第206話 エルフたちと巡礼団の出発
薬師ジュランは、長くマンドラゴラから毒薬づくりをさせられてきた。彼はルミエとベルベルに救出され、ブラウニーダンジョンにやって来た。今はここで多くの弟子を育てている。
薬師レベル1を取得するのはさほど難しくない。薬草を自分で集めて薬を作る。これが10種類できれば薬師レベル1を取得できる。
ブラウニーダンジョンには薬草園があるから、薬草の採取は誰でもできる。魔導書があるから、薬のレシピはある。道具もジュランのもとにそろっている。ここまで環境を整えれば、誰でも薬師になれる。
ただ識字と計算だけは、レシピを読むためには必要だ。それを学ぶのが貧困層出身者にとって一番大変だったりする。薬も良く使われるのは10種類くらいだから、薬師レベル1でも仕事はなんとか務まるのである。
大量に養成された薬師を雇ってくれたのはワイド(ワイズ)の薬局だった。ここで店番をしながら1年くらいがんばれば、100種の薬を作って薬師レベル2になれる。
ワイド(ワイズ)の薬屋は大繁盛している。支店を世界のあちこちに作った。下働きの薬師もたくさんいる。
薬師志望の人は多い。そこでジュランは自分で治療院を作ることにした。ジュランは200歳なので、限界突破するとヒールレベル10になった。このヒールスキルをスクロール化して、薬師レベル3以上になった高弟に与えた。そしてヒーラーと薬師のいる治療院を始めたのである。それに指圧師まで加わって、このタイプの治療院も繁盛し始めた。
夢処刑士だったガカドは夢処刑の残酷さにうんざりしていた。しかし彼の技術は有効で、ケリーも大変お世話になった。ケリーの要望で、精神耐性を鍛えた悪夢をダンジョン化した。これが人気になった。
利用したのは、はカシム・ジュニアのための、学校モードの耐性育成ダンジョンである。これは挑戦する人一人一人のの実力に合わせて、難度を変えてくれる。クリアは決してできないが、死ぬ直前で排出し、命は安泰なのである。
ガカドはこの排出の仕組みを、死に戻りにした。リンクは自動的に一時解除される。HP1になると、死亡判定され、ダンジョン入り口に戻る。HP・MPは全回復され、クリアするまでダンジョンからは出られない。
とんでもなく時間がかかりそうだが、二日もやれば、偶然もあってクリアできる。現実の時間は15分くらいしか経っていないのである。体感の時間と現実の時間の、時間のズレが発生しているのだ。
このダンジョンを愛用しているのがケリーである。彼は3倍速でこのダンジョンに挑んいる。2か月後、ケリーの時計のアラームが鳴った。6か月たったから、5%アップを受けにセバスのところへ来いという通知である。
死に戻りダンジョンだけでなく、3倍速も時間のズレを作り出していたのだ。この事実を知ってチームメンバーの多くが、このダンジョンに3倍速で挑むようになった。
中でも進化の実を使えるメンバーは真剣だった。例えばキングサチュロスだ。彼が進化の実を食べて能力値を上げたいのは、アリアのためである。それはカリクガルとの戦いの命運を決する可能性がある。
もう一人はジュリアスだ。能力値の低さに焦っていたジュリアスは、一時期は狂ったようにここに挑戦していた。彼女は水魔法しか使わないという縛りをかけて自分を追い込んでいた。
しかし5年分の時間のズレを作るのは、夜寝てしまうジュリアスには容易なことではない。なかなか実現できない代わりに、各種耐性と水魔法のスキルが上達していた。
通信員は索敵隊の育成に大きな役割を果たしていた。それだけでなく冒険者の指導もしていた。気配察知や気配遮断、隠密というスキルは、普通はシーフのものだ、しかしそれ以外の冒険者が身につけていると、死亡率が大きく下がる。もちろんブラウニーダンジョンのシーフの質もガカドのおかげで大きく上がっていた。
