第240話 ハルミナの諮問会議と雑談

 カーシャストの指導する騎馬隊に、ハルミナ歩兵隊は惨敗した。今日はそれを受けての諮問会議である。


 領主リオトが発言する。


「我が騎馬隊が大勝利だった」


 カシム・ジュニアが発言する。


「負けたのもハルミナ歩兵隊だ」


 リオト。


「歩兵隊が負けたのはなぜだろう」


 レイ・アシュビー。


「デアシャストの戦術に尽きる。変なものがいっぱい出てきて、歩兵が混乱した。デアシャストは既に天才だ」


 リオト。


「敵があれを手に入れたらまずいな。ファントム。あのコオロギやヒト型モンスターは敵の手に渡したくない」


 ファントム。


「今のところカナス辺境伯が手に入れる方法はない。もし敵に奪われてもカードモンスターは無力化できる」


 カシム・ジュニア。


「あのへんなものがなければ、歩兵隊は勝てたかな」


 リオト。


「中央に兵士長と副兵士長を置いておくべきだった。それにもっと水路際によって、布陣するのが良かったな。そうすれば水軍も戦いに参加できる」


 レイ・アシュビー。


「戦場に登りの傾斜があると、敵の馬が疲れる。それに落とし穴を設置できたら良かったかもしれん」


 ファントム。


「歩兵隊もコオロギやヒト型モンスターを使うと良かったかもな。実はヒト型モンスターだけではなくて、ホイッスルのような大きな音を出したりできるのもある。大きい音が出たら馬が驚くかもしれない」


 リオト。


「それだ。いくらだ」


 ファントム。


「コオロギゴーレムとホイッスルのセットで、50万チコリもらおうか」


 リオト。


「まず10セット買う」


 執事ソトー。


「ヴェイユ家とも戦法共有したいですね。次は2か月後、共同訓練しましょう。人をやって、あらかじめ基本は伝えておきます。その時今出た意見を実施して、少しずつ改善していきましょう」


 リオト。


「いい考えだな。ソトー頼む。定期的に共同訓練するように設定してくれ。それでハルミナ騎兵隊は本来ああいう戦い方じゃないと思うんだが、その辺どうだ」


カシム・ジュニア。


「想定していたのは、カナス軍が攻めてくることだ。あそこで歩兵隊がカナス軍を食い止める。そこを後ろからハルミナ騎兵隊が襲って数を減らす。歩兵は水路で逃げて籠城戦。これが基本戦法だったはずだ」


 レイ・アシュビー。


「その前に敵が丘の間の道を通っている時、弓隊と魔法部隊が攻撃して数を減らすというのがある」


 リオト。


「今度ヴェイユ家と一緒に訓練したら、それも訓練できるな」


 ファントム。


「それやるんだったら、今通信に使っているトブトリというカードモンスターな、本当は上空からの攻撃をするものなんだが」


 リオト。


「いくらだ」


 ファントム。


「コオロギとセットで50万チコリ」


 リオト。


「まず10体買ってみる」


 ファントム。


「まいど」


 ソトー。


「他に隠しているカードモンスターはないでしょうね」


 ファントム。


「実は土魔法が使えるヒト型モンスターもいる。城壁警備に使えるかもしれない。特に夜な」


 リオト。


「それも50万チコリなら、10体買おう」


 ファントム。


「1500万チコリになるから、100万チコリ値引きしよう。全部で1400万チコリで」


 カシム・ジュニア。


「俺も買うよ。コオロギとヒト型モンスター4セット。ヒト型モンスターは従来型の剣を持っているやつ。最近暗殺者に狙われてね。警備を増やしたいんだ」


 リオト。


「それは危なかったな。生きているのは、暗殺者を撃退できたっていうことか。黒幕は分かったのか」


 カシム・ジュニア。


「ナマティ公爵だった。入学試験の模擬戦で、俺が息子をぼこぼこにしたんだ。それを恨んで暗殺しようっていうんだから、貴族は狂っているな」


 リオト。


「それはもっと根深いかもな」


 レイ・アシュビー。


「根深いな。戦争になる」


 カシム。ジュニア。


「親父がナマティの極道ともう戦争を始めている。ブラックジュエリーという極道が、もうナマティの極道一つ潰した。カシム組がその組を乗取ったらしい」


 ファントム。


「領主とその街の極道が真っ向対決していちゃ、ナマティはただでは済まないな」


 リオト。


「実はリングルももう動いている。ナマティの近くに、ニューリングルという港町を作るらしい。ゾルビデム商会と話はついていて、大手の交易船はニューリングルに停泊して、ナマティには行かない」


