第283話 深夜のミスリルゴーレム戦

 ミスリムゴーレムは諦めない。城壁攻撃を延々と続けている。おそらくカリクガルが城壁を破壊しろと命じているので、使命を完了するまで続けるのだろう。


 避難する住民を攻撃されなくて助かった。ルイーズたちが交替で結界の張り直しやリペアをしているので、均衡は崩れない。しかしこのままというわけにもいかない。


 深夜チーム全員がムスタンに集合する。戦況を分析する。今は城壁を疲れを知らず攻撃しているミスリムゴーレム。能力値の平均は770。火魔法をはじめ、普通の魔法は無効だ。素材がミスリムなので、物理攻撃もほとんど無効。


 チームがカリクガル対策に用意している、低温攻撃や毒攻撃も効きそうにない。残るのは呪化・浄化攻撃。これを試すしか方法はない。


 ケリーのサーチで、近くにカリクガルと魔導士団がいるのは分かっている。彼等がなぜ攻撃に参加しないのかは分からない。何かのタイミングを待っているのかもしれない。


 カシム辺境伯の正規兵1500人が、ムスタンに向けて進軍中。今は野営をしている。それをブラックジュエリー軍団のリポップするメンバーがしつこく攻撃中。


 総攻撃はおそらく明日の昼過ぎになる。王都からの援軍1500人は到底間に合わない。ミスリムゴーレムとカリクガル、魔導士団、1500人のカシム軍。これが明日総攻撃を仕掛けて来たら、勝てないかもしれなかった、


 そこにドライアドの念話で、エルフの里が襲われたという連絡が来る。ユグドラシルに火矢が射られたらしい。


 これでどこにでも実体化できるドライアドの援軍はすぐには動けなくなった。ただ現役のベルベル隊と卒業生の合わせて6人が来てくれた。そこにジーマがタマモを連れて来てくれた。


 ジーマとベルベル隊は全員エロスの神弓持ちだ。追尾のモジュールと必中のグローブを併用すれば、相当な戦力になる。タマモは動物スケルトンを使役できる。術を使う近辺で死亡した動物のスケルトンを使う。その数は無限に近い。


 さてチームで厄介なミスリムゴーレムを攻略する。単体でいる今がチャンスだ。まずアシュラキャットの斧攻撃と小次郎の居合という物理攻撃を試す。小手調べだ。


 次に呪化・浄化作戦を仕掛ける。これが本命の作戦だ。ケリーとレニーは寝てもらう。リビーは一旦モーリーズに帰って、領主の務めを果たしてもらう。サイスはディオンに戻って、S機関としての情報収集をする。ファントムはブラウニーダンジョンで、レンタル警備隊の業務に専念する。明朝再集合だ。


 すでに黒ネコ合唱団はバフ・デバフの歌を始めている。最初だけ音声ありでやってもらっている。神光明大勝王経のチベット語訳をホーミーで歌っている。1人が二つの声を出す不思議な発声法だ。カードモンスターのホイッスルが鉦の音を出し、フラッシュが怪しい炎を出している。


 同時に暗黒月蛾が呪月光のデバフをかける。カードモンスターの木霊が音響にエコーをつけて本格的に荘厳だ。ハリティと手の空いたものは、アリアの右眼の幸運のバフ、左目の不運のデバフをかけている。


 ベルベルも月光のデバフをかけ、六魔の杖を起動している。少しづつミスリルゴーレムに効き始めているかもしれない。


 最初に挑むのはアシュラキャット。神光明大勝王経をはじめクロネコ合唱隊の音声はサイレントモードになり、静寂が広がる。ミスリムゴーレムはアシュラキャットに向き直る。


 地中から、土の大きな手を出てくる。ワイズだ。ミスリムゴーレムの足ををつかんで止める。1秒しか持たない。


 ミスリムゴーレムは、アシュラキャットを正拳突きで攻撃する。腰のしっかり入った良い突きである。アシュラキャットは素早く避けて、すれ違いざまに、ミスリムゴーレムの腕を斧で切り落とそうとする。


