第255話 アシュラキャット

 ユグドラシルは困惑した。ジュリアスがランダムスチールのスキルを持っていたとは知らなかった。卑怯者と思ったが、自分たちもピピンが模倣を持っていることを隠していた。非難はできない。


 賢者ピピンが模倣を失っては戦力半減である。これを取り返すのが最優先。

 

 アバター、精霊召喚、ハイキュア、洪水、吟遊詩人、ファイアーニードル、アシッドファイアー、各種ポイズンファイアー、ファイアーブレス、ファイアーアロー、高熱火壁、メテオ、高体温。


 多くのスキルの流出が推測される。対策をしなかったユグドラシルの落ち度である。交渉にはピピンを向かわせる。必要に応じてユグドラシルと念話する。交渉相手はジュリアス。


 ユグドラシルは試合に勝たなくて本当に良かったと思っている。勝ってルミエをエルフパーティーに引き抜いた後だったら、交渉はこじれたはずだ。


 ジュリアスは対応を任されていた。ユグドラシルは同じ陣営の仲間である。カリクガルと戦うには協力関係を維持しなくてはならない。チームとしては、代償なくすべてを返してもいい。ジュリアスが欲しいものがあったら、何かもらっても問題ない。


 場所はピュリスのパープルアイ。ナターシャの経営するティーハウスだ。茶ではないが、いろいろな飲み物がある。若い女性に人気の店である。


「ジュリアス。元気だった」


「心配なのはあなたの方ね。大失態だよね」


「正直死にたい」


「まあそこまで意地悪はしないわよ。でもタダとはいかないわ。友達というわけでもないし」


「でも同じ陣営の仲間だよね」


「カリクガルを倒すまでは仲間よ。同じ敵と戦っている仲間」


 一時的に手を組んでいるだけだと、ジュリアスは牽制する。


「模倣は返してほしい。私の大事なスキルなの」


「返すけれど、タダじゃない」


「エリクサー1本」


「いらない。私たちエリクサーを作ったの。今90本くらいある」


「まさか」


「代償は保留ね。次に流出したスキル一覧をそっちから示して」


 ピピンはユグドラシルから渡されたメモをジュリアスに渡す。緊張で手が震える。交渉に失敗したら、エルフの勇者パーティーの損失は大きい。特にピピンが模倣を失うことは致命的だ。


「この一覧表だけでいいのかな」


「まだあるっていうの。ジュリアス」


「精霊召喚だけじゃなくて、サラマンダーとの契約方法も私に流出している」


「それじゃ、ジュリアスはサラマンダーと契約できるってこと」


「多分。まだ試していないけれど。それにこれを応用したら他の大精霊とも契約できるかもしれない」


「それは困る。マジューロがサラマンダーを失ったら悲惨な事になる」


「返さないとは言わないわよ」


「優先順位2番はそれ。サラマンダーとの契約」


「細かいスキルは返さなくてもいいよね。返せって言うなら、一つ一つ代償をもらうけど」


「大きいのだけ返してもらえばいい」


「どうしても返してほしいのを言って。5つ」


「模倣。サラマンダーとの契約、アバター、洪水、メテオ」


 大技すぎて、模倣以外はチームでは使いこなせない。模倣もチームにはスキル強奪があるからなくてもいい。でもエルフパーティーにとって、大技の流出は避けたいだろう。これらの返還を拒めば、ユグドラシルとの関係は修復できなくなる。


