第221話 キラービークイーン

 レニーは帰ったがキラービーの巣にはまだいろいろなものが残っていた。死者の魂をファントムが呼び出し、魔導書に吸収していく。キラービーは動物だけでなく、人間を食べていた。


 中型犬の大きさの凶暴なモンスターが、空から群れで襲ってきたら、家畜がまず喰われただろう。次はそれを守ろうとする人間だ。もう近くには人間はいない。キラービーは勢力圏を広げようとしていた。


 ここはン・ガイラ帝国の南西の端である。20キロ離れたところに、サーザラという10万都市がある。放置していたらサーザラが廃墟になっていた可能性がある。


 塔があるから、この場所もかつてはたくさんの人の住む村があったに違いない。しかし人食いのキラービーに襲われて、あたりは一面の荒地になっていた。


 ケリーはテッドに念話した。テッドはすぐ来てくれた。テッドはジュリアスが攻略したダキニのダンジョンにも関心を示していた。テッドは狐獣人の祖霊ダキニを支援するようだ。


 善意だけからではないだろうとケリーは思う。ドワーフの支配地に近いどこの国でもない場所に港を作るそうだ。テッドの頭の中には、次の戦争でどう動くかという、いろいろなプランが準備されているのだ。テッドにとっては、この場所も価値があるかもしれなかった。


「ケリー。ここまたずいぶん寂しいところだね」


「キラービーの大きな巣があって、ヒトも動物も住めなった。でも塔があるから、昔は村があったと思う」


「海からいい感じで入り江が切れ込んでいる。いい港ができそうだ。お礼に何かあげよう」


「馬たちの使う吹き矢が威力が足りないんだ、テッドならいい吹き矢知っているかなって」


「ゾルビデム商会の扱っている、最高の吹き矢をあげることにするよ。ケリーも商売を覚え始めたね」


「僕がんばって鑑定のスキルを取れたんだ」


「すごい。世界最年少記録だ。鑑定とマジックバッグを持っていたら、一流の商人だ。ケリーは7歳にして、一流商人の仲間入りだね」


「鑑定取れたのは、テッドのおかげだよ。ありがとう。でも僕はもう少しトレジャーハンターを続けるつもりなんだ。10歳のギフトをもらってから、将来のこと考えようと思っている」


 テッドは念話で最高の吹き矢を取り寄せてくれた。攻撃力が80プラスされる。セバスに渡して必要なだけコピーしてもらうつもりだ。吹き矢を使うのはチームの馬たちだけでなく、索敵隊も使う。吹き矢を使う人数はけっこう多いのだ。


 ケリーは吹き矢に、銀の毒針とリターン、追尾のモジュールをセットする予定だ。吹き矢を使う仲間の攻撃力は、飛躍的に上がる。自分だけではなく、チームのメンバーも強くする。正式メンバーだけでなく、その周辺も。強力なカリクガルに対抗するには、連携で勝つしかないのだ。


 テッドには新しい魔導書をあげた。ファントムが死者から集めたこの辺の海の風や海流、嵐、地形などの知識がつまっている。ケリーが鑑定を取得できたのは、間違いなくテッドのおかげだったから。それに無断で吹き矢をコピーする。この世界では許される行為だが、そのお礼もある。


 ファントムはここで帰る。魔導書は十分厚くなったようだ。ケリーは死んだ人たちに、「サンサーラ」を祈る。子孫ではないかもしれないが、誰かがこの街に住むようになる。少しは寂しくないかもしれない。


 テッドは海の知識の詰まった魔導書にもお礼をくれた。魔呼びの笛という近くのモンスターを呼び寄せる笛だ。そしてテッドも帰る。


 魔呼びの笛を早速使うと、逃げていたキラービーが1体ずつ帰って来る。全部で30体いたが、ばらばらに帰ってきたので、一人で粘糸で捕まえた。


 ゴミを漁る。塔の中もだが、周辺に崩れた家の跡がある。そこに埋もれているものを、土ごとマジックバッグに入れる。リペアを使えば思いがけない宝物が見つかるかもしれない。ゴミ漁りはロマンだ。


