第254話 リビー対マジューロ

 リビーは1か月で準備を整えた。勇者マジューロとの戦いをシミュレート。サラマンダーを連れているなら、確実に火魔法を打って来る。リビーは氷壁を導入した。


 戦う体形は最初はヒューマン。1号に憑依してもらう。一体化して戦う練習を1か月して来た。


 1号は能力値平均が800ある。リビーの能力値が加算されると1000以上になる。唯一能力値平均で対戦相手に勝っている組み合わせである。マジューロはそれを知らない。


 防御はチーム標準のパワードスーツ。さらに自分に石化・鱗化・結晶化をかける予定だ。やってみると表面がペンタ・ダイアモンドで覆われきれいだった。念のため自動再生を導入しておく。


 リンクが使えないので、コオロギたちに生贄になってもらうつもりだ。だがリビーも1号も、コオロギたちを鍛えていない。カードモンスターもブラウニーに見繕てもらう。全員にダンジョンでの訓練を命じてある。リビーは攻撃で彼等に頼るつもりはないのだが。


 武器は青雲の短槍。杖にも見えるが、本来槍である。近接でも使う。だが魔法武器で、氷槍を出せる。氷槍は追尾のモジュールを使って打つ。座標を利用して、空間のどこでも始点にして打てる。連射も可能。


 リビーは魔法戦士なので、すべての武器にすべての属性の魔法を乗せられる。しかし全部の組み合わせを使うと、万能だが強くはなれない。氷槍がメイン。火剣が予備だ。


 魔法は氷雪ブリザードでいいだろう。今回は氷聖玉というアイテムを粉末化して、氷雪に混ぜる。相手から熱を奪い続けるはずだ。これには接着のモジュールを付与して、マジューロの身体から離れないようにする。


 1号との合体。リビーは憑依されるのは初めてだ。静かな奴で、憑依されても気配を感じない。人格が完全ではなく、自分からは何も主張しない。能力値が爆上がりするだけだ。ただ鑑定が使えるようになる。


 さて1か月後、ハイエルフとの模擬殿の最終戦だ。リビーは1勝2敗で戦いを迎えた。緊迫する試合場に、マジューロはいない。時間になったので、エンジェルは、かまわず開始を告げる。五分後にいなければ試合放棄不戦勝となる。


 マジューロが来ないので、リビーは静かに待っていた。まだすっぴんだった。最初の挨拶で石化しているのは失礼だと思ったからだ。


 開始1分後、朗々とした歌声と、ガアーズという弦楽器の華やかな音が聞こえてくる。


 マジューロは吟遊詩人のスキルで、自分にバフをかけている、観客を少し待たせて、空からマジューロの登場だ。火を吐くサラマンダーに乗っている。


 華麗な曲線の軌道で、演奏しながら飛んでいる。ガアーズから、ファイアニードルを打って来る。ファイアニードルはイルミネーションのように色が変わり華麗である。何かのショーのようだ。


 リビーは氷壁を出して、攻撃を防ぐ。きれいな火の針はアシッドファイアーだった。炎がぶつかると硫酸が飛散する。皮膚につけば爛れる。氷壁が少し溶けて変色している。

 

 女性に硫酸とは、失礼な攻撃だ。2本目以降の火の針も、各種ポイズンのえげつない攻撃だった。すべてお肌に悪い。挨拶まではとまだ素肌を晒しているリビーである。


 お返しに、氷槍の100連射を返す。目標は2点。マジューロと彼を乗せているサラマンダーの右の瞳。座標空間でロックする。これもえげつないが、遠慮する必要はない。マジューロは氷槍を回避するが、追尾されて無様である。


 サラマンダーは逃げなら、ファイアーブレスで氷槍を消し去った。だが楽器は壊れた。もう派手に奏でることはできない。マジューロはあからさまに不機嫌である。


 マジューロは試合場でリビーに向き合った。すぐファイアーアローが来た。挨拶は無しのようだった。


 リビーはヒューマンの体形で、まだ石化などの準備をしていなかった。急いで結晶化まで仕上げて、3倍速で走り出してから、ケンタウロスに変身する。


 マジューロはすっぴんのリビーに目が釘付けになった。エルフとは違う美人である。女性の理想の美しさがあった。まるで神が最初に造形したリリスのようだった。あのアダムとリリスの話の。


