのは、敵から最も遠い西方の洞窟。メンバーはカリン隊長、ヒト女型カードモンスター4体(土魔法)ルビーを含むイヌ2体、スズメゴーレム2体(魔弾)、ゴーレム馬2体(魔弾)。隊長を含め11人。アデルの命令は「命大事に」だった。


 カリン以外の10体はリポップする。命の危険はない。カリンは彼ら10体にはランダムに、かつ休みなく攻めてもらうつもりだ。カリン自身は敵の弱点を隠密で攻撃する。細かい指示は不要だった。


 敵が包囲し始めた。攻撃開始である。10体の能力平均値はルビーを除いて30。ルビーはサエカの曙に参加しているので、能力値は100以上に上がっている。


 敵にとっては、倒しても15分するとリポップしてくるので、対応が煩わしい。教皇国軍は弓隊をそろえて、サエカの城壁上を攻撃した。しかし矢は総て結界に阻まれて弾かれてしまう。


 アデルは、防衛を義勇軍のクロスボウ部隊に任せた。義勇軍で戦いに志願してきたのは5000人。城壁は4面。トーチカ4つは1軍として、5軍に分け、それぞれ1000人を振り分ける。


 クロスボウは200。矢はたくさんある。アデルはクロスボウ関係に1億チコリ使って買っている。古代船サルベージの収益である。


 防具と個人用の結界魔道具も、400そろえてある。ポーション類は第6学校薬学部で豊富に生産している。


 各軍に正規兵2名を配置している。アデルの命令は「打って打って打ちまくれ」。疲れたらすぐ交替である。ここも細かな指示はいらない。


 教皇国軍は強烈なサエカの反撃に驚く。4面の城壁上と4つのトーチカからの攻撃は、20名しかいない兵からの攻撃とは到底思えないものだった。


 アデルは魔導士団の編成もしている。冒険者、各商会の護衛も含めて火魔導士が16名、水魔導士が4名。この20名の隊長にマリリンを任命して、5方面軍にランダムに配置するように命令する。


 風魔導士は6名。その中にいた正規兵を隊長とし、トーチカへの配属を命令。風魔法は城壁からだと効果が薄い。土魔導士はカシム組も含めて18名。弓士4名、投擲スキルを持つ者20名を含めて、城壁上からの攻撃を指示。隊長はカシム組のベテラン。


 ライラを含めて2名が支援魔法を持っていた。絶対危険な事をしないように念を押して、安全な場所からバフをかけるように指示。


 野戦病院の長はアリッサである。ヒーラーは34名いる。薬師も23名。しかし開戦から1時間たつのに暇である。来るのは腰痛が悪化したとか、突き指したとか、自分の武器で足を怪我したとか、兵士の昼食を作っていて火傷したとか、いつもの患者より少ない。


 各現場にポーションが十分行きわたっているので、ちょっとしたケガでは野戦病院には来ないのである。


 アリッサは副官にしばらく任せて、現場視察に出た。城壁に上がると、クロスボウ部隊は切れ目なく打ち続けている。疲れたと言って15分で交替している。城壁の各面にクロスボウは40しかなく、1000人が交替で使っている。これでいいのだ。


 アリッサも最近覚えた水魔法を練習し始めた。ウオーターバレットである。城壁上から打つと威力がある。持ってきた麻痺毒を混ぜると、面白いように敵が崩れ落ちる。


 アリッサが次に行ったのは、最前線のトーチカである。敵の布陣する場所に近接している。そこにいたのは火魔導士、風魔導士とクロスボウ部隊。魔導士たちは思い思いに打ちまくり、魔力が減るとMPポーションを飲んで、また魔法を打っている。敵の攻撃は結界で防がれるので、中には通らない。


 マリリンがノリノリである。歌って踊って、疲れるとファイアーボールを打っている。魔法を使うとMPポーションをがぶ飲み。


 アリッサが声をかけると、火魔法のレベルが3に上がったと喜んでいる。そこにライラが来てバフをかけて、全員の能力値をアップする。ライラも支援魔法を使うと、MPポーションを飲んで魔力を補充している。


 アリッサはトーチカでも、マヒ毒入りウォーターバレットを打ちまくり、日頃のストレスを発散できた。いつの間にかポイズンレインという範囲攻撃を覚えていた。張り切ったアリッサは、魔力が尽きるまで新しい魔法を練習した。


 ムササビ隊隊長カリンは、隠密を使って敵陣に潜入している。カリンはヒーラーを狙っている。既に二人倒している。近寄って魔弾を打つ。近くで打つと攻撃力が高い。それに狙っていた目に当てることができた。致命傷ではないが数日行動不能だろう。


 リポップ組は気ままな戦いである。ヒト女は後ろからストーンバレットを打っている。当たっても痛いだけだが、足を狙ってくるので動きが鈍る。そこにイヌが噛みついてくる。連携はしていないが、動きが鈍ったものは攻撃される。特にルビーは能力値が高く、ルビーに噛まれると足はもう使えない。


 上空からスズメが魔弾を打って来る。これが狙うのは顔面。当たり所が悪いと失明する。片目だけやられても弓士には痛い。


 ゴーレム馬も魔弾である。こちらは時速30キロくらいで体当たりもされる。後ろから当たられると怪我をすることもある。


 幼竜ゴドラが出陣した。矢の届かない上空から戦場を観察。数人の上級魔導士がいて、彼らが魔法を打つと、二重結界が破れて敵の矢が通る。その矢は、個人の結界魔道具に弾かれていた。


 ゴドラは上級魔導士を狙うことにした。大技を使った後はスキができる。そこを上空から急降下して、ドラゴンブレスを当てる。ドラゴンにしては弱いが、それでも人間の火魔導士レベル2相当の威力がある。近くで受けると死んでしまう。


 神聖クロエッシエル教皇国軍は、午後2時頃退却を始めた。指揮系統は崩壊し、兵士が勝手に逃げ出した。


 城門が開きアデルに率いられた軽騎馬隊20名の登場である。ムササビ隊は正面で待ち伏せだ。足止めされているうちに、後ろから軽騎馬隊がやってくる。その後ろには弓兵や遠隔攻撃魔法の魔導士たちがいる。


 船にたどり着いた神聖クロエッシエル教皇国軍の兵士は340人。3割以上が失われた。惨敗である。














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