第218話 ケリーとベルベル

 ケリーはアリアの死を受けて、自分に何ができるか考えてみた。悲しむのはその後だ。アリアがいなくなったので、自分が最前線で戦う。それは当たり前だ。


 ダンジョンの掃除。モンスターの間引きのことだが、誰かがやらなくてはならない。今まではアリアの幻像である、サチュロスたちがやってくれていた。


 ケリーは自分のゴーレム軍団20体を集めた。ケリーだけ構成が違う。コオロギ5体、リス5体、チョウ5体、スズメ5体になっている。レニーのところへ行ったとき、レイ・アシュビーの動物パレードの模型を見た。可愛かったので、コオロギ主体のゴーレムたちを、こんな風に変えてもらった。


 ケリーのゴーレム軍団に、サチュロスたちの代わりをやってもらう。しかし攻撃手段がない。ジュリアスを呼んで、隠密と魔弾の魔法陣を刺青してもらった。ゴーレム以外にスライムと犬にも同じものを刺青してもらった。


 ジュリアスは非力なゴーレム軍団には、サチュロスの代わりは無理だと思った。でもいないよりはいいだろう。ゴーレムたちとスライム、犬に「攻撃が絶対に敵から外れない。これは真言である」という魔法陣を追加しておいた。最近覚えたディオニソスの本に書いてあったものだ。少しは効果があると良いのだが。


 ジュリアスは帰った。ケリーはゴーレムたちを、このまま送り出すのは不安だった。カオスのカードフォルダーを人数分購入し、カードを4セット買った。


 ヒト男、ヒト女、トラ、トブトリ、ノコリを順番に、1体に一つずつあげた。追加で白紙のカードを1枚つけてあげた。非力なりに少しは戦えるはずである。少なくともスライムなら勝てそうだ。


 命令はダンジョンのモンスターを、間引き続けること。その途中で得た物は自分が強くなるために使うこと。リポップするので、何も恐れず闘うこと。2年後ケリーのところに帰って来ること。


 シンプルな4つの命令を聞いた後、ゴーレム軍団は、隠密を使って消えた。少しでもモンスターが減ってくれればいいのだ。ケリーも頑張るしかないと決意する。


 次は側近3体の強化だ。スライムは、他の人にはただのペレットスライムだ。ケリーはこれも、本体のレニーのシュビーから、直接分裂してもらった。命名はシュビー2。ワイズがいなくなってから、枠が空いているのでテイムした。分裂すると能力が半分になるので、今の能力平均値は27くらいだ。


 ゴーレム馬はケリウマ、オオカミ型モンスターにはケリイヌと命名。命名すると強くなるというが本当だろうか。


 ケリーが持っている即死剣が5本もあるので、3体にそれを与える。スライムや馬、犬であっても、聖剣や優れた防具は、適した形に自動調節される。防具は念話でチーム標準のパワードスーツを買ってやる。ついでに成長促進の1・8倍のアイテムも買ってやる。


 さらに大サービス。ゴーレムたちと同じカオスのカードフォルダーを4つ買う。カードセットは1セットでいいだろう。


 ケリウマには物理攻撃系のヒト男、ケリイヌには魔法攻撃のヒト女、シュビー2には呪いと毒液のトブトリをそれぞれセット。白紙カードも2枚あげた。マジックバッグの低容量の物もあげて装備はおしまいだ。超豪華装備である。


 ケリーの戦い方はソロなので、苦戦しなければ、仲間はいらない。彼等にゴーレムたちと同じようにモンスターの間引きを命じる。3体は側近なので、2日に1回くらいの頻度で、顔を出すように言って送り出す。


 シュビー2はテイムしたので、連携して戦ってもいい。でももう少し強くなってほしい。ケリーも孤独が好きなわけじゃないのだ。能力平均値50になったら、連れて歩こうとケリーは思った。


 午後ケリーはダンジョンで戦っていた。今日の相手はレッドオーガである。かなり強い。ケリーの装備は、防具はチーム標準のパワードスーツ。武器は防御無視の剣。


 ケリーはカリクガルには、即死剣は無効だと思っている。物理攻撃はカリクガルには無効なのだから。でも防御無視の剣なら、効果があるかもしれない。


 問題は剣の間合いにまで、カリクガルに近づくことができるか。無理だと思う。だったら剣を投げればいい。今日はオーガ相手にその練習だ。


 アリアがケリーに残してくれたのは新しい糸だった。アリアの事を考え始めると、すぐ泣きそうになってしまう。


 アリアはディオニソスと一緒に死んだ。それはアリアにとって、避けることのできない戦いで、アリアは戦いに勝ったのだ。だから泣いてはいけない。ケリーは涙をこらえる。


 ケリーにできるのは、カリクガルとの戦いに、この新しい糸を使うことだ。だから防御無視の剣に、同じ長さの糸をつけて、剣を投げる。糸から風を出し、速度を上げて、方向も操作して、オーガの動きを追尾している。


 問題を一つ発見。当てることがはできる。しかし剣を取りに行くことができない。投げたものをリターンするスキルか道具が必要だ。


 ケリーはリターンとサーチして、それを手に入れられるダンジョンを探す。


 もう一人、アリアからの贈り物に困惑している少年がいる。ベルベルだ。


「ルミエ、12張りのエロスの弓、僕に贈られたのどういう意味だろう」


「チームに弓使いはワイズとベルベルしかいないじゃない。ワイズももう持っているから、ベルベルに贈ってきた。アリアはあんまり細かいこと考える人じゃないから、単純に考えればいいのよ」


「12というのは、僕にドライアドのチームを作れということなんだろうか」


「たしかにベルベルはドライアドの解放と言いながら、仲間に働きかけを何にもしていないよね」


「名前は決めている。ドライアド民族解放戦線議長」


「誰のことよ」


「僕。初代議長になる」


「大げさすぎるわね」


「じゃなんて?」


「せいぜい、ベルベル隊隊長」


「階級は大佐でもいいかな」


「どうでもいいわよ」


「キャプテン・ベルベルと名乗りたいんだけど」


「それ海軍だけだけど。それより仲間は誰もいないの」


「一人いる。その子が並列思考を取ってくれて」


「並列思考を取らなければならないのが面倒ね」


「ドライアドは木の瞑想ができるから、能力値は上がりやすい。そんなに大変なことでもないんだ」


「アリアは12人まで増やせって言っているんだと思う」


「僕ともう一人はいるので、あと10人か」


「アリアは励ましてくれたんだと思うわよ」


「弓の神器使えると言って、誘ってもいいかな。嘘じゃないし」


「全部女の子とかじゃないわよね」


「ドライアドに性別はないんだ。普通ドライアドは人化する時、みんな女性形になる。僕だけ男性を選んでいるんだ」


「どうでもいいけど、12人早く集めて、ベルベル隊作りなよ」


「その前に、エロスの弓のこと、確認しておきたい」


 エロスの弓は金の鏃が魅了。これで射貫かれると、射た相手を好きでたまらなくなる。鉛の鏃が憎しみ。これで射られると、近くの人を憎み攻撃する。

 

 鉄の鏃は普通の矢だったが、これがグーミウッドによって改良された。ミスリルの鏃に変わり、モンスターは殺すが、人は殺さない矢になった。

人命を尊重し、奴隷に売ってお金にする。革命に資金は必要だし。


 矢はアリアの矢筒に無限にあって、自動で番えられる。これも神器の一部だ。さらに魔法矢も打てる。魔法矢は実体はないが、効果は同じ。


 チームには月蛾触角というスキルがあり、照準と併用し、必中のグローブと併用すれば、当たる確率は高い。そもそもドライアドの長弓のスキルは強力で、目視できればどんなに遠くても当たる。外れるわけがないのだ。


 今ケリーが試している風の糸を使えば、追尾が可能になる。そうなったら、ベルベル隊は無敵になる。遠くから必殺の矢が飛んでくるのだ。魅了や憎悪の効果がついた、追尾までする矢である。


 カリクガルには物理攻撃は無効だ。しかしそんな化け物は彼女しかいない。カリクガルを考えなければ、全員が長弓のスキルを持っているベルベル隊12人ができたら、軍隊的には本当に強い。


 ドライアドは事実上不死で、人化して世界中どこでも出現できる。救いは彼等は例外なく優しいということだ。ベルベル隊がドライアドに、戦闘に勝つ喜びを教えたら恐ろしいことになる。彼等の数は、砂漠のゼラリスによって、今は5000体まで増えているのだ。





















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