第203話 セバスと一真
Barセバスに一真が来ていた。
「一真、鑑定スキル取れたそうですね。おめでとうございます」
「一番がんばっていたケリーがまだだから、ちょっと後ろめたいけれどね。俺はそんなに必要ではなかったんだけど、ワイズがどうしても欲しいって言って」
「1号まで鑑定スキル取れたんですね。使い道があるかどうか」
「1号の鑑定は、俺が有効利用しようと思っているんだ」
「何に使うんですか」
「モジュールとスキルの組み合わせを、ネストで試してもらいたい。1号には時間が十分ある。1日に1か月ネストにいるんだからね。テストには無限の時間がかかるし、能力値の余裕も必要だ。1号しかできない事なんだ」
「そうですね。鑑定があればその組み合わせが有効かどうかわかりますね。あ、飲み物何がいいですか」
「コーヒーの新ブレンド飲みたいな」
最近セバスのコーヒーは本物とは違う、独自の進化をしている。前世の仕事もあり、酒は好きな一真だが、だからこそこの世界の酒は不味くて飲む気にならない。飲んでもいいのはレイ・アシュビーのワインくらいだ。
「タンポポの根とマンドラゴラ焦がしのブレンドです。どうぞ」
良い香りのコーヒーが出てくる。前世のコーヒーの香りではないが。
「俺もね、鑑定を使いたいことができたんだ」
「何です」
「発酵の研究をもう一度やってみたくなった」
「むしろなんで今まで手を付けなかったか聞きたいです」
「前世で発酵の研究職に付けそうだった。その直前に俺は死んだ。無意識に、死んだときの記憶を封印していたのかな」
「シオンの事ですね」
「発酵の研究を始めると、その封印が解けるかもしれない。それが怖かったんじゃないかな。多分、思い出すのが怖ったんだ」
「文明が進んでも人間のやることはろくでもないですね」
「むしろ文明が進んだからこそ、ひどくなっているらしいよ。人類はもともと争ってなんかいなかったんだ」
「シオンは向こうの世界で幸せになれたでしょうか」
「無理だろうな。そう思うとやり切れない。でもそのことを思い出してしまったから、もう怖れるものは何もないんだ」
「それでまた発酵の研究やりたいと?」
「美味しいパンと酒を飲みたくなってさ。できれば醤油と味噌と味醂」
「日本の味覚は豊かですから」
「ケリーが頑張って、昆布と煮干しの出汁が普及し始めた。俺も鰹節作ってみたんだ」
「プロじゃなくても作れるんですか」
「カツオに似た魚を、煮てから薫製する。薫製を何回も繰り返すから手間はかかるけど、できたんだよ。今度持ってくる」
「ところで一真、今日の本題です。マリアガルどうしますか」
「もう回復した?」
「心は絶望したままですが、身体は回復しています」
「一番いいのは洗脳して、こっちの味方にする。今の時点で最強戦士になる。マリアガルの能力値の平均は850くらいある。今のアリアより上だ」
「絶望しきっている人間は戦えないと思います」
「だとしたら、次にいいのは殺すこと。生かしておくと、カリクガルに利用されるかもしれない」
「本気ですか」
「いやできないのはわかっているさ。それじゃどうする」
「テッドに任せたら、利用するか殺すかでしょうね。無理やりでもそうするでしょう。私達がどっちもできないとしたら、隠すしかないと思います」
「どこへとは聞かない。セバス一人の秘密にして、どこかに隠してほしい」
「まかせてください」
「それにしても、カリクガルって怖ろしいな」
「即死攻撃デスに、動けなくなるフリーズ、そして何回殺してもアバターが死ぬだけ。リンクでHPとMPは常に補充される。一真、どうやって攻めますか」
「戦う2年半後、チームで能力値が一番高くなるのは、アリアか1号だけど、攻め手がない」
「接近した物理攻撃は全く無効だと思います。遠隔攻撃、特に魔法攻撃なら可能性が少しはあると思います」
「攻撃魔法か。俺は闇魔法しかない。ワイズは土魔法。レベルは低いままだ。それ以外だと毒で攻撃すること。でも未知の毒薬を発見しても、相手に注入する手段がない」
