第201話 女神

 ピュリスでヴェイユ家の諮問会議が開かれた。最初に内政を任されているダレンが発言する。


「君たちの提案のおかげで、ビート、山羊、ハニカム構造の城壁、すべて順調だ。感謝する。友好都市のリングルやサエカ、ハルミナにもこの3つは伝えた。セバートン王国は変るだろう。さて今日は野営の改善について話を聞きたい」


 もうすぐ義勇軍の募集が始まり、後半4日は野営訓練になる。


 サエカのアデルのメイド、マリリンがいきなり言う。


「私はコオロギです」


 グーミウッドが突っ込む。


「あんた、コオロギ型モンスターなんか?」


 マリリン。


「なワケないですよ。コオロギが野営に必要だと言いたいんです」


 ベテラン執事のバトロスが聞く。


「もしかして食糧ですか」


 マリリン。


「コオロギに見張りさせたら、人間が見張りしなくてもいいですよね。夜間ですよ。もちろん」


 バトロス。


「いい考えです。でもコオロギに見張れってどうやって命令しますか」


 マリリン。


「それでグーミウッドさんを訪ねて行きました。そしたら、いつ見てもリーゼさん奇麗で」


 元娼婦のナターシャも言いたい。


「私もリーゼ奇麗だと思いますわ」


 グーミウッドがデレる。


「若いころはもっときれいでな、それでカシム辺境伯の次男に目付けられて。俺なんか、男の大事なところ切られちゃって、リーゼは女の大事なとこえぐられちゃって、いやー奇麗な女を妻にすると大変だわ。子供生まれたのサーラのおかげで、毎日拝んでるの」


 ダレンが聞く。


「それでコオロギは?」


 マリリン。


「見張りするコオロギ作ってって、グーミウッドに頼んでみたんです」


 グーミウッドが受ける。


「ちょうど木工士のレニーっていう子がうちに来ていてな。9歳の可愛い子で、コオロギや小鳥やリスなんかいっぱい出してきて。これが良くできているんだ」


 ダレン。


「それ木で作ったもんですよね」


 グーミウッドが続ける。


「そう木の人形。それでレニーがワイズ呼んで、これをゴーレムにしてくれたんだ。ワイズも美人だぞ。時間はかかったんだが、リーゼも手伝っているうちに、リーゼにもスキル生えてきて、リーゼまでゴーレム作れるようになって。それでできただけ持って来てみた」


 バッグから出てきた小ゴーレムたちは、森で遊んでいるかのように自然である。


 マリリンが説明する。


「えっと、異常があったらコオロギさんたちが犬笛を吹きます。それで犬たちとゴーレム馬が集まって、ゴブリン程度なら倒しますし、大変だったら人間が行くというわけです」


 ダレン。


「見張りの人数を半分にしても大丈夫だ」


 ナターシャ。


「冒険者たちにも人気出ますね」


 グーミウッド。


「特にソロだと夜の見張りは辛いからな」


 バトロス。


「普段から町の警備や、家の警備にも使えそうです」


 ナターシャ。


「それじゃ次は私から。一つは食糧ですけど、うちのお店で出しているボリボリです。食べてみてください」


 手作りシリアルバーが配られる。


 グーミウッドが感想をいう。


「悪くない」


 ナターシャ。


「大麦、木の実、カボチャの種なんかを乾煎りして、どんぐり粉で固めています。保存がきいて、そのまま食べてもいいですし、お湯に溶けばおかゆになりますし、牛乳やヨーグルト、蜂蜜をかけても美味しいです」


 バトロス。


「朝昼は、火をおこさなくても大丈夫そうだな」


 ナターシャが売り込む。


「しかも安くて軽いです」


 ダレン。


「食料輸送は軍隊の最重要事項だからな。これを無理やり略奪すると人心が離れる」


 ナターシャがさらに攻勢をかける。


「もう一つあるんですよ。実は娘のジュリアスが旅から帰ってきましてね。目が一重なんですけど、最近色気出てきましてね。それでイラクサで作った布に、娘が刺繍をすると暖かいんです。しかも防水で雨が降っても大丈夫。この布さえあればテントも毛布もいりませんよ。ウチで売り出す予定ですのでよろしくお願いします」


