第202話 カシム・ジュニアの家庭教師

 リオトに頼んで三日後、家庭教師がやってきた。ルイーズという元気のいい女性。


「火魔導士のルイーズよ。第2学校の校長もしている」


 ルイーズはフラウンド元男爵とエリザの間の長女である。12年前ボルニット家の領主と結婚して、現領主の継母である。ちなみに第2学校はハルミナにあり、魔法科が有名である。


「驚いてます。偉い人に来てもらって」


「リオトの頼みだから二日だけ来てあげたわよ。何をしたいか言って」


「6か月後、学校の入試を受けるんですが、俺は平民で、極道で、獣人です。見下されるのは我慢できないので、貴族の子供たちを、魔法で圧倒したいんです」


「能力値とスキル見たけど、弱いね。鑑定レベル2は凄い。だけど攻撃魔法が火魔法レベル1しかない」


「それを6か月後に、圧倒的に勝てるようにしてほしいんです」


「耐性が低い。耐性を上げないとすぐやられる」


「どうすれば?」


「ダンジョン作れる人知ってるかい?いたらすぐ連れてきて」


 カシム・ジュニアはファントムに来てもらった。


「この邸の庭にダンジョン作ってほしいんだけどできる」


 ファントムが答える。


「けっこうお金がかかるけど」


 カシム・ジュニア。


「いくらかかってもいい。いくらでも出す」


 ルイーズが指示を出す。


「環境耐性ダンジョンが、暑い・寒い・嵐・暗闇の4つ。魔法耐性ダンジョンは4属性+雷・氷・聖・闇の8つ。精神耐性ダンジョン、絶望・恐怖・無気力・孤独・毒。これをランダムに組み合わせてほしいの」


 ファントムが聞く。


「具体的に言ってくれ」


 ルイーズ。


「暑くて、水魔法のとんでもないモンスターが出てきて、無気力になる階層を作ってほしいんだよ。次の階層はまた3要素が、ランダムに組み合わさった階層が出現するというやつ」


 ファントム。


「作ってもいいが、そんなダンジョン、普通死んでしまうぞ。それでいいのかい」


 ルイーズ。


「私は校長だよ。ダンジョンを学校モードにすることができるんだ。死ぬ直前にHP1でダンジョンから排出される。タイマーもついていてね、15分に設定したらその時間になってら、自動的に排出されるのさ。命も安全、気も狂わない」


 ファントム。


「午後から使えるようにしよう。ただ俺がダンジョン作ったら、学校モードの技術、こっちに流出するけど、いいのかな」


 ルイーズ。


「それは構わないんだけどね、あんた私の経験を魔導書にコピーしようとしているよね。そっちはちょっとまずいわね」


 ファントム。


「それは失礼した。すぐやめてデータは廃棄しよう」


 ルイーズ。


「取引しない?私の経験を魔導書にコピーさせてあげる代わりに、うちの学校の魔法科用の魔導書が欲しい」


 ファントム。


「どんな魔導書を用意すればいいんだ」


 ルイーズ。


「属性4魔法+雷、氷、聖、闇の8種類」


 ファントム。


「いいだろう。あんた校長なら学校の先生方の経験、魔導書に吸い込んでこれないか。そうしたら、いいもんできるがな」


 ルイーズ。


「その話乗ろうじゃないか。今晩家へ帰って、先生方全員呼び出す」


 ファントム。


「それじゃ明日の朝、そのデータをもらって、帰る時に8種類の魔導書を渡すってことで」


 午前中はルイーズの魔法講座。カシム・ジュニアは苦いお茶を飲まされ、毎日飲むように指導された。毒耐性をつけてくれるらしい。


 毒魔法を導入し、ルイーズの炎造形というスキルをもらう。実技訓練はファイアーボールに毒を乗せる練習。


 それをえんえんとと行う。戦う相手は貴族の子供だ。毒耐性は、特にマヒ耐性は強くないはず。火とマヒ毒を融合すれば、勝てるというアドバイスだ。


 午後は邸に作ったダンジョンで訓練。実際に作ったのはダンジョンコアのブラウニーだ。地獄の方がましなダンジョンである。カシム・ジュニアは、何回もHP1になって排出されてくる。その度にルイーズがハイヒールをかけて、すぐ送り返す。