 一瞬でヒューマンの美女は消え、ケンタウロスの美しい獣がいた。豊かな乳房が防具からこぼれている。石化していてもその形自体が理想的曲線を描いていた。マジューロはケンタウロスの裸体の美しさを想像していた。


 マジューロがゲスすぎるのか。あるいは美に敏感すぎるのか。ともかく美しい女性であれば、ケンタウロスでも反応するのは、悪くはない感性である。しかし今は試合中である。


 リビーは近づいたと思うと、リザードマンに変身。鑑賞していたマジューロは、短槍で胸を刺された。致命傷ではない。


 ユオレットの聖剣が自動的動いて、短槍をはじいた。エルフに伝わる聖剣である。それでも心臓を貫かれないようにするのが精いっぱいである。左の鎖骨の下から血が噴き出ている。


 ユグドラシルの加護で、高速再生するからこれぐらいのケガは問題ない。しかしマジューロは痛くて、動揺した。そこにまた短槍が襲う。マジューロは後ろへ飛んで大きく間合いを取る。


 3倍速でリザードマンが襲ってくる。サラマンダーが独自判断で、ファイアーアローを打つ。


 リザードマンになっているリビーは、敏速で力が強い。ファイアアロー程度は短槍でうち消す。


 リビーは近接戦を挑む。マジューロは一瞬でフルメタルの鎧を装備。盾まで装備している。リビーはケンタウロスの瞑想で戦場を上から俯瞰。落ち着いて戦局を見定める。


 マジューロは能力値を上げるために、外にいたサラマンダーを内部に召喚した。


 リビーは短槍なので、ロングソードと間合いは変らない。マジューロの聖剣ユオレットは火の斬撃を放ってきた。火がリビーの顔を切りつけるかに見えた。


 だが石化・鱗化・結晶化の3層で守られた皮膚には傷などつかない。ペンタダイヤモンドの1層すら破れなかった。


 10合以上打ち合って、マジューロは不利を悟る。押されている。勝てない戦いは避ける。マジューロは大きく横に飛び、そこからさらに後ろに飛んで大きく間合いを取った。


 リビーもバックステップで間合いを取る。ケンタウロスの瞑想で俯瞰は維持している。まず氷槍連射で様子を見る。マジューロは高熱火壁で氷槍をブロック。ファイアーアローで逆襲してくる。


 上空に気配あり。リビーの俯瞰の効果である。なんとメテオの大技である。


 宇宙空間から隕石を呼び込むメテオだ。次元のはざまに、隕石を呼ぶなど可能なのか。リビーはいぶかる。


 メテオはコントロールが難しく、相手に当てるのは至難である。観客は驚くだろ。おそらく試合会場自体が霧散する。


 ユグドラシルのおかげで命を失うものはいない。全員吹き飛ばされてこの試合は引き分けになる。エルフ側の二勝一敗一引き分け。エルフの勝ちだ。


 メテオの大技を使ったマジューロは面目を保つ。この勇者、チャラすぎである。そして危険である。氷槍の無限連射で隕石を破壊することにした。これは観客には見えない戦いだ。


 リビーは見えるところで、氷雪ブリザードを放つ。高熱火壁を広域展開することはできないようだ。マジューロの周囲が凍り始める。


 サラマンダーの耐熱スキルを発動。低温にも対応できる。それでも寒いのか高体温のスキルを発動。マジューロは時間稼ぎに出ている。メテオを待っているのだろう。


 しかし氷聖玉の粉末が鎧に接着して、体温を奪い続けている。マジューロが寒さにどこまで耐えられるかの勝負になってきた。


 上空でメテオは完全に破壊できた。リビーは破片の一つを氷でくるんで支配下に置く。追尾のモジュールで、それをマジューロ直撃に設定。


 3分後マジューロは自分の呼んだ隕石の破片で死亡判定される。模擬戦は、2対2の引き分けになった。


 試合終了後、エルフ側に大問題が発覚した。賢者ピピンの模倣スキルが奪われていた。


 しかもその模倣スキルによって、アバター、洪水、メテオなど重要スキルの流出が推測された。

 













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