第284話 クーデター
朝6時。チームはムスタンに再集合。朝食前の緊急打ち合わせ。
サイスから。
「国王が暗殺された。テッドからの情報で多分間違いはない。実行犯はだれか分からないが、既に逃亡している。黒幕はカナス辺境伯とナマティ公爵の共謀だろう。王妃も殺害され、王太子妃つまりン・ガイラ帝国第3皇女は捕らえられた」
一真が聞く。
「王太子の所在は?」
サイス。
「王太子の所在は不明。ナマティ公爵が宰相となった。王宮を仕切っている。ナマティ公爵は、王太子が国王を殺して逃亡中と発表した」
ムスタン救援に第1軍と親衛隊、合わせて1500人が王都アリアスを離れた。この隙にナマティ公爵派とカナス辺境伯派の第2軍と第4軍、それにカナス辺境伯の治安部隊、ザッツハルト傭兵団が一斉に王宮になだれ込んだ。
この直後の時点で、国王と王妃は殺害されていたらしい。王都に残った親衛隊500人が混乱しているうちに、王太子妃が拘束され、王太子が殺害犯人と発表された。
王太子は単独で逃走したことになっている。だれも所在をつかんでいない。テッドはすでに殺されている可能性もあると推測している。王太子の捜索の名目で、ナマティ公爵軍2000人が王都に入っている。彼等の軍事力は6000人近い。
今日11時に次男アウルス王子の戴冠式が予定されている。場所はアズル教教皇派中央教会。王位継承権はライラにもある。その話し合いもなく強引なやり口だ。ムスタン救援軍には、宰相ナマティ公爵から王都への帰還命令が出されている。合法的な命令である。救援軍は帰らざるを得ない。
サイス。
「おそらくムスタン攻撃は、国王派の軍を出兵させる陽動でもあったんだろう。ユグドラシルを攻撃したのも、エルフやドライアドを足止めするためだ。手際のよいクーデターだ」
リビー。
「カーシャストは動いていないのか」
サイス。
「ン・ガイラ帝国皇女を人質に取られていて、動けない」
一真。
「実によくできたクーデターだな。これでアウルスが正式に国王になれば、国王派だった軍も新国王に従わざるを得ないだろう」
サイス。
「ただもうすぐカナスに動きがある。こっちも仕掛けていて、砂漠都市同盟300人が、カナスを攻撃する。辺境伯嫡男のマクロが無血開城をすることになっている。そしてカナスのセバートン王国からの独立と、砂漠都市同盟への参加を表明する」
一真。
「テッドが動いたのか?」
サイス。
「テッドは相手の動きを知っていて、このタイミングで逆に仕掛けている。すでにだいぶ前から、マクロとフローズン・ローズを寝返らせることに成功している。カリクガルはそれをまだ知らない」
一真。
「それじゃ、カナス無血開城の知らせを聞いたら、カリクガルはカナスに急行して、事情を確かめようとするな。ムスタンの戦線から離脱する」
サイス。
「そこをチームで、待ち伏せして、一気にカリクガルを討つという作戦はどうだろう」
カリクガルが少数の護衛しか連れていないことはめったにない。幻像のミスリルゴーレムは昨夜討ち取っていて、厄介なのがいない。たしかにチャンスだった。
ケリーが10歳になってギフトスキルをもらったらカリクガルと対戦する。それがチームの暗黙の合意だった。しかし戦いのチャンスを逃すわけにはいかない。
それにこの機会を逃すと、チームの存在がカリクガルにばれる。ミスリムゴーレムを倒したからだ。カリクガルに対するチームのアドバンテージは、こちらの正体を知られていないことだ。そのアドバンテージを失うわけにはいかない。やるしかない。
まず朝食だ。ジュリアスがカナス軍から兵糧を奪い取ってきていた。それをぜいたくに使った朝食である。チームが備蓄して、この日のために準備してきた料理もある。ルイーズたちとも情報交換しながら、料理を分け合って食べる。