 塔に戻り、最後の点検をする。何も残していない。クリーンをかけてきれいにする。テッドにませたから、この塔もリペアされて美しくよみがえるだろう。外の夕焼けは終わって、海から月が出てきた。


 ケリーの仕事はまだ終わらない。セバスのところに全部持って行って、使えるものをきちんと仕分けする。まず理力がアップするスクロールだ。


「セバス。理力って何かな。ステータスの能力値に出てこないんだけど」


「自分を詳細鑑定すれば、出てきますよ。木の瞑想で上がっている30の能力値の一つです」


 自分を詳細鑑定すると確かに理力の項目があった。数値は179になっていて結構高い。説明を読むと魔法の威力を高めるらしい。他にケリーが高いのは精神耐性だ。これはケリーの苦しんで来た悪夢のせいだ。それ以外では空間認識力が167だった。


「セバス。僕の理力がけっこう高い。スクロール使うと、僕の魔法の威力強くなるっていうことかな」


「他に空間認識力が高いですね。多分糸術のおかげだと思います。アリアが糸の訓練で、空間の境界を読めって言っていたのは、理力のことだったんですね」


「そう言えば訳の分からないこと教えられていた」


「私も最近分かったんですが、ケンタウロスの瞑想をすると理力が上がるらしいです。空間認識力と理力が関連しているみたいです」


「理力って何なんだろう」


「普通は理力と魔力(MP上限)は同じになるらしいです。これが相手より高い場合、魔法や呪術がかかりやすい。魔法的に、格上かどうかを判断するのが理力らしいです」


「カリクガルと戦う時に大事になると思う。みんなに広めなくっちゃ。僕はケンタウロスの瞑想がんばる。それと糸術つかう時、アリアに言われたこと思い出してみる」


「そうですね。MP少なくても、リンクで常に補充されますから、理力を上げることが大切だったんですね。チームのみんなに教えます」


「アリアとディオニソスが残したスキルで、何か珍しいものあった?」


「アリアに境界侵入、ディオニソスに発酵促進というスキルがありました」


「発酵促進は一真が喜びそうだね」


 女王蜂のスキルには、毒針以外に、繁殖とメイクハニカム、ホバリングというのがあった。鑑定をかけると繁殖は総ての動物に有効な、子孫を繁殖させるスキル。犬たちを増やすのに使えそうだ。それに牧場で家畜に使ったらいいかもしれない。


 メイクハニカムはいろんな素材をハチの巣型のハニカム構造に作り替える。これは念話を介してレニーにあげた。木工に役立ちそうだ。いろんなものが丈夫になる。城壁や防具にも良い。


 ホバリングは追尾のモジュールの精密化に役立つと思う。追尾のモジュールは一真が作ってくれた。センサー(フル)と月蛾触角の座標空間、照準、必中のグローブ、表計算、ジュリアスの予兆発見、アリアからもらった風の糸を組み合わせている。


 しかし相手の動きを捕捉する機能が、まだ弱いと一真が言っていた。蜂のようなモンスターを座標の何カ所かでホバリングさせられれば、敵の動きをとらえる機能が向上する。ケリーは念話で一真に伝言しておいた。


 レニーはキラービーをカード化していたようだ。14枚のカードを1枚に融合させて、ジャイアントキラービーという上位種を作り出していた。


 ケリーは裏技を発見していた。カードの融合は、1枚でも初期値のカードがあれば、融合したカードモンスターは能力値10の初期値の能力になる。しかしすべてのカードモンスターの能力が初期値より上がっていれば、能力値は総てを合計したものになる。


 ケリーは白紙のカードにキラービーの女王蜂を封印した。出来上がったのはキラービークイーンというカードだった。ルミエが顔盗術を使って、女王蜂の顔を奪っていたが、カードではその影響はなかった。顔のない女王蜂カードは不気味すぎる。


 30体のキラービーもカード化した。今すぐ融合したら初期値になる。少し経験値を稼いでから、融合すればそれなりの強さになる。強くなったら、レニーにプレゼントしてあげよう。


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