第223話 モジュール「連想」
前世で科学者の端くれだった一真。彼のユニークスキルは分解と統合。いろいろ役に立つ。リリエスがいなくなって、武器や防具へ成長を付与できなくなった。一真は古い武器や防具から、リリエスの付与魔法とその効果を分離し、新しい武器に統合した。
チームのメンバーは最近武器を入れ替えた人が多い。だから新しい武器に、成長の効果が引き継げるのは有難かった。成長を付与すると、敵を1000体倒すと、武器の性能の何かの項目が、ランダムに1上がる。
美しさ、堅牢さ、切れ味、魔法効果、その他どんな項目があるか定かではない。定かではないが、年単位で考えると、決して無視できない。
一真がこの分解と統合のスキルで、一番真剣に取り組んでいるのは、スキルを分解して、モジュールにすることだ。しかし問題がある。一真ひとりだけでは、モジュールの有用性をテストしきれない。時間が不足するのだ。
ネストに入ったクロヒョウゴーレムの1号。彼なら無限に近い時間がある。それで一真は、1号にすべてのモジュールの有用性と、それを組み合わせた時の効果を、総当たりで検証してもらっている。
1番有用なのは「アンチ」のモジュールだ。アンチ水魔法は、敵から水分を奪う。生きている相手なら攻撃効果は高い。これはジュリアスが使っている。
土魔法では反物質攻撃になる。質量の2倍のエネルギーが発生するので、強力すぎて危険だ。出現位置を座標空間で慎重に指定し、ごく少量、分子単位で使用しないと危険すぎる。「調整」モジュールと組み合わせて検証中だ。うまくいけばワイズが使える。
贈与に「アンチ」を組み合わせると、相手からスキルや能力値が強制贈与される。ランダムスチールと似た効果になる。これはケリーが使っている。
「アンチ」エイジングも若返り効果が人気だ。「アンチ」結界で敵の結界を消去できる。
「アンチ」以外にも、物質の状態を変更できる「液化」「ゼリー化」「接着」「融合」「粉末化」も有用だ。例えば熱を奪う氷聖石を、敵に接着すれば熱を奪い凍結できる。
「拡大」「縮小」も便利だ。スライムを縮小して、アリアのスキルだった「境界侵入」で体内に送り込む。体内でスライムに拡大されたら、どんなモンスターも死ぬはずだ。これはまだ誰も使っていない。
一真はエリクサーを作ろうと決意した。そのために「連想」というモジュールを、たくさんのクズスキルの中から取り出したところである。「連想」モジュールは関係ありそうなことを思いつくだけである。
エリクサーは現在はエルフしか作れない。一真がエルフの薬師ジュランに聞くと、原料の一つがエルフの守り神ユグドラシルの実なのだという。
だがかつてはヒューマンの薬師でも作れたとう。ということは、ユグドラシルの実以外からも、作れるのかもしれない。可能性が0でないなら、挑戦する価値はある。
ワイズが水を探す旅をしたときは、ゼラリスはサーラがエリクサーを作っていたと言っていた。しかもその時こういっている。
「(ひいお祖母ちゃん=サーラが)いい水は、岩の成分を引き出すって言っていた」
サーラはエルフだから、ユグドラシルの実を使っていた可能性もある。しかしそうではないという気が一真にはした。
成分の分析など正攻法は総て試した。でもワイズは行き詰っている。もう一度最初に戻って、情報を集め直して、考え直さなくてはエリクサーはできない。
あいまいな情報や、なんとなく感じる第六感がけっこう大事なのだ。それで「連想」モジュールの出番だ。
サイスにエリクサーの、「連想」検索をしてもらって、関係があるかもしれない情報を幅広く集めてもらう。曖昧なものを含めてだ。
砂漠の図書館でたくさんの本に囲まれ、しかも魔導書図書館の館長であるサイスには最適の仕事だ。ガセがたくさん混じってもいいのだ。それは情報を精査すると自然と消えていく。
ケリーには「連想」サーチをしてもらう。エリクサーに関係するかもしれないものが、地図上に表示されるはずだ。それを1つ1つ探索していく。
そしてジュリアスだ。彼女の持っている予兆発見は、今まで大事なものをいくつか発見している。幸運のアリアの右目のスキルも使ってもらう。連想検索や、連想サーチのゴミ情報から、エリクサーに関わる大事なものを発見してくれるに違いない。
そしてワイズに憑依した一真である。二人とも鑑定スキルを使える。憑依した状態だと、鑑定スキルはレベル2になる。そしてレベル2の鑑定では潜在能力も分かるのである。素材を見ればそれがエリクサーを作るための素材であるか、そうでないかが分かるのだ。
総ての情報をカード化して、サイスのカード認識術にかける。うまくいけばエリクサーの作り方が分かるかもしれない。これが一真の計画である。
皆に念話して協力を確認した。1週間たった。サイスからエリクサーに関する神話の記録が贈られてきた。
青い竜が少年にくれたエリクサー
昔々、少年が砂漠で迷子になっていました。悪い大人に捕まって攫われたのです。少年は命からがら逃げだしましたが、途中で砂漠のモンスターに襲われて、右手を食われてしまいました。
砂漠を南の方へ歩いていた少年は今にも死にそうで、腕も痛く泣いていました。
少年の歩いている先に青い竜が倒れていました、青い竜は赤い竜と砂漠で10年闘って負けてしまったのです。
赤い竜は弱った青い竜を、砂漠の真ん中に捨てました。青い竜はもう空を飛ぶ事もできず、蛇のように砂漠の砂の上をはいずって、ここまで来たのでした。
でも青い竜はもう自分が死ぬのが分かりました。最後に一口水を飲みたい。それが竜の最後の願いでした。そこに片腕のない少年がたどり着きました。
「青い竜さん。ひどいことになっているね。僕にしてあげられることはないかな」
「僕は喉が渇いて苦しい。最後に僕に水をくれないか」
少年は自分も死ぬと思っていたので、残っていた左手の血管を口で食い破り、青い竜の口に自分の血を注いであげました。もう目が見えなくなった青い竜は、それが血だとは気がつきませんでした。
「ありがとう」
そう言って青い竜は幸せに死んでいきました。少年は気を失ってそこに倒れました。青い竜の魔石はキラッと光って、そこからたくさんの水が湧いてきました。
少年が目を覚ますと、からだは半分以上水にひたっていました。不思議なことに、モンスターに食いちぎられたはずの右手も、自分で血管を食いちぎった左手も傷一つなく治っていました。
湖には今もきれいな花が咲いて、その湖の水を飲むと、どんなひどい傷も治ってしまうのです。これがエリクサーの始まりです。
少年はこの湖の傍に住んで、ひどい傷を負った人を死ぬまで助け続けました。今でもタナルゴ砂漠の南の端には、この湖があるそうです。
サイスは念話の掲示板でこう書いていた。
サーラは蓮の花が咲くあの湖に、死ぬために来たんだよね。
偶然立ち寄ったんじゃなくて、前から湖のことを知っていたんじゃないかな。思い入れのある場所だから、そこで死のうとした。
そして偶然に、転生者のショウという少年に出会った。この神話というか、伝説と重なると思わない?
一真もそう思った。二日後にエリクサー復活プロジェクトのメンバーが集まる。集合場所は、サーラがショウと生活していたルミエの拠点。
ルミエの拠点は、サーラが12年間眠っていた場所だ。サーラは巨樹の空洞に守られて眠っていたのである。そこには偉大な錬金術師、サーラの工房があった。
タナルゴ砂漠の南の湖では、蓮の花が咲こうとしていた。
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