第241話 大技使いのルミエ

 ルミエにユグドラシルから念話が来た。


「偉大なる人種とはもう言わないが、エルフのルミエよ、ハイエルフの恩恵を受け取ったか」


「能力値200アップなら受け取ったわ。ありがとう。カリクガルを倒すために使わせてもらうわ」


「ルミエ。エルフに帰ってこないか。率直に言って、今のお前ではカリクガルに勝つ攻め手がないと思う」


「カリクガルと戦う時には、約束している仲間がもういるの。心配してくれてありがとう」


「悪いがその仲間じゃ無理ではないかな」


「私はやれると思っている」


「もしハイエルフパーティーに帰って来るなら、契約精霊として、アークエンジェルを用意しよう。能力値は総て500以上ある。それを内部召喚したら、カリクガルに引けをとらない」


「もう4人いるでしょう。勇者、ドワーフの盾士、弓士、賢者。それぞれに精霊王を付けているのよね。サラマンダー、ノーム、シルフ、ウンディーネ。最強じゃない」


「ルミエには聖女を頼みたいんだ」


「ユグドラシルの加護を全員に付けているでしょ。自動HP再生よね。聖女はいらないんじゃないかな」


「神聖魔法の遠隔攻撃が欲しい」


「カリクガルには魔法攻撃は無効。無駄よ」


「頑ななのはなぜなのだろう」


「絶望している時に、見知らぬ人に助けてもらった。獣人とか、虫モンスターとか、娼婦冒険者とか、あなたが蔑んでいる人たちに救われた。それがどんなに尊いか。あなたには想像もつかないでしょうね」


「彼等には私の子供を救ってもらって感謝しているよ」


「子供と思ってもらっているのは、感謝するわ。でもね本当にどうしようもないとき、通りすがりの人の、ちょっとした微笑みで救われるの。決してエルフの尊い人じゃないとだめとか、そんなことはないの。私が心許した人なんかカマキリよ」


「さすがにそれは私には無理かな」


「諦めてよ。私のことは。私はもうエルフではない。ただの人間の一人」


「また念話するわ。諦めることはできない。私もいろんな思いがあるから。エルフを救いたいというのは本気だしね」


 最近のルミエは、大技を使ってMPと理力を高める作戦に出ている。城壁にメイクハニカムしたあとに、石化する。あるいは住民全員を、1歳アンチエイジングするとか。


 リンクしているから不可能ではない。減ったMPは即座に補充される。そして大技を続けて使うと、MP上限は上がる。理力も上がっているはずだ。カリクガルと戦うのに悪いことではない。


 ダンジョンの3倍速攻略も、積極的にやっている。ホーリーアローや範囲攻撃のホリーレインも使いまくっている。おかげで電攻撃のライトニングが発現した。今の攻撃の主体はこの雷撃だ。


 ライトニング(雷撃)に、追尾のモジュールを組み合わせる。座標空間の狙ったところに雷を発生させて、そこから目標を打つ。逃げても追尾する。


 今は人間に使う時のために、殺さない練習をしている。人間は大切な資源だから、殺さず奴隷に売る。チームの原点がゴミ漁りだから、資源の無駄使いには厳しい。


 モンスターも瀕死にして、顔盗術でペルソナを奪って、スキルを奪ってそれから殺す。殺した後は死骸を無駄なく再利用する。それが掟だ。


 奪ったペルソナはブラウニーのダンジョンのメニューで、チーム限定で売り出す。なぜか一真の従魔のイワンが、よく買ってくれる。カードモンスターにペルソナを付与すると、能力が強化されるらしい。


 たしかにトラのカードモンスターに、氷虎のペルソナを付与したら、外見もいいし、強化もされるだろう。しかしルミエの貧困な想像力では、悪魔の邪悪な想像力はとらえきれない。何を考えているか、本当のことは不明である。


