第271話 一真の検証
一真はクロヒョウゴーレムの1号に、分離スキルを導入してもらった。分離スキルは、カリクガルがエルフの勇者パーティーに使ったスキルだ。チームでも1体化して強化しているペアは多い。
ルミエにベルベルを内部召喚してもらう。精霊召喚には外部召喚と内部召喚がある。内部召喚した場合、精霊の能力値やスキルが加算され、並列思考状態になる。格下のものが格上に勝つためには有効だ。
1号がルミエに分離スキルを発動すると、1体化していたベルベルが、ルミエからはじき出されて呆然としていた。エルフたちと同じだった。予想された結果である。
もしこのスキルを知らずにカリクガルと対戦していたら、チームは敗北していただろう。それが分かっただけで、ユグドラシルの暴走は大きな意味があった。
ジュリアスとアシュラキャットの場合も同じだった。ジュリアスはユグドラシルへ依頼して、アシュラキャットを内部召喚可能にしてもらった。ジュリアスは、分離を予想していたから平静だった。
1体化するために憑依というスキルを使っている場合はどうだろうか。これは一真がメドゥーサに憑依したり、1号がリビーに憑依して使っている。
一真がメドゥーサに憑依した場合。分離のスキルをかけられても、一体化は解けなかった。内部召喚のスキルは従来の魔法言語をそのまま使っている。憑依は新言語への自動翻訳の対象になっている。そのために違いないと一真は予測する。
従来の魔法言語で憑依スキルを使うと、一真はメドゥーサから分離された。穴だった。それが分かれば対策は簡単だ。内部召喚のスキルも自動翻訳の対象とする。それだけで分離スキルは無効になった。
ピピンがもたらした他のスキルは、氷獄、凍結、夢処刑、幻像、アバター。氷獄はリビーに使ってもらう。他は既に持っているか、似たようなスキルがあった。自分たちで使わないなら、同盟者に提供しても良い。
エルフの勇者パーティーが敗北した要因はもう一つある。カリクガルの幻像だ。ミスリムゴーレムは強力だった。能力値平均だけ見れば今は800くらいになっているだろう。物理攻撃。魔法攻撃無効で、リンク付きだ。魔法は使ってこないようだ。
カリクガル対策は遠隔魔法攻撃と考えていたので、ミスリムゴーレムへの対処方法はあまりない。あったとしても、破壊してしまえばすぐ次の一体を出されるだけで倒したことにはならない。そこが厄介なところだ。
破壊していいならワイズのアンチ土魔法、反物質爆弾で破壊できる。だが破棄しないで、生きたまま?行動不能にしなくてはならない。
一真の予想では、多分糸術が使える。粘糸やミスリル糸を使ってぐるぐる巻きにするのがいいのではないだろうか。あとは単純な落とし穴とか、投げダンでどこかのダンジョンへ行ってもらう。一真が抱き着いてネストに送り込むという手もある。
あるいはルミエの鎮静スキルで、物理的な運動を不可能にするという手もある。一番いいのがサイスの幻像スキルで、ミスリムゴーレムの支配権を奪う。これはできるかどうか不明だ。
一真の結論は、これらの複合戦術だ。ミスリルゴーレムを糸でぐるぐる巻きにして一時的に拘束する。鎮静で動きを止める。カードモンスターを犠牲にしてネストに連れて行き、そこに閉じ込める。これで多分大丈夫だ。念のため凍結もかけると良いかもしれない。
さてカリクガルをどう倒すか。能力値平均が1100になったことが分かったのは良かった。
それにカリクガルはエルフの勇者パーティーに対策をしていた、分離という新スキルを開発していたのがその証拠だ。敗北した原因を大局的に見れば、情報戦で負けていた。
カリクガルは我々のチームのことを知らないと一真は推測する。ディオニソスをさらったのも、マリアガルをさらったのもエルフたちだと考えているはずだ。
