第245話 ピュリスの軍事会議

 ピュリスの内政を任されているダレンが口火を切る。


「まずハルミナとの軍事訓練の感想から聞かしてもらおう。正規軍隊長のミレイユから」


 ミレイユ。


「一言で言うと惨敗でした。カーシャストの指導を受けただけで、ハルミナがあんなに強くなっているとは。ここまで差がつくとは思っていませんでした」


 ダレン。


「1つ1つ振り返ってくれ」


 ミレイユ。


「騎馬40、歩兵40。アビルガ牧場に全隊集合。ハルミナへ行軍開始。予定地に野営。ここまでは、問題がなかったと思います。義勇軍の訓練で、兵士たちも野営慣れしていますので、今までになく順調でした。通信系統も問題なく、本部との連絡も完璧でした」


 ダレン。


「ギルマスのケイトに、行軍についての感想を聞こう。冒険者の視点で見てどうだった」


 ケイトはクルトの後に、冒険者ギルドのギルマスになっている優秀な女性である。


「はい。冒険者は10名が騎馬隊に、10名が歩兵隊に属しながら行軍しました。野営の際には、暖かいシーツ、ペレットストーブ、コオロギの警備。すべて今までになく順調で、疲れも少なかったです」


 ダレン。


「では最初の平原戦に移ろう。ミレイユから」


ミレイユ。


「最初は私たちが騎馬で攻撃したのですが、ハルミナの歩兵部隊を抜くことができませんでした」


 ダレン。


「負けた原因は何だろう」


 ミレイユ。


「1つはハルミナの歩兵一人一人が身体が大きくて、かつ重かったです。巨人族かと思うほどでかかった。特に兵士長と副兵士長が強かった。それと鎧などの装備でも負けていました。彼等の装備は見たことのないほど強かったです」


 ケイト。


「私が見た感じでは、騎兵隊がばらばらに歩兵を攻撃したことが敗因だと思います。重騎兵と軽騎兵を分けることもできていませんでした。ハルミナの騎兵隊は、はっきり分けていて、それぞれ役割も違うようでした」


 ダレン。


「それは重要な指摘だ。あとで課題として考えよう。それ以外に」


 ミレイユ。


「ハルミナがK部隊と呼んでいるコオロギやヒト型モンスターに全く対応できず、混乱してしまいました。我々が攻めた時に限定すれば、急にホイッスルが鳴って、驚いた馬が怯えて、勢いが止まったのが良くなかったです」


 ケイト。


「コオロギやヒト型モンスターは、警備で知っていました。でも戦いの中に投入されると非常に厄介です。特に初見では対応できないと思います」


 ダレン。


「K部隊はヴェイユ家でも購入を増やし、育成していく。リオトからは、闇の情報屋ファントムに注文していると聞いている。金がかかっても、ハルミナより大規模なK部隊を作るつもりだ」