 ジル隊にいたシャナビスはペルソナコレクションを持っていた。人間でやるのは顰蹙だ。結果的にケリーの両親を弔うことはできたが、人間のペルソナコレクションはいけないと、ルミエは思う。


 しかしルミエはモンスターのペルソナコレクションにハマった。クロヒョウや氷雪竜、キラービークイーン。彼等は美しい。ルミエはコレクションを増やすために、珍しいモンスターを狩り続けた。


 呪術系のスキルのブラッシュアップも怠っていない。ユグドラシルの恩恵でMPが3倍になり、スキルのレベルが1つあがっている。これは素直にありがたいと思う。


 魅了はレベル2になって、魅了できる対象が増えた。かなりの大物モンスターも魅了できる。格上モンスターを魅了できた時の快感はたまらない。だが魅了が成功すると、殺戮は作業になってつまらなくなる。


 自分が魅了するだけでなく、誰かが誰かを魅了したり、魅了されたりもできるようになった。そうすると愛とか憎しみとか、もうどうでもよくなる。もちろん人間にはかけない。モンスターしかかけないが、それでも何か大事なものを失うのである。


 エイジングは意外と喜ばれる。マリリンという女の人に、サエカの町のエイジングを頼まれた。この街は新しくてぴかぴかなのが、マリリンの好みに合わないのだという。まるで300年前にできた街のように、ルミエは風景をエイジングする。


 サエカは素材は新しくて丈夫なのに、まるで廃墟のように古びて、そこに生きている人もまるで先祖代々住み続けてきたかのような、そんな雰囲気の街になった。ディオンとハルハなんか、まるで本当の古代の彫像のようなのである。


 レイ・アシュビーはもっと実用的にエイジングを使う。発酵促進と一緒にエイジングを使うと、美味しいお酒ができる。たしかにワインをただ蒸留した、味もそっけもない辛いだけの液体が、とろける甘みを持つ宝石のようなものに変わるのには驚いた。


 鎮静も謎のスキルである。自分にかけたことはないが、やる気をなくして、生きることがどうでもよくなるらしい。生きようという意欲を失うのだから、戦う意欲が残っているわけがない。ただ鎮静状態になったモンスターを殺すのも作業になって面白くない。


 しかし効率は良いので、雑魚モンスターを効率的に処理をする時に都合がいい。範囲を指定すると、生きる意欲を失ったモンスターが勝手に死んでくれる。


 その時面白いことに気がついた。鎮静は物理的にも動きを止めるのだが、範囲して鎮静すると、その空間自体寒くなる。一真に聞くと、熱というのは分子の運動だそうだ、分子が運動エネルギーを失うと、温度が下がるというのだ。これは氷雪魔法に近い。空間にかける魔法という新しい概念だ。


 さてベルベルの内部召喚を試した。不思議な感覚である。同盟者だから対等である。外見が二人を合成した中性的なものになる。他者と一体化して、一つの身体を共有するのは、エロチックな快感がある。ルミエはこの感覚を楽しんでいる。


 ベルベルの魔法もえげつない。相手からHPとMPを奪うのである。このドレインは、もともと日向ぼっこをして自然からエネルギーを得るパッシブスキルだったそうだ。


 それを特定の相手に向けることで、とんでもない極悪なスキルが生まれた。ルミエ好みのスキルである。


 ベルベルは月光という、避けにくいデバフスキルを使う。気がつかないうちにすべての能力が低下する。これも空間にかける魔法かもしれない。


 そして悪魔を使役した6魔の杖。自分のHP、MPを5体の悪魔に吸わせ、1体の悪魔だけが、敵からHPとMPを吸う。これも格上殺しだ。リンク前提の呪われた杖である。


 ルミエはエイジングや魅了、鎮静なんかを使うと、自分は本当に悪魔のようだなと思う。おそらくこの状態だと中級悪魔くらいの力はあると思う。

 それが二人だ。二人の呪われた力で、モンスターを倒していると、悪である快感が感じられる。この快感に溺れてはいけない。そう自戒しながら戦う二人であった。



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