 しかし鋼の斧ではミスリムは切れない。ジュリアスが粘糸でミスリムゴーレムを縛ろうとする。粘糸は絡みつくが、ミスリムゴーレムの強大な力は封じることができない。まるでゴムのように粘糸が伸びる。


 数合打ち合って、アシュラキャットは退く。能力値の差が数倍あり、相手は魔法鉱物ミスリルなので予想できた結果だ。


 次が小次郎だ。手に持つのは鋼切りの業物。鉄なら切れる。居合の構えで待ち受ける小次郎に、ミスリルゴーレムが襲い掛かる。スピードは速い。その方が小次郎には良い。


 金属音が響く。刀は1センチくらいは食い込んでいる。しかし浅い。ミスリルゴーレムは怪力で刀を弾く。小次郎は吹き飛ばされた。やはり技をもってしても、ミスリルを断ち切ることはできない。


 一真はメドゥーサに憑依している。ワイズの神の乳ブースターで能力値を引き上げて、メドゥーサと合わせると、ミスリムゴーレムより高い。思いを込めて、呪化をかける。


 効いた手応えがない。鑑定するとミスリムゴーレムは既に呪状態だった。幻像の魔法は呪術だったようだ。呪の状態は深まったはずだ。


 ルミエは小さき者の枝はまだ使わない。それはカリクガルのためにとっておく。鎮静のスキルで動きを止める。ワイズが地中の手で補助する。今度はミスリムゴーレムは止まる。


 ジュリアスが紫の糸を空中に出す。頭からミスリムゴーレムを拘束していく。浄化の攻撃が効いている。しかしHPはリンクで補充だれている。


 ミスリムゴーレムの腕が下がり、紫の糸が両腕を胴体の脇に縛り付ける。拘束は成功しつつある。


 一真がミスリルの糸で、紫の糸を補強する。二人の糸には、切れないというジュリアスの魔法描かれているいる。


 ミスリムゴーレムは鎮静スキルで無気力化している。ルミエがスキル強奪に成功する。スキルは怪力とリンクしかなかった。これでリンクが切れて、HPだけでなく様々な力を奪い取れる。


 無力化したミスリムゴーレムをマジックバッグに入れて、この世界とは次元の違う空間に移す。カリクガルの幻像スキルがとけた。ミスリムゴーレムはただのミスリルになった。


 紫の糸とミスリルの糸を回収した。ネストに入れる必要もない。貴重な1トンのミスリルである。半分をテッドの限定オークションに出した。


 半分はチームの防具をミスリル製にグレードアップするために使う。忙しいグーミウッドをさらに忙しくするが、彼なら喜んでやってくれるだろう。


 リングル魔導士団には休んでもらう。明日はカリクガルとカナス兵との決戦になるはずだから。まだ寝る時間は数時間ある。


 厄介なミスリムゴーレムは始末した。明日はいよいよカリクガルとの決戦になる。低温攻撃、毒攻撃、呪化・浄化攻撃の3本立てだ。


 カリクガルの強みはリンクとアバターでの事実上の不死にある。だがリンクには弱点がある。


 カリクガルがリンクしている配下はそんなに多くない。ザッツハルト傭兵団のジル達ですらリンクしていなかった。


 おそらくカリクガルは配下を信用できないのだ。リンクを逆用され反乱を起こされることを警戒している。だが明日は1500人の兵士にリンクを使うだろう。


 そこを利用する作戦を立てた。この作戦が上手くいけば、カリクガルは自らリンクを切らざるを得ない。そのためには1500人は数を減らしてはいけない。夜襲は物資だけに限定だ。


 チームのみんなは寝るか、休憩だ。不眠の呪いを自らかけているジュリアスは眠らない。カナス兵に夜襲をかけているブラックジュエリー一家に合流する。


 作戦はカナス兵を減らさないである。戦闘は一旦停止。物資だけを狙う。


 ジュリアスと軍団はカナス軍の野営地に近づく。見張りは毒薬で眠らせる。30分もしないうちに見張りは眠る。


 ジュリアスが、荷車ごとマジックバッグに入れていく。輜重の中身は食料と武器だ。すべてムスタンに運び込む。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る