カリクガルは最大の敵をエルフと考えていた。その戦力を削ったことで慢心してくれるとありがたい。慢心していないとしたら、次に狙われるのはハルミナのルイーズではないだろうか。世界で2番目に強い魔導士。強力な魔導士団を率いている。
ルイーズたちから仕掛けることはないだろう。しかしカリクガルがハルミナを襲い、ルイーズたちを潰しておこうと考えることはありそうだ。
ルイーズにアバターをあげると良いかもしれない。しかしチームからというのは、情報漏れを考えると怖い。ユグドラシルから、ルイーズへというラインで、スキルの協力をしてもらうのがいいと一真は思う。
さて問題を戻してカリクガルをどう倒すか。ミスリムゴーレムと比べて、彼女の弱点は生きているということだ。生命の維持が必要だ。それを阻止すれば倒せる。
例えば呼吸。レニーの完全結界で酸素の流入を止めればいつかは死ぬ。ただヒールを使ったり、アバターを使えばけっこう長い時間がかかるだろう。
有望なのは低温攻撃だと一真は思う。結界ペルソナの氷雪ドラゴンの氷雪ブリザードは有効だろうか。玄武を倒したとき、ルミエは鎮静で空気の分子レベルの運動を弱めていた。あるいは気圧を低下させて、気温を下げていた。
ルミエやレニーに科学知識はないはずだが、直感的に科学的に正しい攻撃をしていた。温度や気温についての科学知識を持たせれば、絶対零度近くまで気温を下げることができるかもしれない。
それに氷聖石というアイテムも有効だ。さらにリビーの氷結や低体温というスキルもある。カリクガルへの魔法攻撃が無効だとしても、空間それ自体を低温化した場合、生命であるカリクガルは死ぬのではないだろうか。
次にワイズの毒物攻撃。3種類あってどれかは効くかもしれない。ただどうやって体内に注入するかはまだ解決できない、皮膚に塗布すると言っても、素肌を露出させているはずがない。霧にして吸わせるのも呼吸を止められたら不可能だ。ヒールを使えば呼吸を止めても生きていられる。
第3が一旦呪化して、浄化スキルで攻撃をするというもの。メドゥーサと一真のコンビ、ルミエとベルベルのコンビ、両方で攻めたら呪化できるかもしれない。それに黒ネコ合唱隊のデバフがある。
呪化された存在に、浄化をかけた場合ダメージを与えうる。カリクガルにも有効だろうか。例えば呪化されたカリクガルをジュリアスの紫の糸を巻き付けた時、封印できるのかということだ。この攻撃方法は、やってみないと分からない。
テッドから一真への呼び出しがあった。場所はBarセバス。
「よう一真。久しぶりだな」
「テッドも忙しそうですね」
「まあな。早速だがユグドラシルから、カリクガルとの戦いの映像データをもらってね」
「僕も見たいです。あとお願いもあって」
「コピーをあげる。それとお願いっていうのを先に聞いておくおくかな」
「カリクガルの次の攻撃目標はリングルのルイーズだと思うんです。それでユグドラシルからルイーズに、アバターのスキルを援助してもらえたらと思ったんです。テッドなら二人を仲介できるんじゃないかと思って」
「なるほどいい読みだな。すぐ念話する」
ユグドラシルは了解してくれた。
「それでね、Fと子供たちの件なんだ」
「フローズン・ローズとその娘のパンセ。カリクガルの息子マクロもですか」
「マクロの気持ちを映像から読み取ろうとしたんだ」
「マクロって普通の男の子ですよね」
「うん。だからこそ自分の母親がやっていることをどう思っているかってね」
「母親のやった今回のことを喜んでいたら、マクロも相当な変態ですね」
「だよな。パンセも引いていたと思う。それにFの気持ちだ。Fも娘の気持ちに引きずられている可能性がある。それ以上にマクロだな。リッチになったら、これがひどくなるんだ。そう思ったらマクロだって、自分の母親を憎まないかな」
「あり得ますね」
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