 カシム組のヒーラーが呼ばれて、ルイーズは3時前に帰ってしまった。 しかしさすがカシム・ジュニアである。妹たちと美味しい夕食を食べたら、また吐きながら3時間、耐性ダンジョンに挑戦していた。実戦経験がなく、負けた経験がないカシム・ジュニアには辛い訓練だ。


 このダンジョンはカシム・ジュニアの能力が上がると、難度も上がるようにできていて、強くなっても楽になることはない。無限に地獄が続くのである。


 翌日はルイーズがファントムにデータを渡した後、魔法実技講座。炎を圧縮する練習。試験では好きな色を付けて、好きな形の炎を出す。


 ルイーズが見本を見せる。青い炎で青龍の形が作られ、その炎がマヒ毒を含んでいるのか、炎の先で巨大なサイクロプスが動けなくなっていた。ルイーズがカシム・ジュニアに教えている。


「圧倒的に勝つのは、力だけじゃ無理だから。ビジュアルで圧倒するんだね」


「確かに殺したら大事です」


「入試では学校モードを使うから、死ぬことはない。勝った負けたは心理的なもの。それだけ覚えておきな」


 ファントムがやってきて、8つの魔導書を渡す。魔導書は複数で使うことができる。学生一人一人に最適な学習方法を示してくれる、良い道具なのである。


 カシム・ジュニアが地獄の訓練をしている時にファントムとルイーズはお茶をしていた。


「あんたはチームの一員なのかい」


「チームと言われても何のチームなんだか。ジル隊を倒す有志の会はあったさ。でもジルを倒して解散した」


「はっきり聞くけど、カリクガルと戦う気はあるの」


「俺はやるつもりだ。チームはまだできていないけど」


「私はフラウンド家に生まれたの。そして29年前に娼婦に売られた。知っているわよね」


「知ってる。その前からルイーズは優秀な火魔導士だった」


「フラウンド家ととボルニット家に、反乱の濡れ衣を着せたのは、先代のカシム辺境伯。私達はトールヤ村に流刑になり、子供は上から順番に売られた。私が一番先よ。ちなみにすごく高く買ってくれたのよ。美人だったから。当時16歳」


「大変でしたね」


「運命は受け入れるけど、悪意には報復する。現カシム辺境伯は同級生。娼館にきて私をもてあそんだのよ。身体は売るけど、心までは売ってない。その報復を12年前にしようとしたんだけど、サーラが止めたの。カナス辺境伯家を滅ぼすのは10年待ってねって」


「サーラはどういうつもりだったんですか」


「砂漠都市同盟がしっかりして、カナスを乗っ取る。それには時間がかかる」


「でもショウが向こうに帰ってしまったんですね」


「こっちの世界を変えすぎたから、アルテミスに帰されちゃった」


「サーラは、ネクロマンサーのショウに使役されていたんですよね。ショウがいなくなって、良く生きていられましたね」


「結界を張って時間を止めていた。だけどこないだカリクガルにショウと同じ世界へ持っていかれた」


「それ何か証拠あるんですか。みんなが日本に飛ばされたということ」


「私には、彼らが死んだら、輪廻に帰ったとわかる。だあれも輪廻には帰っていない。そして異世界転移はつながる相手を変えることはできないのよ」


「それじゃエルザたちも日本に」


「あれはとばっちりだったのよ。私の責任だわ。申し訳ない」


「サーラはショウと会って、幸福になっているかもしれませんね」


「そうだったらいいんだけど。あなたに味方のしるしとしてスキルをプレゼントする。加速スキル。行動や思考の速さが3倍になる。これをカリクガルを倒すために使って」


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