「他は権利を放棄してもいいわね。ユグドラシルにも確認して」


 ピピンはユグドラシルに念話した。


「確認した。それだけで十分。ただしスキルのコピーを取らないでほしいと言ってる」


「コピーは取ってない。信用してもらうしかないけど」


「わかった信じる」


「全部まとめて、代償を要求するわよ」


「どうぞお手柔らかに」


「試合の時、美少年がいたの覚えている?」


「細マッチョで切れ長」


「あれアシュラキャットっていうんだけど、私はあの子を内部召喚したいの。それが代償。安すぎるかしら」


「5つの大スキルそれで返してもらえる?」


「できたことを確認したら、5つをスクロール化してあなたに返す。5分で終わるわ」


 ピピンはユグドラシルにもう一度念話する。


「ユグドラシルに頼んだ。15分待って」


「そう」


「もうできた」


 さすがユグドラシルである。ジュリアスはうれしさをこらえて言う。


「内部召喚」


 できていた。ジュリアスの中にアシュラキャットがいる。ピピンにはあらかじめ用意してあった、5つのスクロールを返す。


 アシュラキャットの能力値は、運以外全部100。同格の同盟者である。みんなに連絡してメンバーの一員として認定してもらった。


 チーム共有の刺青は、索敵隊総合スキルも加えて、ジュリアスがした。最後に「君は美しい」という魔法陣を追加で描いておいた。


 ちなみにこの時刺青されたスキルを再確認しておこう。順不同である。


 念話レベル2 表計算レベル1 リンク リテラシーレベル1 

 カード型記憶レベル1 身体強化レベル1 毒耐性レベル1 限界突破

 センサー(ライト版) ドラゴンブレス(1%)  吹き矢(魔法矢)   

 偽装レベル2 犬笛 竜の咆哮レベル1 ハンドサイン 隠密 追跡

 乗馬 敏捷ブースト 狼煙 マッピング 絵画  伝令 

 ゴーレム馬ブースト 木登り(猿手装備) 忍び足(猫足装備)

 迷彩装備


 各種アイテムも豪華だ。


 アラーム付きの時計。成長促進2・6倍のアクセサリー。犬とゴーレム馬、コオロギなどのゴーレム20体。指輪にはミラージュの指輪、マナスのペンダント、身代わりのアミュレット、マジックバッグ(時間経過無し、容量無制限)の機能が統合されている。


 防具は表面はメタルで硬いが、中からは自在に動くパワードスーツ。自動成長するので、使うほどに能力が上がる。


 ジュリアスはアシュラキャットに吟遊詩人スキルを導入した。チームのバフ・デバフを厚くしたかったのだ。それにありがたいことにユグドラシルの加護が付与されていた。これがあるとHPだけでなく、欠損部位の高速再生が可能になる。

 

【名前】 アシュラキャット

【種】  精霊 ジュリアスの同盟者

【年齢】 10歳

【職業】 ブラックジュエリー一家若頭

【HP】   100/100

【MP】  100/100

【攻撃力】 100

【防御力】 100

【知力】  100

【敏捷】  100

【器用さ】 100

【運】    70

【ギフトスキル】 破邪レベル1

【武技】   聖斧術レベル1

【攻撃魔法】 浄化レベル1 吟遊詩人レベル1

【その他】  木の瞑想 ケンタウロスの瞑想 魔石喰い

       並列思考 3倍速 ユグドラシルの加護(高速自動再生)


 ジュリアスは、アシュラキャットに歌える歌を聞いてみた。


「アシュラキャット。味方を元気づける歌、何か歌える」


「神光明大勝王経のチベット語訳をホーミーで」


「ちょっとやってみて」


 アシュラキャットが歌い始めた。一人で歌っているのに2つの音が出る不思議な歌だった。低い声は地獄の住人に語り掛け、高い声は天界の住人に語り掛けているのだそうだ。バフとデバフが同時に行える。


 合唱すると良いというので、カードモンスターを使って、合唱団を作ることにする。ただ戦場で音を出すと、うるさくて指示が通らないので、無音での合唱にしてもらった。


 アシュラキャットに期待するのはバフ・デバフだけでなく、攻撃にも参加してもらいたい。そのために並列思考も導入した。


 さてユグドラシルが権利を放棄した小魔法だ。


 ハイキュア、ファイアーニードル、アシッドファイアー、各種ポイズンファイアー、ファイアーブレス、ファイアーアロー、高熱火壁、高体温。


 ハイキュアは水属性の回復魔法で、特に状態異常の回復が得意だ。しかもキュアの上級互換。これはジュリアスがもらう。


 火属性の魔法が残ってしまった。この中で高体温はアンチモジュールと組み合わせると、低体温になる。氷雪ブリザードと相性が良さそうなので、リビーに勧めてみる。使ってくれるそうだ。


 火魔導士になりたい人がいないか、掲示板で聞いてみた。ファントムが食いついてきた。彼は最近ネストに入っているのだが、暇な時間で訓練する魔法が欲しかったらしい。


 ジュリアスは、手に入れたスキルが全部、誰かに使ってもらえることになって、うれしかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る