第272話 古代船のサルベージ
ケリーは今日は海でのトレジャーハンティングの予定だ。海でのゴミ漁りである。古代戦艦プリムを見てケリーの心に火がついた。
サーチすると、ジェホロ島とサエカの中間地点の海底に1隻沈んでいた。今日で2回目である。海での古代船のサルベージは、既に1回成功している。
1回目で、手順は確立している。サーチで位置を確定すると、ウィンドサーフィンでそこまで行く。スライムのシュビー2を海底の沈没船に送り込み、船をリペアする。リペアで船の穴はふさがる。
シュビー2は既に能力平均値が200を超えている。様々なスキルを導入できるようになっていた。リペア、拡大・縮小もある。普段はレンタル警備隊の強者部隊にいるが、必要な時はいつでも優先的にケリーの下に来る。
船がリペアされると、船倉に入り、シュビー2はそこで拡大スキルで巨大化するのである。柔らかい体なので船倉全部をシュビー2が充たす。いわば風船が膨らんだ状態になる。
その間にケリーが風の糸を船体に巻き付け、シュビー2風船によって浮き上がってきた船体の上昇を助け、風の力により移動させる。
1回目はここで失敗したのだ。風の糸に負担をかけすぎて糸が切れてしまった。慌ててジュリアスを呼んで、糸の指輪に「絶対切れない」という魔法陣を描いてもらった。
ジュリアスも自分の糸の指輪に同じ魔法陣を描いていた。あとで一真の指輪にも同じ魔法陣を描いたそうである。これで3人の糸は切れることが無くなった。
一旦海上に出ると、シュビー2はもとの大きさに戻る。たいていの場合長い時間のうちに、船はダンジョンになっている。
そこでケリーはコオロギたちを出す。コオロギやカードモンスターのダンジョン戦が始まる。ケリーのカードモンスターは、やはりレンタル警備隊で働いていて、能力平均値は30に統一されている。しかし悪魔イワンの日ごろの訓練によって戦い馴れている。
そこにシュビー2やケリウマ、ケリー本人も加わると、古代船に棲みついたモンスターたちは、ちょうど良いレベル上げの相手になる。
今日はナターシャとミーシャの母娘が一緒にいる。冬のウィンドサーフィンを楽しみに来たのだ。ナターシャは海産物の仕入れと、新メニューの開発を兼ねている。
ミーシャは冬休みだ。ミーシャは読み書き計算が完璧なので、3年生に飛び級している。計算は珠算に、読み書きは文章作成に進んでいる。夏には卒業できるのだが、友達がいるので、来年も学校に通う予定らしい。
ミーシャはこの海の経験を絵本にする予定だ。ヨアヒムが2代目館長になっているピュリスの図書館に寄付するつもりである。ミーシャはこの図書館で司書のアルバイトをしているし、次の図書館長なので、蔵書を増やすのに今から熱心だ。
小学校での3時間目は、ダンジョン攻略にあてられている。ミーシャは既に大人と同じダンジョンの3階層まで進んでいる。武器、防具、アイテムなど、母親と姉のジュリアスの過保護で、十分に装備されている。冒険者としてもFランクである。
ナターシャも狐獣人特有の予感スキルを持っていて、ダンジョン経験は豊富である。ただの娼婦でも、ただの実業家でもない。簡単に言うとナターシャは鍛えられた女性なのだ。
今日の海は気持ちがいい。ウィンドサーフィン初心者でも問題ない。ケリーの風魔法で適切な風が吹いてくれるので、快適に目的地に進んでいく。
沈没船の真上に来ると、シュビー2を海中に放つ。3人は周辺をのんびり走って楽しむ。ケリーは並列思考中。風の糸で船体をくるんでいる。
古代船がすっかり建造時の造形を取り戻して、上がってきた。3人は古代船に乗りこむ。
さっそくスケルトンの来襲である。やはり船はダンジョン化していた。ミーシャは身体強化して、剣で倒し始める。この歳でもう身体強化が使えるのだ。しかも狐獣人とケンタウロスのミックス。勘が鋭く、力が強い。どこかリビーと似た戦い方である。
