第224話 砂漠の南の湖
ジュリアスは,、エリクサーにつながる何かを、漠然と探していた。生活はいつものとおりである。
女極道ブラック・ジュエリーの旅は終えた。今はピュリスに母親のナターシャと、妹のミーシャと3人で暮らしている。自分を隠す作戦は終了した。その結果は人によりいろいろだった。リリエス、モーリー、アリア、サチュロスたちは消えて行った。
ルミエは拠点をタナルゴ砂漠の南部に変えている。ここはサーラとショウが暮らしていた場所だ。ルミエは変った。石化の呪いを解いて、普通のエルフになっただけではない。黒魔女にキャラの幅を広げた。外見も中身も、ほぼ別人。
サイスはピュリスの図書館に替え玉を置いて、ハルミナの闇の情報屋になった。幻像のファントムを表に出して、自分はその影に隠れている。今は砂漠の図書館にいるようだ。
ワイズは神聖クロエッシエル教皇国の聖都ルシアットにいる。中年ドワーフワイドとして、薬屋を開き大当たりをした。今は薬師から錬金術師に幅を広げている。
一真は一美という女の子になって、アリアス近くのジンメルの道場で、古い日本の文化を学んでいた。一真は前世の記憶を思い出し、大きく成長したようだ。最近はピュリスのセバスの工房に帰ってきていた。
ケリーが鑑定を手に入れて、たくましくなっている。レニーも、リビーも別人のように成長している。ベルベルと言う新人もいる。
取り残されたように思うジュリアスも、実は大きく変わっている。先日のダキニ解放だけでも、ジュリアスの成長は著しい。その時ランダムスチール効果を持つタマモの杖を手に入れた。
「1日の最初の戦いで、1度だけ理力のスチールに成功する。これは真言である」
この古代語を魔法陣に翻訳して図形化した。それをダキニのペンでタマモの杖に描いた。
理力を高めると、カリクガルより格上になれる。そう聞いたジュリアスは、魔法陣の力を試してみたくなったのである。早速ダンジョンに出て、魔物を倒してみた。
ブラウニーに詳細鑑定してもらうと、本当に理力が上がっていた。でもいいことばかりあるはずはないと、ジュリアスは思う。どんな犠牲を払うのかは分からない。怖いので、まだ他の人には使えないジュリアスである。
疲れて家に帰ると、母のナターシャがはしゃいでいた。大きな青い宝石を着けている。大量の塩を持ってサエカに行き、エルフの物々交換所で、この青い宝石と交換してきたという。
ジュリアスには直感が働いた。予兆発見のスキルが仕事をする時の独特の感覚だ。これはエリクサーと関係がある。
無理やりナターシャから青い宝石を借りて、一真のところへ行く。セバスのダンジョンの地下の工房だ。ジュリアスは、居ても立っても居られなかった。ワイズも呼んだ。憑依してもらって、鑑定レベル2で青い宝石の潜在能力を調べてもらう。
これは竜晶石だった。偉大なドラゴンが死んで残す魔石だ。潜在能力鑑定で、エリクサーの素材の一つと出た。エリクサーにつながる確実な手がかりが、やっと一つ出てきた。
エルフ領ではさほど貴重品という認識はなく、物々交換で20キロの塩と交換してもらえる。これはいつかは制限がかかる。一真は買い占めも頭をよぎったが、それは止めた。信用が大事だ。
一真はジュリアスと一緒にセバスを訪問し、竜晶石の大量のコピーを作ってもらった。エリクサーを作るだけなら、これだけあれば十分だろう。
翌日10時、ルミエの拠点に集まる。ルミエはもうどこかへ訓練に出ていていない。集まったのは一真、ワイズ、ケリー、ジュリアス、そしてサイスの5人。
まずワイズから
「みんな集まってくれてありがとう。エリクサーはセバスがサンプル持っているから、コピーすればいくらでも作れるの。でもそれはエルフがサエカにくれたものを盗んだものなのよ」
「盗んだのはうちのファントムだ」
サイスは自慢げである。ワイズが続ける。
