第226話 ベルベル隊発足
木の妖精ドライアドは、ずっと1000体くらいの数を保っていた。
13年前のことである。サーラがゼラリスに頼んで、ドライアドの数を、急激に増やしてもらった。ゼラリスは植物のことを良く知るグリーンフィンガーである。今は5000体くらいになって、もう急激に増えるのは止めている。
ベルベルはベビーブームの最初の世代である。同世代は数百と多い。3年前にギフトスキルで並列思考をもらい、自我に目覚めた。普通ドライアドはのんびり生きている。500年以上生きるので、スローライフをするしかないのだ。
しかし今だけは状況が変わっている。ユグドラシルが戦う気になっている。それはエルフが戦うということだ。エルフが戦うなら、その乳母であるドライアドも戦うのである。
ドライアド5000体と言っても、15歳の成人以上は1000体。10歳以上でも2000体である。長弓はみな使えるが、戦闘経験はない。
長弓は達人なので、エルフの助けにはなるだろう。しかしベルベルはユグドラシルともエルフとも独立して戦いたいのである。
賛同して並列思考を取ってくれた仲間が3人。ベルベルと同期の13歳である。
4人でパーティーを組んだ。名前はベルベル隊。冒険者ギルドに登録したが、未成年なのでGランクの仮登録だ。3人には名前もないので仮名で登録した。
ブラウニークランに加入し、魔石喰いのスキルを導入してもらう。好きな魔導書を選んで、自分の成長コースを決めてもらう。3倍速のスキルも全員に導入。
3人にはエロスの神弓を貸してあげる。隊員が増えたら、強いものが神器を使う約束だ。リターンのモジュールも、追尾のモジュールも付いている。そしてベルベルのコオロギと、カードモンスターの好きなのを1体付ける。至れり尽くせりだ。
ベルベル隊の活動は緩い。全員が集まるのは週1回午前中だけ。ドライアド的にはとても勤勉だ。ドライアドの人生感覚は、人間の10倍だ。急ぐ必要は全くない。
ベルベル隊3人、本人たちは真剣なつもりだが、人間から見ればまったくのお遊びである。今日はブラウニーダンジョンでボルダリング。オオコウモリの暗闇ダンジョンで、ベルベル隊長によるパワーレベリング。薬草園でのコオロギやカードモンスターと一緒の薬草摘み。
冒険者ギルドで薬草を納品した後、ギルドの食堂で打ち上げ。酔っぱらった先輩冒険者に絡まれて、訓練場で決闘になり、全員勝利。今日はここで活動を終わる。
ベルベルはこれでいいと思っている。戦闘経験が全くない彼女たちに、自分のような過酷なタスクを課したら、すぐ脱落するに決まっているのだ。週1回の物珍しい趣味の集まりでいいのだ。戦争が始まったら、この戦闘経験がきっと役に立つ。
ベルベル自身は仕事が増えただけだ。ベルベル隊がGランクパーティーから昇格できるように、毎日薬草採取をして冒険者ギルドに届けている。預けているコオロギたちをときどき入れ替えて、育成に差が出ないようにしている。
ベルベルの願いは、ルミエの同盟者としてふさわしくなることだ。ユグドラシルと和解していたら、ルミエは精霊王と契約していた。例えばサラマンダーの能力値平均は500くらいだ。精霊王を内部召喚し、ルミエの能力値に加算したら、カリクガルと互角になるはずだった。
ベルベルは少なくとも、精霊王の半分くらいにはなりたかった。2年ちょっとでそこまで行くのは厳しい。それでもベルベルはあがく。3倍速で死に戻りダンジョンに挑む。一番効率がいい。1日3回挑むだけで、体感時間を24時間稼げる。
これだけで木の瞑想の回数が1回増え、魔石喰いも一日分増える。6か月に1回の5%アップのスクロールを、3か月で使ってもらえる。
ベルベルが毎日欠かさないことはいろいろあるが、アルラウネとの対戦もその一つだ。アルラウネは半径10キロ以内の植物の生育を助ける。
ヴェイユ家やハルミナのフラウンド家の領地には、今春初めてビートが植えられた。ビートは砂糖の原料である。成功すれば、生み出される富は計り知れない。その生育を助けるため、多くのダンジョンの最下層にアルラウネが移植された。
