第263話 観光

 ピュリスで、ヴェイユ家の諮問会議。出席はいつもの5人。領主の長男ダレン。執事バトロス。ドワーフの名鍛冶グーミウッド。狐獣人の実業家ナターシャ。サエカのメイド兼学生のマリリン。


 グーミウッドはプリムスから、鉱山都市モーリーズに移住した。マリリンはサエカのアデルのメイドを続けているが、第5学校の教育学部に通い始めた。


 ヴェイユ家にとって、しばらく諮問会議どころではなかった。ライラ姫が次男アデルと結婚した。アデルは男爵から子爵になった。


 めでたいが危険な事態だ。ヴェイユ家は長く中立派だった。それがはっきりと国王派に属することになった。それも国王派筆頭の立場である。ナマティ公爵とサエカ辺境伯、セバートン王国2大貴族の両方と対立することになった。


 大急ぎで、すべての村の城壁を整備し、トーチカも設置。夏の始めの今、それがやっと完了した。今なら大軍で攻められても、籠城すれば、すぐには負けない。


 城壁警備にはカードモンスターを雇っている。レンタル警備隊というファントムが経営する会社だ。金はかかるが、すべての村に兵士を置く人手がない。滅ぼされるよりはいい。金はサエカで生産する塩の税収で賄える。


 水路も整備できた。ヴェイユ家の南端フィリス村までが予定水路だった。しかしさらに南のピート村まで水路を伸ばした。ピートはセバートン王家領である。


 ピートにはン・ガイラ帝国から来たカーシャストという武将がいる。ン・ガイラ帝国第3皇女が王太子と結婚した。その護衛の武将がカーシャストである。


 セバートン王国の戦争は、王太子と皇女の結婚によって先延ばしできた。これがなければ、ナマティ公爵のクーデターで王位は奪われ、ピュリスも無事では済まなかった。


 しかし戦争の危機は去ったわけではない。戦争は1年半後と予想されている。その時、最初に攻められるのはピート村のカーシャストだろう。ヴェイユ家はその援軍に行かねばならない。


 カーシャストはリオトの兄だから、ハルミナ軍も援軍に出る。ピュリスもハルミナも、籠城だけではなく、攻撃も考えなくてはならなくなった。


 諮問会議は執事バトロスの情勢報告から始まった。それが終わると、ダレンが発言。


「しばらくぶりだった。みんな忙しかったようで、なかなか諮問会議開けなかったが、何か提言することあったら、何でも言ってくれ」

  

 マリリン。


「サエカが素晴らしいきれいな街になりました。それで私が提言するのは、世界中の人にサエカを見てほしいんです」


 グーミウッド。


「そんなにきれいなのかい?」


 マリリン。


「宝石よ。エルフの宝石も売っているし、宝石珊瑚も売っているけど、サエカの街全部、街が宝石になったの。サエカを見て死ねっていうくらいきれいだわ」


 ナターシャ。


「サエカにも狐食堂支店開店してるので、死ぬ前に来てほしいわね」


 ダレン。


「ディオンの神殿も中々きれいだと思う。きれいというよりすごい迫力だ。まだ見てない人は行くべきだな」


 バトロス。


「こないだ行ったハルミナの聖女教会大聖堂も良かったですぞ」


 マリリン。


「それで水路もできたことだし、ピュリスやハルミナを巡る船での観光を売りだしたらどうかと思って」


 ダレン。


「そんなことをしたらスパイがたくさん来そうだな」


 マリリン。


「どうせ来るなら、金を落とさせる。それが私の提言」


 グーミウッド。


「いいと思う。モーリーズにも来てほしいもんだ。お土産に最高のナイフ買ってもらいたい。買ったやつはビビるぞ。ここでは最高の武器が作れるんだってな」


 ダレン。


「それじゃ、バトロスが業者選定して、進めておいて。そうだ王太子と皇女を招待して宣伝してもらおう。そっちも準備よろしく頼む。他にあるかな」


 グーミウッド。


「俺の提案は地味なんだがな。ペレットストーブの大きいのを作ったらと思うんだ。超どでかいストーブで、町全体を温める。ヴェイユ家の町はみんな土の家で気密がいい。パイプで温水を循環したらどうかな」


