第204話 索敵隊とジュリアス
索敵隊8人はピュリスの義勇軍所属である。ピュリスの義勇軍は、スタンピード時に起源を持つ。その後貿易商ジェビック商会の支店長アンジェラが買い取り、ジェビック商会の護衛の精鋭を集めて、ヴェイユ家に寄付された。
索敵隊8人は創立当初の義勇軍から、新義勇軍に移籍した。最古参のメンバーで独立部隊であった。ジュリアスを隊長として訓練を積み、専門技術を持つ誇り高い集団だった。
スノウ・ホワイト捕縛で名を上げた。天使降臨の際には、郊外の森で侵入者を防ぐ大活躍をした。しかしアンジェラがいなくなり、ジュリアスが旅に出た。ジェビック商会の精鋭は商会に戻った。義勇軍のメンバーが入れ替わり、索敵隊のの位置づけが曖昧になってきた。
ヴェイユ家は、春から大規模な義勇軍を受け入れる。状況が大きく変わった。索敵隊は専門を無視され、単なる雑用係として扱われ始めた。索敵隊はパン屋とか教師とかの本業を持っている。雑用係ならボランティアはしたくない。
そこにハルミナ領主リオトが、索敵隊8人の移籍を申し入れてきたのである。仕事は索敵のできる兵士の育成である。本業は捨てて専業になることを求められた。彼ら8人は全員移籍に応じた。
ハルミナではブラウニー・クランに住むことになった。そこになつかしいジュリアス隊長が待っていた。再会を喜びながら、8人はまず生活3魔法の限界突破を受けた。
火魔法、水魔法、ヒールがそれぞれレベル1で発現した。攻撃魔法と武技1つはスタンピードの時にエルザからもらっていた。それに今回のスキルが追加されたのである。ある隊員は火魔法レベル1だったが、火魔法レベル2に上がった。それだけでなく新たに発現した水魔法を、仲間の火魔法と交換して、火魔法をレベル3に上げた。
他の隊員もそれぞれ自分を強化した。今までの大活躍で、彼等は一人一人がかなり強いのである。そこに自分をヒールできるようになったのは大きい。この時点で、兵士としては小隊長相当、冒険者としてはCランク相当の強さである。
初日はダンジョンでレベル上げをした。その間にジュリアスが順番に、索敵統合スキルを、背中に刺青してくれる。
犬笛、ハンドサイン、竜の咆哮、隠密、追跡、乗馬、敏捷ブースト、偽装、狼煙、マッピング、絵画、ドラゴンブレス(1%)、伝令、ゴーレム馬ブースト、吹き矢(魔法矢)、木登り(猿手装備)、忍び足(猫足装備)、迷彩装備、ゴーレム馬装備が彼等のものになった。さらにチームメンバーほどではないが、マジックバッグも支給された。
魔石喰いのスキルを導入してもらい、彼等の夕食には豪勢な料理と一緒に、廃魔石料理が並ぶ。プロティンのように彼等の身体に筋肉をつけてくれる。夕食後は5%の能力値アップのスクロールを使ってもらった。夜はゴーレム馬の腹に入って、眠りながらの訓練である。
翌日は『索敵隊の魔導書』を使って、通信員の指導による暗号訓練や伝令の方法、伝書バトの使用法の座学。午後は懐かしいコボルトの索敵ダンジョンでの訓練だった。ジュリアスもやってきて、チームメンバーと同じ温度調節付き下着を全員に贈ってくれた。
夕食後には領主のリオトが来て、彼等にやってほしい仕事を伝えた。4名は索敵兵の養成。2名はハルミナ、2名はリングルへの派遣だ。残りの4名は新しい街ニコラスに住み、周辺のマッピングと索敵。
リオトは索敵隊に重要事項を伝える。2,3年後にニコラス周辺で戦争が起こる可能性が強い。その場合サヴァタン山、ニコラス、ユートン村を結ぶラインが前線になる。その戦争で、どこを戦場とするかを決めるのが索敵隊だというのだ。
必要であれば、丘の造成や道路の移転などもやるという。リオトが参考にしているのは、ピュリスのスタンピードだ。特にモンスターの数を大きく削ったピラリだった。同じような峡谷で、辺境伯軍を待ち伏せしようというのである。
良い地形がなければ、それを作る。壮大な準備だが、今なら間に合う。それに適した場所を索敵隊に探せというのである。
リオトの構想では、峡谷で減った敵を、さらに平原で待ち受ける。一戦した後は水路を使い、素早く街に帰り籠城する。この世界では飲水スキルを全員が持っているし、ヒールスキルがあれば籠城が失敗する可能性は低いのである。
籠城した後は援軍が来れば呼応し、来なければ敵軍の疲弊を待つという作戦だ。ただ索敵隊にはそこまで明かしていない。
3日目から4日間は、ソロ野営の実践訓練である。ジュリアスの刺繍の入った暖かい防水シーツ、ペレットスライムと小さなストーブもある。食事はボリボリと廃魔石である。マジックバッグはまだまだ空きがある。
夜はゴーレム馬と犬、コオロギゴーレム、リスゴーレム、スズメゴーレムなど20体を警戒に当て、自分はきちんと寝る。
支給された時計を見て、朝の決まった時間に狼煙を上げ、伝書バトを本部に飛ばす。
やることはマッピング機能で、地形の詳細データを取得することと、途中で会ったモンスターを討伐することだ。索敵隊にはさほど難しいことではない。
彼等はこの演習が終わったら、すぐ実践に入る。二人はリングルへ移動して、索敵兵の養成。6人はハルミナの義勇軍の中から、適性のありそうな兵士を探して索敵兵を養成する。それが落ち着いたら、本格的地図作りだ。
ジュリアスは、この半年の旅で大きな成果を上げている。イラクサの布の普及や、それを使った防水シーツもそうだし、ビートの発見もある。ヒールレベル1の者を、友好地域で増やしている。これは戦争が迫った時、限界突破を受けさせ、ヒーラーを数倍にする下準備である。さらに廃魔石の「当たり」の確率向上。
しかしジュリアスは少し落ち込んでいるのだった。先日チームの女子会があった。リビーがとんでもなく美しくなっていた。神々しいくらいだ。家族をすべて失う試練を乗り越え、ケンタウロス祖霊の訓練も終えて、強さも備えている。
ルミエは石化の呪いを解いて、別人になっていた。エルフ特有の美しさだけではない。もっと内面的なものだ。もう単なる聖女ではない。善と悪の二面性を備えたミステリアスな人間になっている。しかも能力値がとんでもなく高い。
ワイズは薬師レベルを上げ、錬金術まで使えるようになっていた。それだけなくネストに籠って虚無と向き合い、人間に深みが出てきていた。
レニーは怖がってパニックになっているおちびさんから、確信を持って戦う戦乙女になっていた。しかもすでにジュリアスよりも強い。レイ・アシュビーに偶然出会って、隠れたる神を信じるようになっていた。
それに比べてジュリアスは、相変わらず明るいシンプルな性格なのである。自分だけ大人になれずに子供のままでいるような、取り残された気持ちになっていた。
だがジュリアスも半年で変わっている。まず背が高くなった。それに体つきも大人と変わらない。胸もお尻も丸みを帯びて、女性らしい体型になっている。この世界では15歳が結婚適齢期なので、ジュリアスの身体も自然と成熟しているのだ。
そして旅はジュリアスの心を成長させていた。女極道として、時には旅の刺青師として、あるいは染色研究者として、いろんな人と出会って来た。過ごした6か月の時間は無駄ではなかった。
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