ナターシャは火魔法とヒールを交互に使っている。どちらもアンデッドに有効な魔法攻撃だ。彼女は冒険者としてはEランクだ。経営者の兼業としては十分強い冒険者だ。
ケリー軍団も効率的に戦う。モンスターはゾンビに変る。戦いかたは変らない。アンデッド戦を継続だ。船倉の一番奥からクラーケンが出てくる。クラーケンは大きなイカにタコの要素を加えたモンスターだ。
これがダンジョンボスだろう。ケリーが動く。座標を指定すると、2本のミスリル糸が空中に出現する。糸が回転して、巨大なクラーケンを1分かからずにぐるぐる巻きにする。
クラーケンは物理攻撃だけで、魔法は持たないようだ。ならば必要以上には傷つけない。クラーケンは食べると美味しいのだ。ミーシャの剣でとどめを刺す。
ケリーはダンジョンコアを探す。ダンジョンコアは貴重である。見つけるとマジックバッグにしまう。ブラウニーに渡して、ポータブルダンジョンの予備として保管してもらう。
宝箱は古代の宝石類。ナターシャとミーシャに好きなのを選んでもらった。二人とも喜んで大粒の宝石を数個手に取った。今日の戦いの報酬はそれだけでいいという。
ケリーはコオロギたちと協力しモンスターの解体、魔石収集。ナターシャはクラーケンの解体に興味津々で参加してくれた。時々食べて味見をしている。
ケリーは船の内部にあるものを戦利品としてマジックバッグに入れる。これらはブラウニーに渡し、リペアしてテッドのオークションに出す。かなりの収入になるはずだ。
収入的に見れば、この船自体が高額だ。船はこのままジェホロ島のウィルに引き渡す。これでウィルの所有する古代戦艦は3艘になる。船の名前はこないだはリリエスにしてもらったので、この船はアリアにしてもらう。
ウィルは海のマップデータを作成中である。ワイズとドライアドたちが作った陸のマップデータと同じ様式で、ただ海流や岩礁の位置が分かるような形で、着々と海の地図が作られている。
船の数は多いほどいい。ウィルは1億チコリ以上の高額で買ってくれるとケリーに約束している。もちろん戦争に使うことが前提である。古代船は風魔法で動くので、風魔導士がたくさん必要だ。ケリーも勧誘されているが、応募するつもりはない。ケリーには集団というものが合わないのだ。
あと数隻は古代船のサルベージをしようと思っているケリーだ。船自体も高いし、宝箱の中身も良い。魔導書が出てきたり、宝石なども豪華である。彫刻などの美術品が出てきたりする。
魔導書や古代語の本はサイスに寄付することにしている。古代語の研究は今、砂漠の図書館とディオンの図書館の2カ所が中心になっている。世界中の古代語学者がこのどちらかに集まってきている。
今までは古代語の研究は神聖クロエッシエル教皇国のルシアットが中心だったが、完全にとってかわったようだ。ともかく蔵書数が違いすぎるのだ。
この世界では今の時代より、古代の方がすべてにおいて優れていたと考えられている。だから古代研究の中心が移ったことは、長い目で見ると、学問研究の中心が移ったことになる。国の格付けまで変わるかもしれなかった。
古代の聖剣やその他の武器防具類。魔道具の類も豊富に出てくる。これらは一旦グーミウッドか、その妻のリーゼに渡すことにしている。新しい武器や魔道具の進歩につながってくれたらそれでいい。
昼はジェホロ島で食べる。ケリーが今日用意しているのは、カキとカニ。それに今採れたクラーケンが加わる。
いつもの焚火以外に、二人に見せたい調理法がある。カードモンスターの鏡を巨大化して、曲面を作り、太陽光を集中させて焼いてみる。そのために用意したのが、この世界ではほとんど食べられていないカキという貝だ。昼しかできないが、面白い調理法なので、きっと二人は喜んでくれると思う。
ナターシャなら、カキのおいしさが分かって、新メニューを開発してくれると思う。
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