 ダレン。


「いくらで売り出す予定かな」


 ナターシャ。


「2万5千チコリで」


 ダレン。


「2万チコリなら、1000枚注文しよう」


 ナターシャ。


「イラクサが足りません。イラクサを集めてもらえるなら、2万チコリで受けます」


 ダレンが確認。


「バトロスいいか」


「よろしいです。兵士が持つ荷物が劇的に改善できます」


 グーミウッド。


「そじゃ最後俺な。俺んとこに来ていたレニーな。木工士のスライム連れてきていてな、これが木クズや木っ端を食べて、こんなもん吐き出すんだ」


 1センチくらいの長さの、細い棒である。


「こういうのペレットていうんだが、これをこの金属で作った小さいストーブに入れて、火をつける。これが良く燃えるんだ。煙まで燃やしてしまうんだ」


 グーミウッドは実際に火をつけて燃やす。


 ナターシャ。


「確かに良く燃えて煙も出ない」


 グーミウッド。


「このスライムは生木を食べても、良く燃えるペレットを吐き出すんだ。意味わかるか?」


 バトロス。


「スライムを連れて行けば、森で伐った木を、そのまま燃料にできる」


 マリリン。


「ひとりひとりに、小さなストーブとペレットを支給してやればいいんですね」


 グーミウッド。


「でかいストーブも試作した。家庭用でもいいし、軍隊で使ってもいいんじゃないか、大型のペレットストーブ。値段は決めてないが、これも売り出す予定」


 ダレン。


「買った」


 グーミウッド。


「大きいストーブは、風の魔道具で、火力の調節をしたいと思っているんで、その分ちょっと値が張るよ」


 ナターシャ。


「可愛いデザインだったら、私のレストランでも使いたいですわね。燃えている炎が見えるようにしてほしいですが、できますか」


 グーミウッド。


「ナターシャに頼まれれば作るぜ。飛び切り芸術的な奴。ストーブが可愛いだけでなく、中の炎がきれいに踊るやつを作ってやる」


 ダレン。


「軍隊でもぜひ使いたい。薪は結構な量になる。現地調達もできるが、時間と人手がかかる。それが半分になるだけでも助かる」


 グーミウッド。


「司令部のテントには大きいストーブが便利ですぜ。それに焚火をすると煙で位置や兵隊の人数がばれる。これは煙が出ない」


 ダレン。


「今日も十分な成果をあげられた。最後に何か発言したいものはいるか」


 マリリン。


「そう言えばカシム組の文化賞なんですが、優勝した彫刻をピュリスに作るそうですが、その絵は見られますか」


 ダレンが命じる。


「バトロス。持って来てくれ」


 バトロス。


「これです。こっちが次点になります」


 ナターシャ。


「きれいな女の人ですけど、リリエスに似てますね」


 ダレン。


「リリエスとは」


 ナターシャ。


「うだつの上がらない冒険者で、娼婦の敵だった女です」


 ダレン。


「どういう意味だ」


 ナターシャ。


「男とタダで寝るんですよ。悪い女じゃないんですけど、こっちは商売がやりにくい」


 グーミウッド。


「題名は希望か。貧乏で冴えない男には希望だったのかもな」


 ナターシャ。


「弱いくせに博打が好きでね。金のない時には、みんな借金してリリエスと博打するんだ。私も1回も負けたことがない。貧乏人には確かに希望だったわね」


 マリリン。

 

「あの次点の絵なんですけど、こっちは題名はなんですか?」


 バトロス。


「ハリハとディオンになっています」


 マリリン。


「これサエカがもらいます」


 バトロス。


「どういうことですか」


 マリリン。


「サエカ。いい町なんですけれどデートスポットがないんです。噴水があったらいいなって」


 ナターシャ。


「新しい街って、暗がりもないのよね。恋には水辺と暗がりが必要よ」


 マリリン。


「それにハリハとディオンは、アデルが男爵になった時に、エルフの吟遊詩人が歌ってくれた物語じゃないですか。その時エリクサーを毎年送ってくれるって約束してくれて」


 ダレン。


「マリリン。君は女神だ」


 マリリン。


「私にはアデルがいるんで。それに女神って言われるほどの美人じゃないです。女神の次くらいかな」


 ダレンには、ヴェイユ家とエルフをつなぐ道筋が見えた。

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