第235話 ペルソナ結界

 10歳までは面倒を見よう。レニーについてはなんとなくそんな暗黙の合意があった。10歳になったら、木工士など生産系の仕事について、平和に暮らしてほしいと、チームのみんな思っていた。


 しかし10歳のレニーは、戦乙女になっていた。戦う結界士である。ブルースという戦えるお供まで連れている。


 完全結界で相手を包み込んで、毒針を叩きこんでいる。追尾のスキルで外れることがない。最近素早く連射できるようになった。手首のスナップだけで毒針を打てる。


 そんなレニーが得た10歳のギフトは、ペルソナ結界だった。結界に人格を付与できる。その人間のスキルも使えるし、能力値を結界に付与できる。武器や防具での強化もできる。強力なユニークスキルであった。


 ミラーリンクというスキルがある。二人ともリンクスキルを持っている場合、鏡のように相手のスキルを共有できるスキルである。


 だからブルースも、ペルソナ結界を使える。内側がブルースのペルソナ結界、外側がレニーのペルソナ結界。二重の完全結界を作ることができた。


 完全結界は、モンスターを閉じ込める。敵の攻撃は外に届かない。外からはモンスターを攻撃できる。空気の出入りも遮断する。モンスターは時間をかければ、呼吸ができなくなり死ぬ。それがペルソナを得て、強力になり、二重になってさらに強力になった。


 レニーは自分の力を確かめるために、嘆きの要塞に向った。砂漠の広域ダンジョンである。転移ポイントはダンジョンの最南端にあった。


 太陽が照り付ける過酷な暑さ。しかしジュリアスの温度調節下着で涼しい。レニーはやる気満々である。ゴーレム馬最強のブルースを連れてきている。信頼できる相棒だ。


 マップに従い北へ向う。ブルースがレニーを背に乗せてくれた。砂漠の北側に巨大な要塞が見えてくるはずだ。


 最初に現れたのは極彩色の蛇の群れ。2メートル近い長さだ。異常に素早く襲ってくる。一瞬で囲まれた。30体くらい。


 ブルースが普通の結界を張って守ってくれる。これで噛みつかれることはない。攻めに転ずる。戦闘フィールド全体を完全結界で覆う。直径8メートル。こちらはレニーのペルソナ結界だ。スキルが使える。


 蛇たちは二重の結界に挟まれた。ブルースが結界の内側から、吹き矢で毒針を打つ。範囲モジュールを付加して、一回の吹き矢で数匹倒す。


 外側のペルソナ結界は、360度、どこからでも毒針を打てる。羽音付きで、威嚇効果がある。連射すれば30体の蛇なら一瞬で倒せる。


 蛇を解体し、魔石と毒牙と肉とカラフルな皮を自動でマジックバッグに収納する。これを延々と繰り返す。


 結界は普通守備的なものだ。レニーの結界も初めはそうだった。恐怖から逃れるために結界を覚えた。それでも怖いから、ブルースの中に入った。だがレニーは強くなりたくて、その状態でもダンジョンに出たのだ。


 エルザたちがいなくなった時、レニーの中で耐えに耐えていたものが、一気に壊れた。両親が死んで孤児になった。カナスは孤児のレニーに冷たかった。野犬の群れに囲まれた時、サイスが助けてくれた。だがサイスはレニーを奴隷商に売った。

 

 奴隷商はレニーをカリクガルの部下に売った。レニーはピュリスを襲う奴隷兵士の一人になった。助けてくれたのはエルザたちだ。やっと居場所ができたレニーから、カリクガルは大切な人たちを奪ったのである。壊れても無理はない。


 砂漠の風景から、廃墟に風景が変わる。建物は石造だ。物陰から黒ずんだ包帯に巻かれたミイラが1体現れる。


 作戦は同じ。吹き矢と投擲。弾はどちらも毒針である。アンデッドなので、毒は無意味だ。しかし毒針攻撃は追尾モジュールで、正確に同じ点を物理攻撃する。ミイラは頭蓋骨を砕いても動き回る。


