第199話 自由都市ニコラス

 ハルミナの諮問会議である。領主リオトが最初に発言する。


「今日は自由に発言するのではなくて、私の決定事項に意見を求めたい。テーマはニコラスについて。まずソトーから現状の確認をしてもらう」


「はい現在人口は約1万人。空き家は20軒ぐらいしかありませんので、ほぼ人口は充たされました」


 レイ・アシュビーが聞く。


「ニコラスの人口は1万人で止めるということか?」


 リオトが答える。


「砂漠都市同盟と同じように、都市の規模は1万を上限とする。いわば小ハルミナ計画というべきかな」


 ファントムが発言。


「都市は人口が多いほど繁栄しているとみなされる。なぜ規模を小さくする」


 リオト。


「規模が大きくなると、個人の意思が無視されやすい。砂漠とトールヤ村での試行錯誤の結果、1万人限度という経験則ができた」


 執事のソトーが続ける。


「冬でしたので農業ができなかく、多くの移住者を城壁等の整備に雇っていました。その結果ハニカム構造での城壁整備と関税徴収施設を西門の外側に設置完了したところです」


 カシム・ジュニアが聞く。


「ニコラスで関税取るんだ?」


 リオトが答える。


「大きい船で1回1000チコリ。個人で100チコリ。定期通行券は月1万チコリ、と個人1000チコリの予定だ」


 カシム・ジュニアが聞く。


「今は無料ですよね。関税取ると不満が出るのでは」


 リオトが答える。


「そこは納得してもらうしかない。大口はサヴァタン山の琥珀採掘関係だから、関税の出どころはハルミナの税金ということになる。ニコラスはハルミナから独立した市になる。安定財源が必要なんだ」


 ファントムが発言。


「ニコラスが独立するんですか。領主は誰に?」


 リオト。 


「領主はいない。王家直属の自由都市になる予定だ」


 カシム・ジュニア。


「王家にはどれだけ税を支払う契約ですか」


 リオト。


「関税収入の利益の半分。百万チコリ程度になる予定だ」


 ファントム。


「王家に要求する内容は?」


 リオト。


「特にない。たかが百万チコリだから、祝福を与えてもらうことくらいかな」


 レイ・アシュビー。


「南からハルミナが攻められたとしたら、ニコラス周辺を通過するでしょう。敵は王家直属都市がこの場所にあると、攻めづらい。そういうことですかな」


 リオト。


「それに領主がいない建前の自由都市で、民主主義の実験をしたいと思っている」


 ソトーが話を受け継ぐ。


「ニコラスは正方形を基調にした都市づくりになっていて、32の集合住宅が4辺に均等に配置されています。各辺の中央にそれぞれ門がありまして、中央は公共的施設や市場などの商業施設になっています」


 リオト。


「カシム組や隠れたる神の教会はニコラスで何やっているか、ちょっと報告してくれ」


 カシム・ジュニア。


「うちは30人くらいいる。城壁改修で常駐しているのが10人くらい。居酒屋が一軒あって、6人働いている。あとはホテルと賭場があって、冒険者パーティーでニコラスを根城にしているのが1つ。あとはリサイクルショップをやっている」


 レイ・アシュビー。


「隠れたる神の兄弟団は、修道院がある。活動はこないだ寄付された図書館の運営。それとワイン造りをする予定だ。たしか40人くらいいる」


 リオト。


「公務員はどれくらいいるかな」


 ソトーが答える。


「行政系20人。軍関係20名、裁判官2名。直営治療院にヒーラー10名、薬師2名います。開校予定の学校の教師などが3名」


 リオト。


「軍関係は2名残して、水上警備隊とする。ハルミナからサヴァタン山まで船で警備してもらう」


 カシム・ジュニア。


「軍隊を無くするんですか?」


「いや来年からニコラスだけは、義勇軍ではなくて、やっぱり徴兵制にする。その代わり税を収入の十分の一にする。もし徴兵に応じたくない場合は従来通り、収入の6割の税を納めてもらう」


 ファントムが言う。


「民主主義はどこへ行ったんです?」


 リオト。


「32の集合住宅からくじ引きで、2名代表を出してもらう。任期2年の議員だ。64人の議会で、選挙で代表5人を決めてもらう。この5人が月番で市長をやってもらう。これは砂漠都市で一般的な民主主義だ」


 ファントム。


「しかし領主から与えてもらうもんなんですか。民主主義というやつ。自分で達で作るもんだとばかり思っていましけど」


 リオト。


「嫌ならやめられるようにしておく。ある程度時間がたったら、完全に住民に任せるつもりだ」


 カシム・ジュニア。


「どれくらいですか」


 リオト。


「戦争が終わったらかな」


 ソトーが聞く。


「この仕組みで戦争が始まった場合、戦えるでしょうか」


 リオト。


「戦力的には可能だ。1万人の全員が兵士だから」


カシム・ジュニア。


「戦術的には?」


 リオト。


「基本は籠城。食料の備蓄を十分にして、城壁を頑丈にする。城壁の上から下に攻撃する訓練をしておく」


 レイ・アシュビー。


「逃げる時はどうすればいいですか」


 リオト。


「ハルミナ方面へ逃げるには、水路が一番早い。安く作れる葦船を用意する。しかし籠城して援軍を待つのが現実的だろう」


 カシム・ジュニア。


「難しいのは戦う合意の形成ですね。領主がいないので、話し合いで戦うかどうか決めなくてはならない。多数決というわけにもいかないでしょう。人を殺すんですから」


 リオト。


「だから1万人を上限にしている。合意形成しやすいように。それにどうしても嫌なものには強制しないようにしたい」


 ファントム。


「3週間の徴兵期間で、籠城戦の訓練しておけば、できるかもしれないですね」


 レイ・アシュビー。


「マジックバッグを手に入れることができたら、食料の準備は大丈夫でしょう」


 カシム・ジュニア。


「食料の準備にはまず収穫がないと。ニコラスはまだ1回も収穫していませんが」


 リオト。


「今年は戦争はない。来年からなら、町の4隅にダンジョンを作ってあって、そこにアルラウネを移植している。城壁の外の畑に、麦、ビート。豆、野菜の4種を植えて、ローテーションしていくようにしたから。多分豊作になるはずだ」


 諮問会議は終わった。カシム・ジュニアは別室で、でリオトにお願いをしている。


「実は10月から学校に入るつもりなんです」


 リオト。


「君が学校入るとは。すでにこの町の重臣のようなものなんだけど。今更学ぶことはあるのかな」


「人脈づくりのためです」


「ハルミナの第6学校に入って、諮問会議は続けてほしい。そうしてくれるなら、君の望みを何かかなえてあげよう」


「わかりました。実はお願いが2つありまして」


「2つか。まあ、いいだろう」


「1つはン・ガイラ帝国の貴族の位が欲しいんです」


「まああそこは金を払えばだれでも貴族になれる。兄がドンザヒの領主だから頼んでみよう」


「もう一つは、私は攻撃魔法がほとんど使えないので、良い家庭教師を紹介してほしいのですが」


「それなら、僕の姉が火魔法使いでは最強だから、頼んでおく。じゃあ、入学はハルミナの第6学校でいいね」


「はい」


 カシム・ジュニアは入学試験は、王都の第1学校で受けるつもりだ。そこでぶっちぎりの首席になり、そのままハルミナの第6学校に転校する。同世代のトップが誰か、世間に見せつけなくてはならない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る