 マリリン。


「目につかないってだけで、十分派手な計画だわよ。薪の節約になるし、薪買えなくて凍えて死ぬ人いなくなるわね」


 ナターシャ。


「パイプを作るのが難しそうね」


 グーミウッド。


「そこはおいらたちに任してもらおうか。ナージャ鉱山で銅が発見されてね。パイプにはそれを使いたいと思っているんだ。森の守護者リビーの許可ももう出ている」


 ダレン。


「よしやろう。なんでもできる時にやる。それが俺のモットーだ。それじゃ次」


 ナターシャ。


「こないだダキニシティへ行ってきたの」


 グーミウッド。


「知っているぞ。狐獣人とドワーフが一緒に暮らす街だ。俺の友達は船大工になったらしい」


 ナターシャ。


「そうなんだよ。もともとダキニという狐獣人の祖霊がそこにいて、ダキニの神社を中心に村があったんだ」


 マリリン。


「古都ですか?」


 ナターシャ。


「湿原の傍の寂れた街さ。神聖クロエッシエル教皇国から狐獣人は追い出されて、行くところがなくってね」


 グーミウッド。


「ドワーフに対する差別もひどい。おれは教皇国嫌いだな。アズル教自体嫌いだが」


 ナターシャ。


「しかも悪いやつに祖霊のダキニが捕まって、地下に捕らわれていたんだ」


 ダレン。


「それは大変だったな」


 ナターシャ。


「それを助けたのが、私の長女ジュリアスだ」


 執事バトロス。


「泥炭発見した索敵隊隊長ですな」


 ナターシャ。


「それで村が復活してね。そこにドワーフが移住してくれて、ダキニシティになったんだ。ドワーフは船大工が多くて、町の産業は造船業」


 ダレン。


「船はほしい。水軍にも水上交通にも」


 ナターシャ。


「友好都市になっちゃくれないかい。ピュリスとダキニシティ」


 バトロス。


「遠いですな。世界の東と西の端です」


 ナターシャ。


「定期航路をン・ガイラ帝国の首都ビスクへ延ばすだけでいいわよ。陸の道もある。ダキニシティからドワーフの支配地域を抜ける。そこにトールヤ村がある。そこからエルフの支配地域の南を抜ける道よ」


 ダレン。


「ピュリスにメリットはあるか」


 ナターシャ。


「狐獣人は気配察知やサーチが得意なんんだ。索敵隊に使っちゃどうかなと思って」


 グーミウッド。


「ドワーフにとっては良い話だ。陸の道でエルフとドワーフがつながる。ドワーフの若いもん呼ぶとき、船や道でつながっていると便利だし。ピュリスは良い船が買えるぞ」


 ダレン。


「悪くない話だ。でもダキニは何を求めているんだ。ピュリスはダキニに何を与えればいいんだ」


 ナターシャ。


「今、ヴェイユ家はセバートン王国の先進地域なんだ。町づくりの方法を学びたいと言っていた。具体的には留学生を送りたいらしい」


 マリリン。


「観光にも来てほしいし、大学にも来てほしい。ダキニシティも学校の先生が必要になるから、サエカにも来るといいわ」


 グーミウッド。


「モーリーズに来たら、俺が教えるぞ。鉄の精練とか、武器の作り方とか。プリムスにも学校の分校できたから、そっちでも鍛えてもらえる」


 ナターシャ。


「索敵隊の訓練もしてほしいらしい。ピュリスにとって悪い話じゃない」


 ダレン。


「ナターシャには何かいいことあるのか」


 ナターシャ。


「ダキニシティに食堂を出店している。いい魚がとれるしね。だけど金だけじゃないのさ。国を持たない狐獣人にとって、何かの時に逃げ込める街があるのは安心なんだよ」


 ダレン。


「定期航路をビスクまで伸ばすことはもう決まっている。それを早めよう。留学生が来るなら歓迎する。索敵隊は10名募集しよう。森の特殊部隊を創設するつもりだったからちょうどいい」


 グーミウッド。


「船は買わないのか」


 ダレン。


「5艘注文しよう。できれば船員付きで」

 





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