植物モンスターにとって、移植は最大の危機である。それをベルベルの植物生育のスキルで乗り切ることができた。ベルベルからアルラウネへ、そしてすべての作物へと、生育の恵みは波及したのである。10日
ベルベルはアルラウネに鞭術の指南を受けているつもりである。実際ベルベルの近接武器である鞭術は、短期間にレベル3に上達している。
アルラウネたちにとっては、10日に1回は来てくれるベルベルは非常に楽しみな相手であった。鞭同士での戦いはなかなか機会がない。相手は可愛らしい少年である。しかも心地よい植物の育成スキルで、生命の危機を救ってくれる。
ベルベルが数十体いるアルラウネたちの共通のアイドルになったのは必然である。初夏にアルラウネたちから、王者の鞭という神器がベルベルに贈られた。この鞭で打たれると気持ちが良いという、少し怪しい鞭である。
王者の鞭は打たれたものの能力値を奪う効果を持っていた。10回に1回くらいの確率で、1だけランダムに能力を奪う。この程度はすぐ回復できるので、アルラウネには問題はなかった。
長い目で見れば、1年で50以上能力値が上がる。冬はアルラウネが冬眠するが、他のモンスターから能力値を奪えばいいだけだ。
格上モンスター相手の真剣勝負も1日1回は挑んでいる。これは欠かせない。カリクガルとの対戦で、ベルベルが使おうと思っているのは、この戦術である。まず月光というデバフスキルを使う。これは格上にも効く。しかしゆっくりとしか発動しない。
次に六魔の杖を発動させる。この杖には6体の悪魔が封印されていて、相手が格上の時は、5体の悪魔がベルベルのHPとMPを吸う。1体だけが敵のHPとMPを吸ってくれる。
呪われた杖だ。リンクでHPとMPが補充されるベルベルには、1体でも悪魔が味方に付いてくれることが有難いのである。悪魔の攻撃は格上の敵でも防ぎ難いのである。
さらにベルベルはドレインスキルを発動する。本来は光合成のような自然からエネルギーを得るパッシブスキルだった。ベルベルの戦いの中で、特定の相手のHP、MPを吸収するアクティブスキルに変換した。
この3層の攻撃に、近接物理攻撃の王者の鞭、遠隔物理攻撃のエロスの神弓というのが、ベルベルの攻撃手段のすべてである。
かなり強力ではある。しかしこれがカリクガルに通用するかは、疑問が残る。圧倒的に能力、特に理力の差がある場合、魔法や呪術は、相手にはじかれてしまう。
ベルベルの焦りもそこにある。全般的な能力値の底上げ、中でも魔法攻撃に関わる理力、魔法防御に関わる魔法耐性、精神耐性は頑張ってあげるしかないのである。
ステータスウィンドウに現れる能力値は一部でしかない。詳細鑑定ができる人が見ると、30項目が見える。ベルベルにはまだ見れない。理力は普通魔力(MP上限)と同じ値になっている。だが本当は違うものだ。
魔力は自分の中で練るものだが、理力は中と外がつながっていることを認識する力だ。大きな調和した外の世界と、自分の中にもある整った身体とのハーモ二―、そして整った心もそのハーモニーに加わる。
このハーモニーが生まれる時、魔力は本当に力を発揮するのである。魔法を使うもの同士の戦いは、魔力の量だけで決まるのではない。ハーモニーの質がどちらが高いか。それで格が決まる。そして格下が格上に勝つことは難しい。
ベルベルが気を配っていることがもう一つある。ゴーレム馬、ペレットスライム、犬、コオロギ等の各種ゴーレム、そしてカードモンスターの育成だ。チームメンバーはあまり彼等の育成に関心がない。
しかし戦いは総合力である。彼等の力を借りる可能性もある。ただベルベルにも時間はない。できるのは細かくチェックし、ブラウニーに頼んで、底辺の底上げをすることだけである。
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