「土魔法とアンチのモジュールを組み合わせたら、反物質攻撃になるかもしれないですね。ジュリアスの水魔法も、アンチ・ウオーターで水を奪える。生きている相手には、水分を奪うのは有効かもしれないです」
「ケリーの風魔法。風刃が通用するとは思えないんだ。サイスやファントムやベルベルは攻撃魔法はないはずだしな」
「期待できるのはルミエの呪術、リビーの氷魔法、レニーの完全結界ですかね」
「ルミエの呪術は古代語に変形しないとだめだと思う。そして独自の言語を少しだけ混入する。その混入をどうするかがまだ分からない。でもそれができると、初見だと解呪できないはずだ。格上相手にも効くと思うんだ」
「アカジというホムンクルスが古代語に翻訳するスキル持っていましたね」
「それを改変して、良いスキルを作るつもりなんだ」
「期待できそうですね」
「それはそうとして、ルミエはどうして急に能力値が上がったのかな」
「おそらくユグドラシルの千日の試練が終わったことに関係があるんでしょうね。能力値全部に200プラスされました。おそらくエルフの勇者チームも同じだと思います」
「それでもカリクガルと戦うには能力値が足りない。リビーもレニーも含めて、俺たちは能力値が低すぎる」
「エルフの場合、精霊を内部召喚すると、その精霊のスキルと能力値が上乗せされるそうです。エルフの勇者チームなら、カリクガルに対抗できるかもしれないです」
「俺たちにはどんな手段があるかな」
「木の瞑想をすると、1か月で1ですが、能力値が上がります」
「2年半で30か。そういう細かいことを積み重ねるしかないんだとは分かっているんだ、セバス」
「木の瞑想は1日1回ですが、ネストに入ると分からなくなっていませんか。念のために全員の時計に体感の24時間タイマーをつけましょう。タイマーが鳴ると、木の瞑想をするようにしてみましょう。それに6か月で能力値5%アップのスクロール、5年で進化の実が使えます。そのタイマーもつけましょう」
「俺とワイズ、1号しかネストは使えない。他の人には無駄じゃないかな」
「ケリーの死に戻りの訓練ありますよね。あれは体感で1か月くらいかかっていることあるんです。でも現実世界では10分しかたっていない。それに3倍速のスキルも、体感時間は現実時間の3倍になってます」
「そうか。体感している時間と、現実の時間がずれていんだ。そしてクールタイムは体感時間をカウントしている。タイマーで無駄なく、スクロールや進化の実が使えれば、みんなの能力値は少しは上がる」
「魔石喰いもそうですね。1日100個食べるのが限界だということは経験的にわかったんです。これもタイマーできちんと24時間のクールタイム測りましょう。今までは体感時間じゃなかったですから」
「魔石喰いは効果あるのかな。千個に1個くらいの感覚なんだ。能力値スクロールが当たる確率」
「ジュリアスが異常に当たりを引くんです。ちょっと念話で聞いてみます」
セバスはジュリアスに念話した。
「なんて言ってた?」
「1か月に3か4平均値が上がるらしいです。当たりの廃魔石がなんとなく勘でわかると言ってます」
「全部わかるわけじゃないんだ。それでも何倍かにはなるね。ジュリアスの兆候発見スキルかな」
「私が廃魔石を大量にコピーして、ジュリアスに選んでもらいましょう。それをみんなに配る」
「当たりをコピーはできないの」
「やってみたけれどできませんでした」
「ジュリアスに選んでもらえば、2年半で能力値は、100以上がる。それでもカリクガルの1000には全然届かないけどね」
「できることをやりましょう。遠隔攻撃、特に魔法攻撃を鍛える。能力値を上げる。そのためには訓練を頑張ると同時に、アラームが鳴ったら木の瞑想と配られた廃魔石を食べる。みんなに伝えておきます」
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