朝食後、準備に入る。まず作戦の確認。低温攻撃演習はもう終わっている。呪化・浄化攻撃も、ミスリルゴーレム戦でほぼ実践済み。毒攻撃のみ未経験だが、ぶっつけ本番でやるしかない。
カリクガルに毒薬をどうやって投与するか。毒攻撃に残された課題だった。これはケリーが黒竜攻撃の時にやった、シュビー2にマジックバッグを持たせ、単細胞レベルに縮小させる作戦をとることにした。
シュビー2を200に分裂させ、毒薬3種を50体ずつ。氷聖石を50体に持たせて、体表の穴という穴からカリクガルにに侵入させる。女性にやるような作戦ではないが、今回は見逃してもらおう。
あとは各自の分担を確認。ケリーはカリクガルの位置を常時監視。ファントムは一旦ハルミナに戻り、リンクしている人に危険を周知し、リンクし続けてくれる人たちに、無料バーベキューパーティーを手配すること。ハイポーション飲み放題。エリクサーも準備。
サイスはS機関で情報収集。ムササビ隊の拠点を巡回。ファントムとサイスは戦闘中もムスタンにいて、連絡とムスタンの防御支援。ここでも重要な作戦がある。
一真とワイズは待ち伏せの場所を選定。ルミエは小さき者の枝を発動し、小さい人たちから能力値を借りておく。リビーは1号に憑依してもらう。
レニーは休憩。ジュリアスはアシュラキャットを内部召喚。全員にエリクサーと神の乳ブースターを配布。ケリーはシュビー2と薬品、氷聖石などの準備を確認。
直接攻撃するメンバーは、能力値、特に理力はカリクガルを越えている。魔石喰い。木の瞑想。ケンタウロスの瞑想。能力値スクロールによる5%アップ。ネスト。3倍速。進化の実。様々な努力を重ねて、チームは間に合ったのだ。
ルミエは小さき者の杖で、能力を借りる。ベルベルを内部召喚すれば、カリクガルを越える。ベルベルも王者のムチで能力値を上げている。レニーはブルースと玄武、氷雪ドラゴンをペルソナにしている。
ジュリアスはタマモの杖で、ランダムスチールのスキルを得た。これで能力値は十分上がっている。さらにユグドラシルに、アシュラキャットを内部召喚できるようにしてもらった。二人を合わせると能力値は1100を軽く超える。
リビーには1号が憑依する。1号はネストを利用して進化を繰り返し。今や能力平均値は単独で1000を超えている。一真とメドゥーサも神の乳ブースターを使えば1100をぎりぎり超える。
能力値がカリクガルの1100に届かないものもいる。ケリー、ワイズ、サイス、ファントム。彼等には能力値がカリクガルより高い必要がない。
ケリーの役割は200体のシュビー2を風で送り込むだけ。ワイズは反物質攻撃をせざるを得ない時は、1号に憑依してもらう。
サイスとファントムはカリクガルとの戦闘現場にはいない。だから彼等4人の能力値は、カリクガルを越える必要はない。
カリクガルとの戦闘の後、勝敗はどうあれ、チームは解散する。セバスの提言で、チーム解散時のメンバーの能力値は、300以下にすることに皆同意している。
必要以上に強いことはかえって危険なのだ。権力者に利用される可能性もある。ジンウエモンやカリクガル、マリアガルはそういう悲劇だ。
人間の限界は350程度だろう。かつての勇者アーサーの能力値平均は350だった。それを越えた力を持ったら、人間でいられなくなるかもしれない。
1号はいくつかに分裂させて、ちょっと強いモフモフにしてあげたいとワイズは思っている。
大きな力を持ったリリエスは、普段能力値平均100ぐらいで暮らしていた。それ以上能力値があると肩が凝ると言って。みんなその姿をよく覚えている。
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