 魔石を砕かないとだめな、スケルトンと同じタイプらしい。次は心臓目がけて毒針を打つ。胸に穴が開き、緑の魔石が砕けてミイラは倒れた。


 弱点が分かれば、後は難しくない。ただの作業になる。作業になると3倍速を使う。延々と同じことを繰り返すのは、レニーは嫌いではない。


 また風景が変わる。次は同じ廃墟でも神殿だ。建物の高さが高い。出てくるのは2メートルくらいのアヌビス。ヒト型なのだが、頭部がオオカミだ。大きいだけでなく異常に素早い。アンデッドではない。


 鉾のような武器を使ってくる。レニーの戦い方は変わらない。まず普通結界で守る。完全結界で覆う。挟んだら毒針を内と外から打つ。


 アヌビスは傷つくと、何かスキルを使って逃げようとする。しかし完全結界から抜け出すことはできない。


 抜け出すのに失敗したアヌビスは、何かアイテムを使って、死を避ける。仕留めたと思ってもアヌビスは生きている。それ以上攻撃すると、アイテムが尽きて死んでいく。


 手こずった。だが見える範囲にもうアヌビスはいない。ドロップは身代わりのアミュレットだった。1回だけ死を免れる、高価なドロップだ。


 さていよいよ嘆きの要塞だ。石造の四角い要塞が現れる。完全ペルソナ結界で包んで、毒針で建物を攻撃してみる。毒針を受けた部分の石は崩れるが、3分くらいしたら、自動的に修復されていた。


 覚悟を決めてレニーは中に入る。結界はかけたまま移動するので安全だ。デバフがかけられている。気持ちが徐々に落ち込んでいく。どこかで休みたい。それに何か悲しい。


 砦の中庭に泉があり、近づくと少女が泣いている。結界をかけ直し、少女を含む、二重結界にする。レニーは恐る恐る傍により、後から少女の肩に触る。少女は振り向いたが、貌は見れなかった。


 視界が暗転して何も見えない。大きなエネルギーで二重の結界は破壊されてしまった。レニーとブルースはダンジョン入り口に戻されていた。


 攻略失敗の原因は、傲慢な気のゆるみだ。情報収集不足であった。最後の少女は、莫大なエネルギで自爆するモンスターだった。知っていれば対処できたはずだ。


 少女モンスターは生きている。生きていると弱点は多い。眠らせると良いらしい。


 翌日、もう一度攻略に向かう。完全二重結界で包む。自分たちは入らない。結界内に、睡眠効果のある毒霧を注入。寝ているモンスターに毒針を連射して殺す。


 宝箱は白紙の魔導書。ドロップは帰還のスクロールだった。


 レニーの反省は結界を爆破のエネルギーで破られたことだ。まだ弱いのだ。


 自ら結界のペルソナになるのではなくて、ペルソナとして強いモンスターを招いたらどうか。


 レニーはキラービーの女王のペルソナを、ルミエが顔盗術で奪ったのを見ていた。ルミエに頼んでそれをもらって、結界のペルソナとした。レニーより少し強いようである。


 ブラウニーに頼んで、キラービークイーンのペルソナの強化方法を教えてもらう。5%の能力値アップのスクロールが使える。あとは経験を積んで強化するしかないようだ。


 いろいろなダンジョンを攻略していく中で、レニーのスキルレベルが上がった。新たに出現したスキルがあった。構造結界という。


 『結界魔法入門』の魔導書によると、2枚以上結界を重ねた時、一体化して結界をの強化するらしい。一体化した結界に強化の魔法をかけることもできると書いてある。


 ブルースと試してみた。結界は透明で見えないのだが、作ったものにはなんとなく気配が感じられる。構造結界で一体化した結界は、少し厚くなった感じがする。


 レニーはそれにメイクハニカムのスキルをかけてみた。木工品を作るときのいつもの癖である。明確には分からないがさらに分厚くなった感jがする。


 結界のペルソナをもっと強いものに変えて、メイクハニカムが効果があったら、カリクガルにも対抗できるかもしれない。結界強化を模索するレニー。


 ひたすら強くなりたいレニーである。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る