第256話 レンタル警備隊

 ブラウニークランから人が減っている。薬師を目指す人々はほとんどがジュランと共にサエカへ移動した。サエカに第5学校の分校ができ、そこに医・薬学部ができて、ジュランが薬学部教授になったからだ。


 ブラウニークランでは魔導書を使った教師の育成を既に始めていた。第5学校分校には教育学部もできた。教師を目指していた人々もサエカに移動した。大学は授業料が無料なので、生活費があればよい。学生になった大多数はブラウニーダンジョンで稼ぐことをやめていない。


 水軍の拠点がジェホロ島にできて、多くの人が水兵見習いとして、そこに雇われた。海賊の下働きをしていた人など、海になじんだ人たちは水兵への道を進みはじめた。


 漁民で魚だけでなく、宝石珊瑚をとって生計を立てようと考えている人たちも10人くらいいた。彼等もジェホロ島に移った。


 鉱山の街モーリーズでは、鉄鉱石から鉄を作る働き手を求めていた。ナージャ鉱山では鉱夫を募集中だ。労働条件はどちらも良好だった。獣人差別もない。そこへ移る人たちもいた。


 ディオンには第5学校の本校が移転し、働きながら学べると評判だ。ブラウニーダンジョンでリテラシーを得た人々の中には、さらに学んで成り上がろうとする人々もいた。


 狐獣人には祖霊のダキニから、新しい村建設への協力の呼びかけがあった。熊獣人シルベスタは、妻のカエリに家族3人で移住したいと言った。シルベスタには妻の気持ちが分かっていた。カエリは苦境にある狐獣人の村を救いたいのだ。しかし苦労するのが分かっていて、シルベスタに言い出せないでいた。ブラウニーダンジョンからダキニの狐獣人の村への移住者は11人いた。


 冒険者として一人前になって、故郷に帰る人もいて、ブラウニークランの人数が減ったのである。それでもまだ260人はいる。


 だが260人のうち100人は、ハルミナのブラウニー関連企業に勤務している。ワイドの薬屋や、ブラウニーダンジョンで採れた武器やアイテムを販売する店だ。武器は完全リペア済みなので人気がある。


 パン屋も一真のレシピで白くて柔らかいパンを売っている。最近の人気は焼きそばパンだ。アンパンジャムパンも人気である。他にもいろんな場所でクランのメンバーは働いていた。


 ダンジョンに入って、モンスター討伐をする冒険者が不足し始めた。ファントムはコオロギゴーレムやカードモンスターを冒険者の替りに使うことを検討した。


 しかしコオロギゴーレムやカードモンスターの数は増えすぎではないだろうか。ファントムは2年後の先を考えている。


 フラウンド帝国ができることもないとは言えない。カーシャストの軍事力は強大だ。デアシャストは若くて天才的な騎馬隊指揮能力を持っている。リングルのルイーズは世界1の魔導士になっているだろう。そしてリオトには人望がある。


 老いてまだ元気なフラウンド元男爵は砂漠都市をまとめ上げることができる。全員兵士の砂漠都市の住民は10万。フラウンド帝国はありうる。


 ヴェイユ家がセバートン王国を乗っ取る事だってありうる。ライラがいれば国王の継承権はあるのだ。ライラが女王。理想家のアデルを摂政にして、実権は宰相であるダレンが握る。強い国ができそうだ。


 でも両方実現したら、ヴェイユ家対フラウンド家の内戦になるかもしれないのだ。ファントムが怖れているのもそこなのだ。


 その時戦いの雌雄を決するのは、コオロギゴーレムやカードモンスターであってはならない。ファントムはこれ以上コオロギゴーレムやカードモンスターを増やすことは危険だと思う。


 一方チームではどうだろうか。ジュリアスは使いこなしている。ブラックジュエリー一家と称して、彼等の力でマゲズドン傭兵団を潰し、アンキデ組も潰した。カードモンスターだった、アシュラキャットは、いまやチームの正式メンバーである。

 

 これ以外のチームメンバーは、ゴーレム馬やコオロギゴーレム等、カードモンスターを活用しきれていない。一部では持て余していると言っていい。


 つまり3つの側面がある。第1はブラウニーダンジョンの人手不足。ゴーレム等がここでは必要とされている。第2はヴェイユ家、フラウンド家がこれ以上ゴーレム等を増やすのは危険だということ。第3はチームにはゴーレム等を持て余しているものがいる。


 チームで余っているゴーレム等を、ブラウニーダンジョンに回して活用する。かつヴェイユ家、フラウンド家へのゴーレム等の販売は今後禁止、あるいは制限する。これが一般的解決法だ。


 外部への販売を制限すると言っても、カードモンスター以外はチームで作っているわけではない。ゴーレム馬はドライアドのダンジョンメニューで売っている。ドライアドのダンジョンに加入しているリオトやカーシャストは自由にゴーレム馬を買える。


 スライムを増やすには分裂させるだけだ。民衆の生活必需品になっているから、もう販売を制限するのは無理だろう。犬も既に繁殖し始めていて、コントールは不可能だ。


 コオロギゴーレムなどは、グーミウッドとリーゼの工房で制作販売している。ただアイデアはレニーであり、制作方法はワイズの考案だ。グーミウッドに協力してもらい販売を停止、あるいは制限することは可能だ。


 つまりチームが販売をコントロールできるのは、コオロギゴーレム等とカードモンスターになる。そして戦力の中心はここである。ゴーレム馬とスライム、犬は放置しても大きな影響はない。


 ファントムはレンタルで警備隊を考えている。顧客はヴェイユ家、フラウンド家、ボルニット家の各領主、あるいは自由都市。砂漠都市連合。カシム組に限定する。カナス辺境伯等の敵勢力への流出は防ぐ。


 レンタル警備隊は平時の警備での使用を原則とする。戦時になった場合でも直接戦闘はしない。既に販売済みのものはしょうがない。


 顧客は彼等の育成を考えなくていいので楽である。能力平均値は30にしよう。10歳児並みだが、リポップするので大抵の仕事はこなせる。


 顧客とは別にブラウニーダンジョンの討伐もレンタル警備隊として受ける。冒険者160人は、自由に好きなダンジョンを攻略する。それを補うようにレンタル警備隊が、手の足りていないダンジョンを攻略する。


 ブラウニーダンジョンの一部には能力平均値30では無理な場所がある。そこを攻略する強者部隊を作ろう。能力平均値100あれば大丈夫だ。人数は20体いればいい。


 チームメンバーからもレンタル警備隊として仕事を受ける。生贄としてだけ使いたいとか、数をそろえたいとかはこれで十分だ。ファントムの頭の中で構想が固まっていく。


 ジュリアスは例外だ。ブラックジュエリー一家は集団戦法なので、今後それを磨いてもらう。アシュラキャットを加えて、面白い戦い方ができるかもしれない。


 ケリーは窮地に追い込まれたときに仲間を呼ぶだけだ。戦い方の中に、馬やゴーレムが組み込まれているわけじゃない。彼には攻撃の火力が不足している。今後は仲間を活用する戦法を開発すべきだとファントムは考える。


 レニーはブルースと一緒に戦っている。それはうまく機能している。今は攻撃手段として、カードモンスターのジャイアントキラービーを使っている。ずっとこれでいいのか。使い続けるとしたら、ケリーのところにいるクイーンと統合したらどうか。


 ルミエはカリクガル戦にはベルベルを内部召喚して戦うことになる。木霊のカードモンスターを買っていたが、まだうまく活用できていない。この二人はいろいろな魔法を使うので、木霊の魔法反復スキルが活用されたら、可能性が一気に高まるかもしれない。

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