第273話 レニーの結界

 玄武のペルソナを手に入れたレニー。二重結界の内側、ゴーレム馬のブルースが張る結界を、玄武のペルソナ結界に変更した。外側は氷雪ドラゴンのペルソナで変更はない。


 アイテムも使うと、内側の結界の防御力は1300になった。しかし内側の結界の攻撃力は300しかない。玄武は攻撃を内包している大蛇に任せていた。並列思考ができるペルソナだった。大蛇は攻撃ではなく、結界の修復、再生に専念してもらう。


 カリクガルの能力値平均が1100になった。だが防御力が1300あれば、レニーの結界が破られることはないだろう。


 攻撃は外側のペルソナの氷雪ドラゴンに任せる。レニーの攻撃力との合計で1050。今のところわずかに足りない。これくらいはあと1年で上げることができる。


 レニーは新しい体制での実戦訓練を計画した。セバスに問い合わせる。プリムス北方の浅い森にゴブリンキングの集落が作られたそうだ。集落の壊滅を依頼された。


 ゴブリン集落に完全結界を大きく張って、中に閉じ込めれば逃がすことはない。問題は氷雪ドラゴンがブリザードで低温にしすぎると、森の植物などに悪影響があることだ。


 ゴブリンなら、ブリザードは弱めにして、物理的な毒針攻撃で殲滅する作戦が良いとレニーは判断した。


 移動は簡単だ。ブルースにレニーが乗って、プリムス北方に行くだけだ。オオカミ型モンスター(通称イヌ)もついてくる。


 マジックバッグの中にゴーレムやカードモンスターが入っている。総勢30体くらいだ。


 カードモンスター等は野営地に着いたら出す。いつもはレンタル警備隊で働いているので、仲間で遠出するのは久しぶりである。今回は攻撃の主力が自分たちなのでみんな張り切っている。


 野営地につくとトブトリやヒト男、イヌが偵察に出る。焚火もするが、寝たり食べたりするのはレニーくらいなので、実はあまり必要がない。


 偵察の結果、集落の規模を確認。1300体以上の大規模集落だった。ホブゴブリン以上の上級種も100体以上いて、スタンピードをおこせば、1万人の都市なら滅亡しそうな状況だった。


 レニーはゴブリンに気づかれないように、半径4キロの大きな二重結界を作り、1体も逃がさないようにした。はぐれが結界近くに来たら、カードモンスターたちが倒す。


 総攻撃は明日の朝6時。それまで決して気がつかれないようにとの厳命である。


 翌朝6時。日の出前に攻撃開始である。すでに3時間かけて結界をゆっくり縮めて、集落だけを囲むようにしてある。


 ゴブリンたちはいつも以上の冷え込みに、震えながら起き出してきた。そこに毒針攻撃が始まる。ゴブリン集落は大混乱に陥った。


 しかし1分後、毒針攻撃は一旦止む。数分後再開され15分ぐらいで中のゴブリンは、上級種も含めて壊滅した。


 毒針攻撃が一旦止んだのは、レニーたちがフォレストウルフの群に襲われたからである。結界は二枚ともゴブリンの集落に使っていた。レニーとブルースは無防備だった。慌ててブルースの結界を、自分達の周りに張り直すのに1分かかった。


 立て直してすぐ、ゴブリンとフォレストウルフの両方を毒針で攻撃した。毒針攻撃自体は以前より強くなっていた。キラービーのカードモンスターがクイーンのペルソナを得て強力になっていたからだ。もはや吹き矢というレベルを超えて、銃に近くなっていた。それも連射できて、弾丸が追尾する高性能マシンガンに近い。


 コオロギやカードモンスターたちも大きくレベルを上げて、魔石やドロップも多かった。攻撃は全体的には成功だった。


 反省もいくつかある。フォレストウルフの攻撃を受けたことだ。これは単純な事故ではなかった。氷雪ドラゴンからは報告があった。ブルースの結界を解除して、レニーたちの本陣に張り直した1分間にゴーレムを1体逃がしていた。


 かなり高位のゴブリンメイジだったらしい。昨夜のうちに結界に気がついて、テイムしていたフォレストウルフの群に、攻撃開始と同時に本陣を襲わせ、その隙に自分だけ脱出していた。


 脱出方法も高次だ。1重になった結界に内と外から、同時に突撃した。同じ境界にゴブリンメイジとフォレストウルフが存在する。そのごくわずかな瞬間、身代わりスキルを使用して脱出したらしい。


 ゴブリンメイジ1体と、フォレストウルフの群は取り逃がした。しかしゴブリンキングの大規模な集落は殲滅したので、プロジェクトは一応は成功した。報酬は莫大だった。


 レニーは攻撃用の2重結界とは別に、自分たちを守るもう一つの結界の必要性を痛感していた。今までも、時々2重結界を張れない場面があった。


 この課題を解決してくれたのは一真である。スキルの魔道具化は、一真の得意分野である。レニーの結界スキルを魔道具に移し、魔石エネルギーを利用して結界を発動させる。


 個人を守る規模の小結界を作れば防具の代わりになる。数人規模、数十人規模灘など魔石の大きさを変えれば規模は自由自在である。


 チームメンバーの防御は、メタルと紫の布によるパワードスーツが基本だ。石化と結晶化で皮膚自体を強化することもできる。


 スキル的にはリンクがあるし、生贄スキルも使える。これ以上の防御は不要に思えるが、レニーは個人用と10人用の2種類の結界魔道具を採用した。過剰防御だが、臆病なレニーなのでしょうがない。


 結界魔道具の生産はグーミウッドの妻、天才魔道具士のリーゼに委託された。リーゼは魔道具を市場に売り出す天才である。市場が何を求めているか敏感だ。


 リーゼは大規模な結界魔道具を作ったのである。戦争の気配が近づいている。人々は自分たちを守ってくれるものを求めていた。まず採用されたのはリーゼの住むモーリーズだった。


 領主の森の守護者リビーが、町の防御用に買ってくれた。都市を結界で守る。常時発動でなければランニングコストは高くない。コオロギゴーレムが警報を発した後で結界を発動すればいいのだ。


 ピュリスのような大都市で、中小の規模の都市で、さらには集落を外れた孤立した農家でも採用された。

   

 それだけではない。グーミウッドが高級防具のオプションとして個人用の結界魔道具を売りだした。これが大ブームとなった。小型化に成功して小さなペンダントにしか見えない。


 グーミウッドの商魂たくましいところは、このペンダントをリビーの横顔にしたことである。人々は道具に何かの神秘的力を求める。美しすぎるリビーはその美しさと、同時に強さでも知られ始めていた。


 しかもベネチアングラスで素顔を隠している神秘性。森の守護者という何か特別感のある地位。まるで女神のような神々しさがあった。


 それを利用することでこの結界ペンダントは、実用性以上に人気を博したのである。もちろん実用的にも役に立つ。ある程度以下の攻撃は弾く。


 オークの攻撃なら1回は弾ける。実際上普通の人がオーク以上のモンスターに出くわすことは希である。せいぜいスライムかゴブリン程度が多い。それならこの結界魔道具で十分なのだ。


 戦争でも1回は矢を防げる。最初の一撃で不意打ちされて死ぬ兵士は多い。それが防げるだけで効果は大きい。


 結界魔道具はある程度以上の力が加わると破られる。万能ではない。破られても、半分以上の衝撃を削いでくれる。死角がないから、後ろからの不意打ちも防ぐか、被害を半減してくれる。


 ヴェイユ家の正規軍が結界魔道具の採用を決めた。グーミウッドの工房は大忙しになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る