第214話 図書館の悪魔
良い図書館には必ず悪魔がいる。誰もいない深夜の閲覧室で、くつろいで本を読んでいる。だから夜の図書館は危険な場所なのである。
サイスはアリアとサチュロスたちの死に、大いに動揺していた。アリアはカリクガルを越える能力平均値を達成していた。それに加えて、キングサチュロスをはじめとする不死の軍団がいた。
サイスは自分が前線で戦う必要はないと思っていた。戦略家は安全な場所にいて、大局を見ていればいい。むしろそうあらねばならない。
だがアリアたちが死んだ今、サイスの思惑は一気に崩れた。チームの残されたメンバーはみな若く、カリクガルの三分の一程度の力しかない。
サイスを含めて、全員が前線に立ち、連携の力で勝つしかない。サイスが自分を点検すると、カリクガルとの戦線に参加する力などまったくなかった。サイスは無力すぎる自分に恐慌に陥った。
剣技レベル1でどうやって戦えというのか。攻撃魔法は何も持っていない。表計算で戦えるわけがないのだ。
サイスのギフトスキルは読書である。窮地に立った時、サイスが頼るのは本しかないのだ。危険な深夜の図書館でサイスが本を読んでいる。
心弱っている時には。悪魔は優しく誘惑してくるのだ。サイスが手に取っているのは『最短で強くなれる悪魔の魔法』という本である。冷静な時のサイスなら、決して手に取らなかったであろうクズ本である。
サイスは追い詰められ、藁にもすがりたかったのである。この本は図書館の悪魔の仕掛けた罠であった。本に隠れた悪魔が誘惑してくる。
「強くなりたいか」
「強くなりたい」
「この本を使えば3日で強くなれる。ただ死ぬような修行をしなくてはならない」
「どんな修行でも良い。強くなれるなら」
サイスがそう言った途端、どこか知らない世界へ転移させられた。
「ここは地獄だ。7層の地獄の試練を勝ち抜けたら、お前はとてもつもなく強くなっている。立ち向かえ。サイスよ」
イワンという名の最も低級な悪魔であった。凶悪な悪魔だったらサイスの命はなかっただろう。そういう意味では幸運であった。だがサイスは強大な敵地と思い込んで、7層のダンジョンに踏み込んだ。
最初に現れたのは狐火である。火の玉の中でもごく頼りない妖怪で、出てきても誰にも無視されている。
サイスは剣を持ち、真剣に狐火に立ち向かう。100体の狐火を倒して、1層目をクリアした。ドロップしたのは狐火のカード。フラッシュのスキルがついていた。
2層目はワーム。ミミズである。スキルは0,5秒間の沈黙。この瞬間魔法を封じる。3層目はダンディライオン。タンポポの騎士である。スキルは針で刺す。蚊に刺されたようにチクッとする。4層目は木霊。スキルは声を反響。
5層目は鏡。姿を映す。自分の姿と戦わなければならない。ただし相手からの攻撃はない。6層目はホイッスル。スキルは大きな音でうるさい。形は平面型。どうやって音を出しているかは謎である。7層目はボス部屋でカラス型モンスター。スキルは悪運を告げる。実際に運の数値がごくわずかに減る。
朝までかかり、サイスは悪魔の試練を乗り越え、7枚のカードを手に入れた。狐火、ワーム、ダンディライオン、木霊、鏡、ホイッスル、カラス。
「サイスよ。この7枚のカードはお前を英雄へ導くだろう。あと7枚白紙のカードをつけよう。ここにお前が討伐した7体のモンスターを封印できる。強くなれ、英雄サイス」
そう言って低級悪魔イワンは、カードホルダーと封印済み7枚、白紙7枚合計14枚のカードを、サイスに渡した。サイスは大感激である。戦えなかった自分が、ついに戦えるようになったんだと。
翌日仮眠を取った後、サイスはセバスに新たに手に入れた武器を鑑定してもらった。名前はカオスのカードとホルダー。倒した相手を、カードに封印できる。
ただし封印されたモンスターのスキルは、能力値10から上がらない。3歳児並みである。攻撃はランダム攻撃しかできない。コントロールはできないのだ。
「これは使い方によっては面白いですね」
「僕はイワンという悪魔にからかわれたんだ」
「イワンはからかうつもりだったでしょうが、サイスが逆手に取って、活用すればいいんです」
