第242話 インデックスと魔法言語
一真とワイズ.。二人で蓮の実を収穫した。円盤に小粒のドングリのようなものが30くらい埋まっている。それが蓮の実だった。粉末の竜晶石は沈殿していた。集めて、セバスにリペアしてもらう。
実から外皮を取りさり、優しく摺り潰す。ディオニソスの宝物庫にあった菌でそれを発酵させる。発酵促進とエイジングのスキルを使うのを忘れない。
二人はエリクサーを90本以上作った。人体実験はブラウニーダンジョンの体の具合が悪い人。死んでもいいという人たちを集めている。不治の病や肩こりが治る。老眼や近視も治る。ヒールでは治らない状態が治る。
カリクガルとの戦いの時、リンクしている人には、自分も巻き込まれて死ぬかもしれないというスリルがある。リンクのせいでHPが減れば、カリクガル討伐に参加している実感もあるかもしれない。その前に怖い人には、リンクを外してもらった方がいい。
ふんだんにエリクサーが使えると、この戦いのときいいことがある。カリクガルと戦う時、ブラウニーダンジョンの有志には、宴会をしてもらう。そこにエリクサーを置いて起き、水の代わりに飲んでもらう。高価なエリクサーを飲んだことは、子孫に自慢できる。
リンクにドライアド5000人が協力してくれたことで、エリクサーは本当は必要ないのである。ドライアドの総数5000人に、彼等の平均HP200をかけたら、百万になる。これがリンクに加わっている。一撃で百万ものHPを失うことはない。
しかしワイズのこだわりがエリクサーの復元にある限り、本来の研究に集中できない。必要な回り道だったと一真は思う。
もうワイズは、新しい課題に取り組んでいる。一真の前世の映像記憶の魔導書から、こちらの世界で知られていない毒物を探し出すことである。こちらの世界で知られていない毒物には、いかにカリクガルでも耐性はないだろう。
実はすでに1種類、そのような毒物は発見され、こちらの世界の素材で復元されている。前世でシオンが飲まされていたレイプドラッグである。濃度を高めるとかなり凶悪な毒になることが、モンスターで実証されている。
カリクガルにどうやって注入するかという問題はある。それは別に解決するとして、このレイプドラッグ以外の、新しい毒物の発見。これがワイズの次の課題である。
そのために膨大な映像記憶の調査が必要だ。簡単ではない。映像記憶は、意識しないで得た情報も記憶している。パラパラとページをめくっていた時の、そのページの断片が残っている。そこに重要な情報があるかもしれない。
膨大な時間がかかる作業なのだ。それにふさわしい能力と環境にあるのがクロヒョウゴーレムの1号である。モジュールのテストは中断だ。
1号にはネストに入って、3倍速で調査をしてもらう。映像にテキストでインデックスをつけるのが仕事だ。今回は薬だけでなく、健康関係全般にインデックスをつける。
インデックスがあると検索速度が全然違う。このインデックスをもとに、ワイズが詳細に検討するという分業だ。まず99,9%は無関係な情報だろう。それでもカリクガルという強敵を倒すには、あらゆることを試さなければならない。
有望な薬を見つけたら、ワイズがこの世界で再現できるかどうかを確かめる。セバスのドライアドのダンジョンメニューで、あっさり見つかる可能性だってある。あるいはケリーのサーチで見つかるとか。そんな簡単に行かないことは分かっている。
この場面で役に立つのが、ジンウエモンの残した『漢方異世界植物対照』という本である。この本にはこの世界で薬功のある植物素材がほとんど載っている。再現可能だとしたら、素材はこの本の中にある可能性が高い。
日本で使われている(毒)薬が、この本に載っている植物から、再現が可能かどうか。雲をつかむような話である。しかも植物がすでにこの世界で一般的に使われているものではいけないのだ。一般的なものなら、カリクガルはもう耐性を持っている。
当然すんなり見つかるわけがない。しかし副産物はいろいろ出てきている。ワイズは漢方系の毒物を、考えられる限り、いろいろ試すこととなったからだ。
薬は使いようによって、毒にも薬にもなる。結果的に、ワイズは新しい薬をどんどん作ることになった。各種の毒薬はもちろんたくさん作られた。
その毒薬の応用で睡眠導入剤、痛み止め、下剤、嘔吐剤、避妊薬、精力増強剤、食欲増進剤、解毒薬などが新しく作り出された。
毒薬が難しいのは、人体実験である。モンスターで試すのだが、最後は人間での実験が必要になる。この世界では人権はあまり重視されていないので、エリクサーを準備して、毒薬を飲ますことになる。
さらに難しいのはカリクガルがその毒薬に、耐性を持っているかどうかの見極めである。これについてはサマリ(マリアガル)に協力してもらうのが一番いい。情報だけでなく、サマリに人体実験をしてもらうのである。巡礼から帰ってきたら、頼んでみよう。
一真はワイズとの共同作業が終わり、いよいよ自分の課題に取り組み始めた。カリクガルを倒すのに絶対必要な事。新しい魔法言語を作ることである。
カリクガルが今使っている魔法言語は、古代語をベースにして、ごくわずかに日本語を取り入れていた。
こうすることで古代語を知るものでも、カリクガルの魔法、特に呪術を解呪することが難しい。カリクガルの強さの一端である。
魔法は理力が高いと、相手の魔法をはじき無効化する。しかし呪術は少し違う。解呪の仕方が分からないと、はじきづらいという性質がある。だから理力が低い敵からも、呪術でやられる事がたまにある。
だから格上のカリクガルを、格下のチームのメンバーが倒す可能性も出てくる。カリクガルを倒すには、初見では解呪できない、新しい魔法言語が必要だった。
だからと言って初めから作る必要も、根本から作り変える必要もない。これはカリクガルと戦うときだけの、一時的に使用する言語で、戦いが終わったら捨てるものだ。
一真が考えているのは、1つは英語の使用だ。カリクガルが異世界の英語を知っているとは思えない。一真は学校教育で長く英語を勉強してきたので、基本的単語は分かる。
もう一つはリビーが覚えてきた、原始リザードマン語である。カリクガルは獣人に対する差別主義者だから、原始リザードマン語は知らないだろう。
世界の違う2種の異言語。この2言語を両方知るものは存在しないだろう。さらにチームにはジュリアスの魔法陣の技術がある。これは古代語を図形の形にして、魔法の発動を可能にしたものだ。
魔法のモジュールを魔法陣として外部化する。これは図形だから、カードにしておく。魔法の術式を展開する時、このカードを指定して、参照するようにする。
このカードを物理的に手に入れなければ、こちらの魔法を解析されることはない。もし誰かがカリクガルにやられて、カードを奪われても、解析には時間がかかる。
方針は間違っていない。あとは段階を追って実現していけばいいだけである。カリクガルも、古代語に堪能というわけではないので、現代語から古代語への翻訳スキルを使っていた。
まず着手するのはこの翻訳スキルの解析と変更だ。翻訳スキル自体は、マリアガルを救出する時、アカジから入手している。そういえば、アカジはうまくやっているのだろうか。今のところ、マリアガル救出はカリクガルにはばれていないようだが。
翻訳スキルを、新たな魔法言語に対応させる。一真なら6か月あればできる。カリクガルとの戦いの1年半前だ。
習熟期間を考えたら、それより遅くはできない。
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