第275話 ムササビ隊
ピュリスのダレンは森の特殊部隊の創設をテッドに相談した。テッドはリオト、カーシャスト、リビー、アデルに呼び掛けて合同の特殊部隊創設にこぎつけた。
指揮権はS機関のジーマが持つことになった。名前はムササビ隊。各地から推薦された兵士と、ダレンが募集した狐獣人10人、ハルミナの索敵隊から半年間の契約で4人借りた。
ジーマはドライアドで、ベルベル隊に所属していたが、新しい道を求めてディオンの大図書館で図書館司書になった。そこでサイスにS機関に引き抜かれたのである。それが森の特殊部隊の隊長に。ジーマは変転を楽しんでいた。
ムササビ隊が永続機関になる可能性は低い。どの領主も籠城戦を想定している。籠城した場合、外部からのゲリラ的な攻撃が欲しいのである。あるいは同盟国が援軍に来た場合、それを導いてくれる部隊が欲しい。
緊急に特殊部隊を養成したい。別々に育成するのは効率が悪い。育成は合同でいい。指揮権がドライアドというのも良い。どこの領主とも深く関係がなさそうだ。
ジーマは有能である。ムササビ隊に集まった兵は35名。ピュリスから5名。サエカが3名。ヴェイユ家の合計は8名になる。
ハルミナから5名。ニコラスから3名。ジェホロ島から2名。ピートから3名。大雑把にまとめればフラウンド家から13名だ。
あとはモーリーズから3名。ディオンから2名。狐獣人が10名いる。 これにハルミナから半年の契約で借りた索敵隊が4名。これを出身別の5隊に分け、各隊に狐獣人2名を配置し、索敵隊を各隊の隊長とした。サエカとモーリーズを合わせた隊は6人で例外になった。サエカから来たある人物を隊長にした。
その隊長はベルベル隊にいたクミーツである。彼女は第5学校医学部に入学して医者になろうとしていた。休学してムササビ隊に入ってくれた。
ドライアドは人化する時、好きな姿になれる。しかも世界中どこでも実体化できる。寝なくていいし、念話もできる。特殊部隊に最適なのだ。
本拠地はアビルガ牧場の南端に作った。広い平原である。各領主からも、程よく離れている。
ジーマはまず基礎能力の不足を補う。夜目、隠密、魔弾、犬笛のスキルがないものは、サイスを介してジュリアスに頼んで刺青した。装備は猿手、猫足、マジックバッグ(小)。
訓練は味方が籠城している場合を想定する。城壁を囲んでいる敵に気づかれないように近づき、一斉に攻撃して素早く逃げる。敵を倒す必要はさほどない。敵に気を休める時間を与えないのが目的だ。
近くの平原に城壁の模型を作り、レンタル警備隊からカードモンスターを借りる。城壁警備、籠城の両方にレンタルした人を配して、籠城戦の状況を作る。
各隊が隠密で近づき、すぐ逃げるという訓練をする。1週間もやれば飽きる。2週目からは早朝や夜襲の訓練を取り入れる。同時に採点制を取り入れて、優秀部隊にはガチャ券を与えた。ギャンブルは飽きない。
3周目からはレンタル警備隊からリス、スズメのゴーレムを導入。彼等はケリーのゴーレムで、隠密を持っているだけでなく、攻撃が必ず当たるという魔法陣を刺青している。強者である。
犬も加えて、小隊をさらに2分割。兵士は交代で国内の各地の視察旅行をさせる。乗馬技術の向上、土地勘、マッピングスキルの育成が目的だ。
2か月で訓練も一巡した。各地に拠点を作る。本部はアビルガ牧場。ここにジーマがいて、ドライアドのクミーツを隊長とするサエカ隊を置く。最南端は王都近郊、次はピート南方にピート隊。ここが先端のセンサーになる。
ピュリス隊はテルマ村郊外。ハルミナ隊はハルミナ南方のユートン村。ニコラス隊はサヴァタン山山頂。5カ所の拠点を置いて、まず通信と周辺の索敵。
