第215話 ファントムのネスト

 サイスが融合させ、スキルを編集して作り出したカードモンスター。5種類いる。この5種類を少なくても1年は使い続けて、洗練させるつもりだ。姿とスキルは対応していない。独立して編集できる。


 第1はヒト男。ダンディライオン+ミノタウロス+イワンを融合させた。人型の男のモンスターだ。スキルは剣技、怪力、投擲。要するに物理攻撃。


 第2はヒト女。ラミア+イワン+コボルトの融合。スキルは土魔法、ダークバレット、魔法反復。こちらは魔法系。


 第3はトブトリ。カラスと大こうもりの融合。スキルは不運の呪い、毒液。第4はトラ単体。スキルは咆哮。


 第5はノコリ。残り全部を融合。不定形の板のようなものができた。スキルはフラッシュ、大騒音、魔法反射、魔封じ。


 制御がきかないし、サイスは細かいことを覚える気がない。戦うと言っても、ただ戦場で放置するしかない。初期状態の能力値は10。3歳児並みだ。ただ限界突破とリポップがあるので、経験値を稼いで、成長するかもしれない。


 サイスは、カオスのカードという謎のスキルを使うことになった。自分の配下とファントムの配下、全員にホルダーとカードを持たせた。サイスのファミリーは強いものはいないが数が多い。今回カードは持たせていないが、広い意味ではブラウニークランの人たちもサイスの配下だ。


 管理育成はファントムに丸投げしている。ファントムは拡張されたサイスの人格で、サイス自身と言えないこともない。それにしてもいいように使われすぎである。


 ファントムの能力がサイスの7割を超えると、サイス本体も能力値が上がる。ファントムは寝ないし勤勉なので、毎日サイスは押し上げてもらい、自動的に能力が上がる。


 サイスも能力値上昇を狙って、訓練している。ダンジョンに入ったりしているが、ファントムにはかなわない。ファントムには上げにくい、読書スキルや、表計算スキルをもっぱら使う方が効率がいいのである。


 それでサイスは本を読む時に、3倍速を使ってみたのである。なんと本がすごいスピードで読めて、頭に入ってくる。しかも知性の経験値がたくさん入ってくるのである。


 この3倍速読書を使っていると、体感の経過時間も3倍になる。戦いの時に3倍速を続けると体に無理が来て、キングサチュロスのように限界を迎える。しかし読書ならそんなに体の負担にならない。


 寝るときに3倍速を使ってみた。寝る時間も三分の一で十分だった。セバスの時計は、体感時間が6カ月になると、5%アップを受ける時期だとアラームを鳴らす。すごい楽である。魔法操作や、木の瞑想にも3倍速を使う。物足りないので、ケンタウロスの瞑想までしているサイスであった。


 戦いでなくても、寝ているだけでも、3倍速を使えば、5%アップの期間を早められる。サイスはとんでもない発見をしたのかもしれなかった。サイスは、6か月のクールタイムの5%アップが、4か月で受けられている。


 ある日、サイスはチームの武器庫を点検してみた。ここにはピュリスの南の森の遺跡から出た貴重な武器や、スタンピードを機会に引退した冒険者たちの武器がしまわれている。だがあまり活用されていない。増えたファミリーの強化に使えないかとサイスは思ったのである。


 そこに日本刀があった。サイスは一真に連絡を取って、日本刀を鑑定しえもらった。「鋼切り」という業物であった。これは小次郎に持たせることになった。


 この世界では人間は戦いの時に、金属鎧を着ている。だから対人戦では鎧の隙間を攻撃するレイピアや、刃のない打撃武器が愛用される。


 モンスター相手なら。日本刀も使えるが、対人戦に日本刀は無力だった。しかし金属を切れるなら日本刀も使える。達人になった小次郎なら使いこなせるかもしれなかった。


 他にも高級武器アイテムはたくさんあった。サイスが探しているのは使われることがないだろう中級武器である。それをカードのモンスターに持たせようというのだ。


 実力がなければ、武器や防具で補えばいいのである。ごっそり持ち去ってファントムに引き取ってもらった。死蔵品が活用されるなら何の問題もない。


 ファントムがカードモンスターで目を付けたのは。ヒト男とコオロギゴーレムの組み合わせである。コオロギゴーレムの使いみちは警備が多い。しかしコオロギの攻撃手段は乏しく、警報を出すしかできない。


 これにヒト男をセットすると、怪しい人影や、モンスターが接近した時、犬笛の警報と同時に、剣を持ったヒト男が出現するのである。今はまだ弱いが、育てることができる。きっと売れる。


 もう一つ。ゴーレム馬とトブトリの組み合わせだ。これはトブトリを戦闘に使うのではなく、伝書バトの代わりに使う。索敵隊が使えば効率が上がるのではないだろうか。


 セバスに頼んで、ランダムに戦うのではなく、伝書バト代替モードのトブトリを作ってもらった。これも売れそうである。


 ファントム自身も、自分の能力値上昇対策を迫られていた。アリア軍団亡き後、ファントムも前線での戦闘が求められる。しかしカリクガルと戦うのには能力値が低すぎる。


 解決方法は1号と同じように、ネストに入るしかない。ネスト導入のためのコスト、能力値平均100が必要だった。ともかくがむしゃらな能力値上昇をするしかない。


 死に戻りダンジョンに、3倍速を使って長時間挑戦する。キングサチュロスと同じように、限界に挑まなければネストを手に入れることはできない。


 そして1号と同じように、1日につき1か月も虚無に向き合わなければならない。1号は人格が完全ではなく、喋らない。そういう中途半端な存在だから、1か月間虚無と向き合っても大丈夫なのだ。


 一真やワイズよりは長くネストに籠れると思うが、1号のように1か月というのは、人格の与えられているファントムは無理かもしれない。


 そこに3倍速を使って寝ているだけでも、体感時間は早く経過するというサイスの知らせが入る。ファントムにとっては貴重な情報である。


 3倍速を使いまくり、魔石を食べる回数を増やすと、自然と木の瞑想の回数が増える。こうして能力値を無理やり、100以上に増やした。ネクロマンスやリペアなどは、ネストを使う時は一時的に外す。必要な時にネストを外して、また導入すればいいのだ。


 こうしてファントムは、ネストを導入できるまでに、能力値を上げた。おかげでサイスは、自動的に能力平均値が140を超えた。


 ファントムが虚無に耐えられる限界は、3日だった。3倍速をできるだけ使って、体感時間を6日にする。完全に3倍にすることは無理なのである。行動と行動の間に入るスキマ時間などは3倍にはできない。


 ファントムがネストでまずやったのは、各種瞑想と魔石喰い。これらは確実に能力値を上げてくれる。サイスに不足しているのは、体力(HP)、魔力(MP)、攻撃力、敏捷、各種耐性。要するに実戦の戦闘訓練が足りていない。


 そこでファントムは、カードモンスターのヒト男をネストに連れて行った。実戦訓練の相手にするためである。かわいそうだがカードという物として、連れて行くことはできるが、もう外には出られない。


 3歳児程度の強さしかないが、いないよりましである。剣技での戦いの相手になってもらう。1か月たつとファントムは5%アップを受けられたので、火魔法を導入して魔法の訓練もした。ともかく時間だけはあるのだ。

 

 1日に付き体感6日ネストに入ることができれば、5年間のクールタイムがある進化の実を3回使える。2年半の間には、カリクガルの3分の1くらいの能力値にはなれる。


 その恩恵はファントムだけでなく、サイスも受けられるのだ。

 







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