「狐火なんて何ができる。ただポッって一瞬、明るくなるだけなんだよ」
「私達には限界突破もコピーもあるので、能力値や、スキルレベルは無限に上がります」
「僕のプライドを傷つけたイワンを懲らしめてやる」
「その前にホルダーと白紙のカードを大量にコピーしておきましょう」
「それをどうしようと?」
「支配下のもの全員に、ホルダーとカードを持たせたらどうですか。コオロギがこれ持ったら結構強くなります。カードは合成できるようですから、スキルの合成しても面白いですね」
「ドラゴン倒して封印するのはどうかな」
「それも良いですが、まず地道に、いろんなカードを集めるのがいいと思います」
「僕の支配下の全員に持たせるのは、すごくお金かかるんじゃないの」
「いいえ、ホルダーは1万チコリ、白紙のカードは1000チコリです。既に封印されているカードでも2000チコリでコピーできます。小遣い程度でコピーできますよ」
「コオロギゴーレムたちとゴーレム馬と、犬かな」
「ファントムもファントムの配下も含まれますから、もっと多いです」
「じゃあ全員、7種の封印済みカードと、7枚の白紙カード渡すことにする。白紙カードには強いと思ったモンスターを7体封印してもらう。〆切は1か月後にするつもり」
「限界突破できなければ、これはただの面白武器ですが、限界突破スキルがあれば強力になります」
「僕は今晩、イワンを倒す。そしてイワンをカードに封印してやる」
翌日の深夜の図書館にサイスファミリーの戦士たちが潜んだ。50体近くになる。何も知らず上機嫌で現れたイワン。今日もサイスを待って、からかうつもりである。
待ち構えていた皆が、一斉にカードのモンスターを出す。サイス、ファントム、馬2頭、犬2匹は成人並みに戦える。あと300体以上はゴミモンスターである。コオロギたちはまだましだが、カードモンスターは3歳児並みである。
だが低級悪魔は数の暴力に屈した。封印されたイワンは、能力平均値10。スキルはダークバレットのみのカードになった。随分弱くなってしまった。
サイスは50体近くのファミリー全員に命令した。1つはできるだけ能力値を上げること。本人だけでなく、その配下の7枚のカードモンスターもだ。そのためにはダンジョンで今まで以上に戦わなければならない。限界突破とリポップがあるから、不可能ではない。
2つ目の命令は、戦いの中で強いモンスターを封印してくること。ブラウニーダンジョンの深い場所には、結構強いモンスターがいる。彼等をカード化したらけっこう使えるかも知れない。期限は1か月。
1か月後、セバスから強いモンスターとして5体提示された。この5体の他にイワンもいる。少なくとも1年はこれで固定化した方がいいという。
サイスは流動的に多種類と思ったが、種類が多すぎると使いこなせないとセバスはいう。一応納得して5体を確認する。
ラミア(毒液)。氷虎(咆哮)。ミノタウロス(怪力)。コボルトメイジ(土魔法)。オオコウモリ(投擲)。これに加えて、7体のゴミモンスターとイワン(ダークバレット)がいる。(カッコ内はそれぞれのスキルである)
姿形は13体の要素を自由に強化したり、編集したりして融合させる。スキルは姿形とは完全に独立して編集できる。狐火とミノタウロスを融合して、毒液を吐かせてもいいのである。
サイスにはカード型認識術がある。1万冊以上の本を分類し、整理した表計算レベル3のスキルである。脳内空間にカードをランダムに並べて、そのカードを離合集散させる。カードは自然にいくつかに分かれ、そこから何種類かの新モンスターが生まれるはずである。
サイスはまるで自分が神にでもなったつもりでいる。夢が膨らむサイスであった。サイスは、こうしてアリアたちを失ったショックを乗り越えた。
ちなみにサイスもダンジョンでの訓練時間を増やした。もちろん木の瞑想や魔石喰いもしっかりやっている。前線で戦う覚悟は一応できているのである。
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