「でも私は盗んだものを利用することに気持ちがもやもやしているんです。それで自分で作ろうとしてみたんだけど、どうしてもできないの」
一真。
「成分を分析して、99%はそれが何なのかをつかんだ。その素材で作れるのは、ハイポーションで、それも貴重だ。しかし四肢欠損を治すような力はない」
ワイズ。
「私は虫糞茶を作った時に、似たような事例に会っているの。どうしても作れない成分が、虫に食べられて、糞になると出てくる。それでハイポーションの原料をいろいろな虫に食べさせているんだけど、とんでもなく時間がかかる」
一真。
「俺の考えでは、発酵が関係しているという気がする。ただの勘だけどな。新しい成分は発酵によってできることが多いんだ」
サイス。
「僕が注目しているのはサーラなんだ。サーラは12年前、重大な欠損を手術で次々直している。グーミウッド夫妻、レイ・アシュビー、ケンタウロスのリエリア、それにリングル領主ラセタナの妹の、三つ子の姉妹がいる。7人も短い時間に手術して、その時エリクサーを使っている。買えるもんじゃないし、じゃぶじゃぶ使えるもんじゃないよ。サーラは自分でエリクサーを作っていたと思う」
いろんな推測が出そろったところで、ケリーの連想検索でエリクサーの素材と検索してみた。たくさんのポイントが光る。
そこから今分かっている素材を、除外ワードにしていく。だいぶ少なった。光っているのはエルフの里の近く。サエカ。リザードマンの王国。そしてこの拠点だ、
除外ワードに竜晶石とを入れて連想検索しても何も出てこなかった。
一真が言う。
「素材はもう全部集まっているということだな」
サイスは今分かっていること、関係があるかもしれないことを、連想検索をして次々カード化して行く。数百枚のカードができて、ランダムにばらけている。サイスの脳内風景が、念話2で全員に共有される。
カードは内容が近いもの同士が、自然にまとまっていく。それぞれのグループの内容をサイスが、端的に1行で言い切る。それを繰り返し、大きいまとまりが3つ作られた。
一つからは「サーラはエリクサーを作った」という言葉が浮かび上がる。
もう一つは「エリクサーは竜晶石から作られた」
最後は「砂漠の南の湖でエリクサーができる」
カード型認識術の力である。
ワイズがいう。
「私は虫が食べて新しい成分が生まれると思っていたけど、植物が根から吸収して、実になる時に新しい成分が生まれるっていうことだったのね」
一真。
「ここにはサーラがショウと出会った砂漠の南の湖がある。ここがエリクサーのできる場所の一つなんだ。でもどうすれば竜晶石の成分を根に吸わせることができるかが分からない」
ケリーが言う。
「サーラが残したメモが残っているよね」
みんなで地下にあるサーラの工房に降りる。書棚には錬金術の本とサーラのメモが残されている。サーラのメモを、全員で手分けして読む。
1枚の蓮の花の絵が描いてあるメモが見つかった。古代語で書かれているので、ちゃんと読めるのは一真だけだ。しかし一真でも分からない部分がある。たしかにエリクサーについて書かれていることは間違いがないのだが。
一真は念話で、エルフの通信員に来てもらった。暗号の専門家である。
「これは確かに暗号です。でもこれを解読するには、元になった本がどれかを特定しないとなりません。少し時間がかかります」
ワイズが聞く。
「どれくらい?」
通信員。
「3か月くらい見てもらえれば」
ジュリアスが発言する。
「えーと、なんとなくこの本のような気がするんですけど」
通信員は一応手に取って解読を始めた。本当にその本だった。そしてエリクサー制作のすべてが解明された。
季節的に、今すぐやるべきことがあった。竜晶石を砕いて粉末状とし、湖の土に混ぜることである。
あとは秋に実が成るまで待たねばならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます