第219話 キラービーの毒針

 夏になった。暑い日が続く。レニーは相変わらずブラウニーダンジョンに住みながら、精一杯鍛錬を続けていた。


 戦い方はモンスターをすべて完全結界で囲む。これでモンスターの攻撃はレニーたちには届かない。完全結界は内から外へは完全遮断されている。ゴーレム馬ブルースの吹き矢(魔法矢)、レニーの石ころの投擲でモンスターを倒す。


 この戦い方だと中ボスでもなかなか倒しきれない。数時間かけてオークは倒せるが、オーガになるときつい。しかし12時間かけるなら、ボスも倒せる。完全結界は、空気を遮断するので、呼吸ができなくなるのだ。


 明らかに攻撃力不足である。レニーの投擲の武器を石ころから、金属製武器に変えてはどうか。ケリーから即死剣を貸してもらった。


 自動調節で短剣になる。倒せたが、剣を投げるのは、非力なレニーにはきつい。忍者の十字手裏剣も試したが、なんかしっくりこない。レニーは狐獣人のカエリにサーチを頼んだ。投擲用のすごい武器でサーチしてもらう。


 1か所ヒットした。地図データと照らし合わせると、キラービーの巣となっている。最寄りの転移先はン・ガイラ帝国の西端、サーザラという街の郊外の森だった。朝9時、ブルースと一緒に転移する。


 風の強い。まばらに木が生えている丘だった。丘の向こうには海が見える。人家はない。キラービーは花の蜜を集める平和な蜂ではなくて、肉食の蜂のようだ。人間も襲われるのだろう。


 高い塔が見えてきた。人工のものだ。近づくと、さっそく襲われた。中型犬くらいの大きな蜂だ。蜂なの?とレニーは驚く。


 レニーは普通の結界で防ぐ。レニーを中心として3メートルくらいを守ってくれる。一緒に移動もできるので、とても便利だ。犬やコオロギたちも出してやる。みんな、リポップがついているので、倒されても15分で復活する。弱いからキーラービーにかなうわけがないが、経験値稼ぎに戦わせている。


 時々この結界に完全結界をかぶせて、蜂を始末する。ブルースにミラーリンクすると、ブルースはレニーと同じスキルを使えるようになる。二重結界だ。上にかけた完全結界の大きさを絞れば、蜂は2枚の結界に挟まれて身動きが取れなくなる。それを投擲と魔法矢で退治していく。


 塔が見えてから1時間近くかけて、やっと塔の入口に来た。蜂は塔に群がっている。塔がハチの巣に乗っ取られている。塔全体を覆うように完全結界をかける。こうなれば後は時間の問題だ。完全結界の中にいる生物はいずれ酸素不足で死に絶える。


 しかしレニーは夜8時過ぎにはブラウニーダンジョンに帰らなくてはならない。9時には、ゴーレム馬の中に結界を作り、そこに人を入れてダンジョンに送りだす。その仕事は結界士レニーがいなくてはできない。 


 ブルースに頼みごとをする。カオスのカードフォルダーの白紙カードに、キラービーを14体封印してもらう。カードの融合というのができるようで、全部融合したらジャイアントキラービーレベル4に進化した。しかし能力値は10だ。これもリポップするから経験値稼ぎに戦わせることにした。


 完全結界に覆われた塔。その中に、普通結界に守られながらレニーたちは入る。無数の巨大蜂がいる。そこで焚火を始める。燃えそうなものを集めて、レニーの生活3魔法の着火をつかって焚火だ。ともかく燃えそうなものは、盛大に燃やす。しけっているので煙がひどい。しかしそれでいいのだ。


 密閉空間だから、火はしばらくして、酸素不足で消えてしまった。完全結界をできるだけ小さく絞る。蜂は次々死に始めた。死骸はマジックバッグに入れる。バッグが自動収集してくれるのでありがたい。自分で集めるとすごい手間になる。


 離れたところに行ってお昼ご飯を食べる。ご飯のあとは巣の外に出ていたキーラービーを退治する。石ころの投擲とブルースの吹き矢での地味な仕事だ。


 塔は高く、蜂は多い。午後3時になっても片付かない。ケリーに念話して手伝ってもらう。ポータブルダンジョンを設置しているからすぐ来てくれた。


 ケリーは剣で、弱ったキラービーにとどめを刺してくれる。手際がいい。それでも5時までかかった。大きな女王蜂が一匹。これはケリーは殺さずに粘糸で捕え、マヒさせた。あとでスキルを強奪をするそうだ。


 攫われた人間が残した武器などがある。そのゴミもケリーは回収していく。ケリーが探すと、ドロップと宝箱が3つあった。


 宝箱の1つはミスリルの毒針。レニーの欲しかったものだ。重さもちょうどいい。ケリーが最新の追尾のモジュールをくれた。レニーには良く分からないが、投擲した武器が、相手が回避しても、追いかけて狙ったところに当ててくれる。しかも矢や投擲した武器は自動的にリターンする。


 宝箱の他の2つは、スクロールだった。攻撃力アップ50のスクロール。これはレニーがもらった。毒針自体でも攻撃力は上がっているから、レニーの攻撃力不足は、少しは解消される。


 もう一つのスクロールは理力アップ60のスクロールだ。これの効果は分からない。レニーは来てくれたお礼に、ケリーにあげることにした。ケリーはゴミも欲しいというので喜んであげた。


 ケリーはファントムに連絡を取る。人が死んでいる場合、ファントムを呼ぶのだという。魔導書に、記憶やスキルを吸い取るのだそうだ。ケリーはトレジャーハンターをしていて、外のダンジョンを攻略した経験がある。その辺詳しい。


 ドロップはいろいろあったが、レニーが気に入ったのは、羽音をつけてくれるアイテムだ。威圧の効果があると、ケリーが鑑定してくれた。ケリーは鑑定のスキルを取っていた。レニーは年下のケリーに尊敬の感情を持ってしまう。


 普通は回避されるので、音のしない方がいい。しかし追尾できるなら関係ない。レニーにとっては攻撃しているという実感が欲しかった。毒針に付与して、試し打ちをした。結構大きな低音で、人がうなっているような音がする。確かに威圧効果があった。


 キラービーは1200体以上いた。格上のモンスターに挑んだコオロギや、カードモンスターのジャイアントキラービーの能力値は急上昇した。成人の能力値は50くらいだが、コオロギたちは30前後まで上がったのである。これは人間にすると10歳児相当だ。


 あとはケリーとファントムに任せて、私はセバスのところへ帰った。キラービーの死体と魔石で、2千万チコリにもなると、セバスがいう。


 私は毒針を3本コピーしてもらった。ブルースと犬の能力を5%アップしてもらう。それでも余ったお金は、コオロギたちの能力アップにに使う。


 能力値が30あれば、魔法だって1つは入れられる。武技も体当たりや噛みつきのスキルなら覚えられる。


 カードモンスターになったジャイアントキラービーは、毒針のスキルを覚えているそうだ。レニーと被っているが、今後役に立ってくれるかもしれない。今後も使ってあげようと思うレニーである。


 さてブラウニーダンジョンでの夕食後、レニーはたくさんの人を、ゴーレム馬の結界の中に入れて、ダンジョンに送り出す。いつもの仕事だ。


 カシム組も50人ずつの教育を継続している。もともと古い組員は、エルザによって鍛えられていた。この2年でスタンピードをはじめ、いろいろなことがあり、カシム組の能力値は伸びている。さらに寝ながらの研修で能力値を底上げしている。極道としては、みなトップクラスの強さだ。


 カシム・ジュニアは鑑定レベル2を持っている。彼によって潜在能力を発見されて、新加入した組員も、まずエルザがしてくれたと同じ教育を受けている。


 カシム組はその昼の研修に加えて、夜の寝ながらのダンジョン攻略で、さらに組員の能力を伸ばそうとしている。


 王都でカシム組を侮る極道はもういない。それどころか、傭兵や裏の勢力、中には貴族まで、カシム組という新興勢力に注目している。

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