諜報員だった彼は、神聖クロエッシエル教皇国の諜報機関の情報を持っていた。彼の知っている密偵の多くはすぐに姿を隠したが、それでもヴェイユ家の領地とリングル、ドンザヒで、30人以上の密偵を捕まえることができた。彼等はブラウニーの魔導書を厚くし、奴隷に落ちて行った。
中でも教皇国にとって打撃だったのは、他国に数世代にわたって定着していた、草と呼ばれる存在が暴露されたことだった。宿屋をやっていることが多く、密偵が便利に使っていた。その拠点が失われた。
旅人も通信員と同じように、名前を無くした人である。30年以上の旅を経て、やっとブラウニーダンジョンに定住した。ハルミナにもできた温泉に入り、指圧とヒールをしてもらい、酒を飲み、柔らかいベッドでよく眠る。
旅を日常にしていた彼女には、定住生活は退屈になってきた。ジュリアスの温かいテントと、ペレットスライムとペレットストーブを買い、ソロキャンプを楽しむようになった。
小さなストーブで料理はできるし、朝はボリボリの蜂蜜かけでいい。昼はパンとミルク。夜は狩ったモンスターを贅沢に焚火であぶる。火はなにかを癒してくれる。
リンクがあるから命の危険はない。コオロギゴーレムがいるから、モンスターの襲撃に備えて、夜起きていなくていい。マジックバッグを買ったから、重い荷物を持たなくていい。
こんな生活をしているうちに、旅人はまた旅に出たくなったのである。そんな旅人に無口な友達ができた。15歳の成人したての女性である。名前はサマリ。
実はサマリはマリアガルの現在の姿である。セバスはマリアガルにアンチエイジングの魔法をかけて、外見を15歳の女性にした。しかも顔の一部だけに鱗化の魔法をかけた。
こうすると不治の病で忌み嫌われるサンソニア病の患者に見える。伝染はしないのだが、伝染病だと信じられていて、社会から排除されている。彼女をマリアガルだと見抜く人はいない。
旅人とサマリは密かに旅の計画を練る。旅は計画を練る時が一番楽しい。サマリが希望したのは砂漠のレイ・アシュビーの都市だった。
旅人は更新された地図データを利用しながら、コースを探る。聖地巡礼だ。天使降臨や様々な奇跡の場所を巡り、最後に砂漠のレイアシュビーのワイナリーでうまいワインを飲む。それが旅人の旅の計画だ。
コースはハルミナ↓ピュリス↓サエカ↓エルフの支配地↓トールヤ村↓メシュトの牧場↓ゼラリスの植物研究所↓レイ・アシュビーのワイナリーと決まった。
しかしセバスは二人だけで行かせるわけにはいかなかった。サマリが旅の途中で死ぬことは許容できる。問題はサマリがマリアガルだと露見し、カリクガルに再び捕まることである。
旅の護衛が必要だった。護衛の役割は、いざという時サマリを殺すことだ。それを頼めるのは狩人のアミーフしかいなかった。
総て徒歩の旅である。帰って来るのは半年から1年後になる。未知な場所の一つはエルフの支配地域である。ここはエルフ以外は入れない。エルフの旅人は大丈夫だろうが、サマリとアミーフは通れるのか。
旅人は誰も知らない抜け道を知っているという。それを信じるしかない。もう1カ所はメシュトの牧場からレイ・アシュビーのワイナリーまでの砂漠縦断。
旅人には砂漠の旅の経験もあるらしい。飲水の生活魔法があるから、水がなくて死ぬことはないだろうが、無人地帯である。心配である。だがカリクガルに見つかることはなさそうだ。
セバスの心配をよそに、サマリは赤いフードを被り、サンソニア病の患者だと示す決まりに従う。フードで顔を隠して、聖地巡礼団は出発していった。わずかな食料しか持たない。出会った先で乞食するのだそうだ。
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