第278話 学校対抗武道大会

 第1試合にはバーバラが出る。相手は第2学校の2年生女子。試合開始と同時に相手が青龍の姿の業炎を放ってくる。バーバラは笑顔でそれを受け、死んでしまう。一瞬で蘇り、笑顔のままだ。身代わりのアミュレットである。


 相手の火魔導士は大技を放った直後なので、わずかな時間動けないでいる。バーバラは近づいて、彼女の左手に触る。小さな針にマヒの薬物が塗ってある。魔法の試合であっても、アイテムや毒物の使用は特に問題はない。


 バーバラは胸元から布の袋を取り出し相手の上空に投げ上げる。魔法でかなり高く上がる。大粒の宝石が、袋から大量にこぼれだして美しい。


 それらが急に回転し始める。バーバラの風刃のスキルだが、回転するだけでなく、宝石が次々に小爆発を起こし、まるで花が咲くようだ。


 相手の女性は、鋭くとがった宝石の砕片で衣類が引きちぎられ、あられもない姿にされている。肌を露出していた腕や首、くるぶしは既に血まみれだ。もちろん顔をも。


 降参したくてもマヒしているので口はきけない。


 数分もしないうちに下着まで引きちぎられ、完全に全裸になり、血まみれになった。バーバラは風刃を解除し、宝石のかけらをリペアし、観客に向けて50個余りの豪華な宝石を放った。


 誰も拾わない。バーバラはロゴス商会の使用人に拾い集めさせる。会場では全員沈黙して、動きがない。死ぬと退場になり蘇生やヒールがかけられる。敗北を自分の口で認めればそこでも試合は終了だ。だがまだ生きているし、マヒしているので口はきけない。


 試合時間が終わるまで奇妙な沈黙が続いた。沈黙が気まずくてバーバラは叫ぶ。


「カシム・ジュニア。告白する。あんたと結婚したい。第2夫人でも第3夫人でもいいから、結婚して。私と結婚したらロゴス商会もついてくるわよ」


 普通なら観客はどよめくだろうが、血まみれで、しかも血を流し続ける美女がいる状況だ。観客は凍結したままだった。


 バーバラは判定勝ちとなった。圧倒的に勝ちたいというバーバラの願いはかなった。優勝候補の第2学校の1人目が負けた。


 第2試合はカシム・ジュニアと闇魔導士の女性、サバシだった。カシム・ジュニアは満面の笑みである。賭けに勝った。他の二人なら、ルイーズの弟子の火魔導士だ。もし彼等に当たれば、全力で戦うしかない。そして勝敗がつく。


 カシム・ジュニアの狙っているのは、観客に恐怖を与え、かつ勝たない事である。それができるのは、この闇魔導士だけだった。この情報を得るために、カシム・ジュニアはカシム組の諜報能力の全力をあげた。莫大な金も使った。


 ファントムから購入したスキルは模倣と偽装。情報も買った。武道大会に出るメンバーの情報である。すべて無駄になるかもしれないがカシム・ジュニアは、情報は金がかかることを理解している。


 やはり強敵は第2学校のルイーズの弟子たちだった。4人のうち3人は火魔導士。1人が闇魔導士。試合で火魔導士に当たったら、全力で戦う。それが同門対決のマナーだ。


 闇魔導士と対決できたら、やりたいことがあった。そのために2週間かけて、リングルを訪問し、偽装して自ら情報を集め、対策を練った。奇跡的に1回戦で第2学校に当たり、第2試合で闇魔導士サバシと対決することになった。4%の確率に勝った。


 サバシは髪の長い女だ。試合開始の合図。カシム・ジュニアは様子を見た。いきなりシャドー・バインドをかけられた。立ったまま動きがとれない。


 サバシは近づいてくると、いきなりスカートをめくりあげ、形の良いお尻を見せた。パンツにはウサギの絵が描いてある。口で


「ブー」


 とわざわざ言う。


 黄色い煙が噴き出してきて、サバシは自分の鼻をつまんでいる。黄色い煙は猛毒である。観客は緊張が一気に弾けて、爆笑である。


 爆笑が収まると、観客はざわめく。シャドー・バインドを解いて歩き出したのも、サバシだったからだ。壇上にサバシが二人。


 もう一人のサバシは、本当のサバシにシャドー・バインドをかける。立ったまま動けないサバシ。近ずいた偽サバシが背中を見せてスカートをめくる。パンツにはクマの絵が描いてあり、煙は青い。こちらは無毒。