 ミレイユ。


「ぜひお願いします。装備も含めて」


 ダレン。


「次にこちらが歩兵になった時だが、ミレイユ」


 ミレイユ。


「敵の作戦が見事すぎました。軽騎兵隊が左右両翼を攻撃し、混乱したのを見澄まして、重騎兵隊で中央突破されました。防ぎようがなかったです」


 ケイト。


「軽騎兵本隊は左右両翼を攻撃してUターンしたのですが、K部隊が突入してきました。その突撃で、歩兵が混乱し、収取がつかなくなりました。ハルミナが見事でした」


 ダレン。


「さてどう軍の改革をしていくか。課題は多そうだな」


 ミレイユ。


「まず装備一新してほしいです。グーミウッドの装備は素晴らしいです。我々も急いで、ハニカム構造の防具を取り入れるべきです」


 ダレン。


「できるだけ早く改善することを約束する」


 ミレイユ。


「我々の作戦では、平原戦は想定していないので、歩兵隊はいらないと思います」


 ケイト。


「軽騎兵によるヒットアンドアウエィの場合でも、城門の出入りの時にいたほうがいいと思います。少数の歩兵部隊は必要です」


 ミレイユ。


「義勇軍の訓練をしていると、巨人族かと思うようなでかいのはいる。彼等を選抜してもいいかもしれないわね」


 ダレン。


「10名を義勇軍から選抜。新たに歩兵隊を作る」


 ミレイユ。


「草原戦をしないので、重騎兵隊はピュリスには不要です。騎馬隊は全部軽騎兵隊にすべきです」


 ダレン。


「数はどれくらい必要だ?」


 ケイト。


「衛星都市にも軽騎兵隊は必要だよね?」


 ダレン。


「援軍に来てもらう予定だから、絶対に必要。サエカはもちろんだが、モーリーズとディオンにも置いてもらう。リビーには、ピュリスとは別予算で軽騎兵隊を置いてもらう。だから今はピュリス、プリムス、アビルガ、テルマ、フィリス、ベガスだけ考えればいい」


 ミレイユ。


「ピュリス以外は10騎。ピュリス100騎。全部で150騎。馬が足りないです」


 ダレン。


「ピュリスは最初は、少なくていい。徐々に増やす。サエカにはアデルに20騎おいてもらう。各衛星都市や村には10騎。残りはピュリスとする」


 ケイト。


「ハルミナでは馬まで、鎧を来ていました」


 ダレン。


「馬鎧もグーミウッドに注文しよう」


 ケイト。


「ハルミナにないもの、ピュリス独自の部隊について提案があります」


 ダレン。


「言ってみて」


 ケイト。


「森で戦う特殊部隊が必要です。魔法や弓が使えて、馬にも乗れるような」


 ミレイユ。


「正規軍ではそういう多機能の部隊はいません」


 ケイト。


「ダレン、索敵隊を呼びもどして下さい。索敵隊に冒険者のシーフ、義勇軍で適性のありそうな者を加えて30人の部隊が欲しいです」


 ダレン。


「索敵隊8名をハルミナに譲ったのは間違いだった」


 ミレイユ。


「彼等はハルミナの軽騎兵豚の一員になっています。軽騎兵の指導もできます」


 ダレン。


「リオトは、全員は返してくれないだろう。索敵隊があの戦場を発見したらしい。もうハルミナ軍の戦略の中核にいる。最低2名返してくれるように交渉する」


 ミレイユ。


「冒険者の中からシーフ10名、軍から10名、義勇軍から10名選抜して、索敵隊に特殊部隊の育成をお願いしましょう。籠城戦をやるなら外で戦うゲリラ部隊が必要になります」


 ケイト。


「私も賛成です。冒険者からは手練れを出します」


 ダレン。


「ピュリスの戦術はあくまでも籠城戦主体でいいな。固く守り、軽騎兵でヒットアンドアウェイ。守りながら救援を待つ。周辺都市が攻められたときの救援は軽騎兵を使う。外部には、特殊部隊を置き遊撃する」


 ミレイユ。


「ハルミナの城壁警備で、見慣れないものを見ました。ヒト型モンスターの女性形です。ストーンバレットを使えるので、夜の城壁警備に活用しているそうです」


 ダレン。


「それは使える。ヴェイユ家領は小都市が多い。城壁警備が負担だ。それを一部でもヒト型モンスターに代替できれば、効果は大きい。大量に購入する」


 ミレイユ。


「莫大なお金がかかりますが、財政的に大丈夫ですか」


 ダレン。


「今年は収穫が多かった。税収は収穫の増加だけで例年の3割増しだ。塩で稼げるし、今年は砂糖という高額商品もある。それだけじゃないんだ。教皇派と聖女派の教会を1つずつ潰す。財政的に問題はない」


 ミレイユ。


「財政に余裕があるなら、村の城壁も整備してほしいです。南端のフィリスやその奥のテルマ。この2つは特に急いでほしいです。敵軍が街道を通るなら、この2つの村が最初にやられます」


 ダレン。


「村の城壁整備も急ぐ。水路を建設して住民の避難や軍の移動もできるようにしよう」


 ミレイユ。


「感謝します。ダレン。私達の話を聞いてくれて」


 ダレン。


「ミレイユに宿題だ。ハルミナはあの戦場に敵を誘導しようとしている。ピュリスも敵を誘導するルートを作れないだろうか。検討してほしい」





















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