訓練は3種類。近くの町や村が籠城に入った時、隠密で移動し、外側から攻撃する訓練。拠点近くを敵軍が通った時、後ろからの攻撃訓練。輜重部隊を攻撃する訓練。
3か月後からハルミナから借りている索敵隊員4名を、2週間間隔で返していく。代わりに兵士から隊長を選抜。リスやスズメのゴーレムも、一般的なコオロギゴーレムやゴーレム馬に入れ替えていく。
新規募集をして狐獣人5名、各国兵8名を補充。ベルベル隊からも2名参加があった。必要な刺青をしてサエカ隊と一緒に本部で訓練。
新兵は1か月後各隊へ配属。入れ替わりに少しずつ兵士を領主の下に返す。各都市で独自の索敵隊や森の特殊部隊を育成してもらう。狐獣人もピュリスに少しずつ返していく。
レンタル警備隊でも、隠密部隊を育成し、ムササビ隊に順次派遣してくれるようになった。隠密部隊の数がそろえば、小都市でも訓練を受けた兵士を核に、森の特殊部隊を作れる。
4か月を過ぎるころには。リングル、ムスタン、ニューリングル、カシム組の聖女傭兵団からも、訓練希望者が来るようになった。チーム内ではブラックジュエリー一家が訓練を希望して来た。
徴兵制をとっている自由都市では、ムササビ隊での訓練を希望するものを派遣して来た。義勇軍制の都市でも希望者がいて受け入れた。
ジーマは拠点を2つ増やした。王都近郊のハルミナへ向かう街道と、テルマ村である。将来的にはすべての拠点は、各領主や自由都市に運営してもらう。
セバートン王国は中央集権制ではない。各領主の独立性が高い。いざ戦争がはじまると、同盟国内部でも統一指令部はできないだろう。一方チームはその頃、カリクガルとの戦いが終わって、勝敗に関わらず解散している可能性が高い。
S機関のサイスも同じ意見だ。サイスはチーム解散後を考えていた。サイスは戦いの前線に残るつもりだ。大図書館の館長は継続する。S機関の長も続ける。テッドとは少し距離を取るつもりだ。
配下には幻像のファントムがいる。ファントムは拡張したサイスである。ファントムの下にイワン。その下にレンタル警備隊がいる。これは直属武力だ。
S機関にはタマモがいる。彼女が自分の配下でいるかどうかは、ダキニ次第だ。ジーマがどう動くかはベルベル次第。この二人は手放したくない。手放したとしても協力していきたいものだ。
チーム解散後、リビーは前線に残る。孤立しているようでいて、ケンタウロスとリザードマンの支持がある。グーミウッドたちドワーフの信頼を得ている。森の守護者という公的地位もある。リビーは強力だ。
ジュリアスの力も大きい。ブラックジュエリー一家も侮れない。ジュリアスの母の狐獣人ネットワークやカシム組とのつながりもある。ジュリアス自身もダキニの加護を受けている。
そしてミーシャの存在だ。ミーシャはリビーの異父妹のはずだ。希少なケンタウロスが、この地域に二人もいたはずがないのだ。この縁でリビーとジュリアスが結びついたらすごいことになる。
そしてワイズ。彼女はワイドとして世界的な薬局網を築いている。エリクサーを年に100本作れることだけで、大きな影響力を持つだろう。そこに一真が加わる。一真の異世界の知識は強力な武器になる。彼等が前線に残るかどうかは分からない。
ベルベルは前線に残るだろう。ベルベルにはドライアドを解放するという大きな夢がある。彼とベルベル隊は戦局を左右する力がある。特定の領主と同盟したらそこが覇権を握る。今のところその気はないようだが。
ルミエ、ケリー、レニーはどうするか分からない。戦いの場からは去るのかもしれない。それもいい。
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