 カシム・ジュニア。


「そんなことをしたら、ナマティは寂れるな。人口9万人は維持できなくなる」


 リオト。


「ゾルビデム商会などは、支店を移動するそうだ。これで5千は減る」


 カシム・ジュニア。


「極道関係者は奴隷に売ったから、3千人は既に減っている」


 ファントム。


「獣人の冒険者とか、ハルミナにスカウトしてこよう」


 リオト。


「ドワーフはニューリングルへの移転を決めたそうだ。それに今なら奴隷がたくさんいるから、安く買いこんで鉱山で使えるな。ソトー手配頼む」


 ファントム。


「そう言えばサヴァタン鉱山の戦力はどうなっている?ナマティ公爵が敵に回ったら、あそこも危なくなる」


 リオト。


「山の頂上に砦を作るつもりだったが、急ぐことにする。コオロギと土魔法を使えるモンスター20体。追加注文だ」


 カシム・ジュニア。


「そうだ、俺ももう1セット頼む。模擬戦の時闘った女の子が、第6学校に転校してきてね。家で預かることになったんだ」


 リオト。


「模擬戦で、一目ぼれされたか。どこのお嬢さんだ」


 カシム・ジュニア。


「いや色恋は抜きで、強くなりたいと言っていた。王都の老舗ロゴス商会のお嬢さん。バーバラという名前だ。俺に負けたのが悔しかったらしいな。コオロギはその子の護衛」


 リオト。


「カシム・ジュニア。青春だな」


 カシム・ジュニア。


「そんなわけない。そう言えばファントム。そっちのダンジョンにバーバラも、俺たちと一緒に通うから、よろしく頼む」


 ファントム。


「そんなことしたら楽しいことする時間がないぞ。それにしてもこの頃カシム・ジュニアの周辺に女子がが多いな」


 カシム・ジュニア。


「バーバラ以外に3人いるが全部妹だ。血がつなっているのは8歳のミルファだけだけど。それに10歳になったヨミヤは、もうすぐ王都へ行く」


 レイ・アシュビー。


「ヨミヤは良いギフトもらえたのか。たしかヨミヤはスノウ・ホワイトの孤児院にいた子だったか。本を書いた子だったよな」


 カシム・ジュニア。


「『悪魔白雪姫』と言う本な。それでヨミヤがもらったのはヒール。ヨミヤは生まれながらヒールスキルを持っている。それに親父がヒールスクロールを買い与えて、もうヒーラーとしてダンジョンに入っているんだ」


 ファントム。


「すごいな。10歳にして、ヒールレベル3だ。15歳になったら、限界突破すれば、レベル4。エリアヒールが使える。聖女だって騒がれるぞ」


 カシム・ジュニア。


「親父が狙っているのはそこなんだ。カシムの娘がとんでもない聖女だって騒がれること」


 リオト。


「騒がれてどうなる」


 カシム・ジュニア。


「世間に売り出せば、何かが動く。世間というものは怖ろしいんだ。ナマティ公爵との戦争だって、世間が動けば、極道カシムにも勝つ目が出てくる」


 リオト。


「この戦争は、世界中が注目している。何かの始まりじゃないかってね。たしかにそこに聖女が登場したら、何かが動くかもしれないな」


 カシム・ジュニア。


「だから危険なんだ。それでこの半年、攻撃魔法を鍛えていた。聖魔法の攻撃。ホーリーアローが使えるようになっている。火魔法も使える。そして耐性ダンジョンで鍛えまくって、魔法攻撃を受けても大丈夫なようにしている」


 ファントム。


「10歳にして、もう危ない女なんだ」


 カシム・ジュニア。


「ヨミヤはね、もう美人で、危ない女になっている。多分スノウ・ホワイトより危ないな。それが世間にデビューする。戦争のど真ん中に」

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