 観客はさらに爆笑である。偽サバシは自分のコーナーに帰るとサバシへのシャドー・バインドを解除した。怒り狂ったサバシは、長い髪を逆立てて20本にまとめ、それを蛇に変える。メドゥーサに似ているが、顔が美人のままなのがかえって怖い。蛇から打たれたのは強力なダークバレットだった。


 偽サバシは連発されたダークバレットを平然と素手で消す。何事もなかったように偽サバシも髪を逆立て、蛇からダークバレットを打った。


 本当のサバシはこのダークバレットを躱した。マジックバッグに隠してあった丸いパンのようなものを右手に持って、偽サバシに向けて走ってゆく。


 鏡のように寸分たがわず、偽サバシもサバシに走る。二人は全く同時に、相手の顔に持っていたパンのようなものを投げつける。二人の顔はクリームにまみれて間抜けである。ここで時間が来て引き分けになった。


 第1試合が凄惨だったので、第2試合がコメディで会場は和んだ。同じことしかしていないのだから、引き分けが妥当だと観客は思った。


 だが各学校の教師はこれがどんなに恐ろしい魔法なのか、十分にわかっていた。相手に完全に偽装することがまず難しい。


 相手の魔法をスキルを、完全に模倣するのはもっと難しい。とんでもない準備が必要だ。時間と金が必要なだけではない。相手をはるかに凌駕する才能と努力が必要なのだ。


 特にルイーズは、サバシの魔法がどんなに凶悪か知っている。それで権力を使う不正でカシム・ジュニアにサバシをあてた。致死性の毒ガス、強力なダークバレット、最後のクリームは硫酸ゼリーだった。受け流すには完璧な対策が必要だった。


 それをカシム・ジュニアは対戦する可能性のある25人全員にやっていたのだろうか。ルイーズは弟子ながら、カシム・ジュニアを敵には回したくないと恐怖した。


 第3、第4試合は見どころもなく、第6学校が一瞬で負けた。第2学校の2勝1敗1引き分け。順当な勝ちだった。結局武道大会の魔法部門では第2学校が優勝して大会は終わった。


 大会の後カシムジュニアは実家に帰る前に、ヨミヤの治療院に立ち寄った。聖女代理達にスキルをコピーするためだ。


 聖女代理達は患者の手を握っている。自分の身体に傷をつけ、血を流している。患者の痛む部分と同じところを傷つけているのだ。こうすれば代受苦のスキルが発現すると信じて。


 患者の痛みは消えている。痛み耐性のスキルをかけられているからだ。1週間は痛みがない。昔ケリーがやっていたのと同じだ。


 無料であるが、壊れたものを寄付しなければならない。この無意味なシステムに、意味を与えるためにカシム・ジュニアは来たのだ。聖女代理たち数十人に、代受苦のスキルをコピーした。


 模倣のスキルはカシム・ジュニアにも安い買い物ではない。しかしロゴス商会が半分出してくれることになった。カシム・ジュニアとバーバラの婚約のお祝いだ。


 引き換えにバーバラに模倣のスキルを渡すことになっている。ロゴス商会1千人、その家族を合わせると数千人が、リテラシー、計算をはじめ、武技や魔法のスキル持ちになる。


 もちろんカシム組にもそれ以上の恩恵がある。特に聖女傭兵団は限界まで強化するつもりだ。一般のカシム組組員も強化される。ゴーレム馬やカードモンスターだって強化できる。


 それだけではない。ハルミナのリオトやヴェイユ家のダレンなどから、兵士の強化を請け負って、莫大な利益を得るつもりだ。リングルやムスタンだって、あるいは国王だって、兵士のスキルでの強化に金を出すに決まっている。元は取れる。

 

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