第197話 結界に隠された屋敷

 サーラが眠っていた巨樹は、今ルミエが拠点にしている。場所はセバートン王国とン・ガイラ帝国の中間。どちらの国の領土でもない。そこにドライアドのベルベルが来ている。彼はルミエの同盟者だ。


「ルミエ。何か変化起きていない?」


「どいうことよ。私はいつでも美人だよ」


「ハイエルフの勇者パーティーが現れたらしい。勇者と盾士、盾士はエルダードワーフなんだって、それと賢者と弓士。みんな精霊王を召喚しているという噂だよ」


「関心ない」


「前衛二人、後衛二人の勇者パーティーだね。本当はそこにルミエが聖女で加わっていたのかな」


「私は血まみれ聖女で、呪いの魔女よ。これで満足しているわ」


「ハイエルフは特別な時しか現れないんだ。千日の試練はハイエルフを生み出すためにあるんだよ。ルミエも試練終わっていない?」


「ステータス見た限り、変化ないわね。でもいい機会だから、終わらせる」


「どうやって?」


「試練終了。解呪」


「どうなった?」


「能力値がとてつもなく上がった。運以外が200上がっている。すべてのスキルが1レベル上がった。そして記憶が戻った。全部思い出した。家族のことも」


【名前】  ルミエ

【人種】  ハイエルフ

【年齢】  12歳

【HP】   311/311

【MP】  332/332

【攻撃力】 344

【防御力】 285

【知力】  281

【敏捷】  299

【器用さ】 283

【運】   82

【種族スキル】 精霊召喚(同盟者ベルベル)

【武技】    棒術レベル5

【攻撃魔法】  ホーリーアローレベル5 ホーリーレインレベル2 

        スキル強奪レベル2 

        呪術レベル3(呪縛 魅了 顔盗術 エイジング 鎮静

        永遠の旅 石化 沈黙 不眠 不死 激痛 鱗化

        夢魔)

【その他】   ヒールレベル5 浄化レベル3 

        解呪レベル2 料理レベル4 並列思考レベル2

【スキルモジュール】 アンチレベル2


「刺青されたチームスキルや索敵統合スキルまでレベルが上がっている」


「ルミエ、人類最強になった」


「人類最強はカリクガルで、私なんかその三分の一よ。ハイエルフの勇者パーティーもいるしね」


「精霊が僕でごめん。勇者パーティには精霊王たちがついてるのに。ルミエも精霊王の誰かがつくはずだったらしい。精霊王を内部召喚して一体化したら、能力値はさらに500上がるはずだったのに」


「ベルベルだって、ドライアド解放の英雄になるんでしょ。私の方が見劣りするわよ」


「それもそうだね。それで記憶戻ったから、エルフの里の家族のところに里帰りするの?」


「ユグドラシルとの喧嘩に勝ったら、帰るつもり。ということはカリクガルに勝ったらだけど、その時帰る。今はまだ帰るつもりはないわね」


「心強いな。僕もドライアドの解放を果たせるように頑張る」


「あんたが頼りよ。同盟者なんだから」


「でもこないだのジルとの戦いで、僕は何にもできなくて、少し弱気になっているんだ」


「私も同じよ。格上のジルに、私の呪術が通用しなかった。でもね私見つけたの。カリクガルの知らない魔法言語で呪術かければいいのよ。同じ言語でかけているから効かないの」


「ルミエは偉い。僕には攻撃手段自体あまりなくて。木魔法は生命を育む魔法だから。それでね僕はは支援魔法で頑張ることにした。支援魔法なら味方にかけるんだから、レベルが低くてもかかると思うんだよね」


「精霊王以上に役に立ってよね」


「それと戦いの場では必要ないかもしれないけど、付与魔法やリペアの魔法は、チームに必要だと思うから僕がやろうと思う」


「ベルベルあんたは偉い」


「それでね。話は変わるけど、エルフの奴隷なんだけど」


「うん、誰かいた?」


「メイドしている人がいた」


「どこよ」


「ン・ガイラ帝国の北端、砂漠との境目当たり。だけど、いろいろ変なんだ」


「例えば」


「奴隷メイドのエルフなんだけど、話しかけても返事をしない。何か呪術をかけられているみたいだ」


「他には」


「住んでいる所に、厳重すぎる結界がかけられている」


 ドライアドの情報網に、エルフ女性の情報が、5年くらい前からあがりはじめた。田舎の市場に、フードで顔を隠して買い物に来ていると。全世界に満遍なく生えている木がドライアドの本体なので、ドライアドは昔からエルフの情報網を務めていた。


 ベルベルが物化して、メイドの買い物籠に紛れ込み、1日潜入して来た。最近ベルベルは、こういうスパイ系の仕事も得意になった。


 外見は森の中の孤立した一軒家だ。それにしては大きな結界で厳重に閉じられていた。だから誰も、モンスターも、動物や虫でさえ、この邸に近づくことはできない。


 40代に見える女性が住んでいた。彼女が女主人のようだった。ほとんど口を利くことがなく、無気力に見える人だ。20代の美女がいて、この20代の女性は食事をしない。人ではないのだろう。エルフは女主人ではなく、この女性の奴隷だった。


 家事をしているのは奴隷のエルフ。彼女だけは結界の出入りが自由で、毎日市場に買い物に来る。ベルベルが話しかけても反応がない。魅了にかけられている感じだ。


 ベルベルから話を聞いたルミエは、急いでアリアに念話した。


「40代の女性を、厳重な結界で閉じ込めている邸を見つけた。ン・ガイラ帝国の北端の砂漠との境目」


「いつぐらいから」


「エルフのメイドを、町の市場で見るようになってから5年」


「中にいるのは何人で、どんな人」


「3人。女主人は40代で無口。そして20代の女。権力を持っているのはこの女。もう一人は若いエルフのメイド、20代の女の奴隷。魅了にかけられているかもしれない」


「大物に当たったかもしれないわね。しばらく何もしない事ね。気づかれて逃げられたら困る」


 アリアからテッドに連絡がいく。闇の組織が動く。密かに監視が始まった。だが何も分からない。ベルベルが再度物化して潜入する。


 ベルベルは動くことを禁止される。音声だけはカード状態でも共有できる。まるで盗聴器だ。それでもわかることは少ない。午前中に20代の女が、女主人を叱責しているような音声が入る。食事以外は、それだけだ。


 エルフの奴隷は外見から、18歳のドアンというエルフと判明。13歳の時に、エルフの里近くから誘拐されていた。


 ベルベルに一時的に鑑定を導入する。鑑定によりドアンの主人、20代の美人はアカジという名前だとわかる。強力な魅了によって、ドアンはアカジに絶対服従状態になっている。この魅了はスノウ・ホワイトの使っていたものと同じだった。


 つまり背後にいるのはカリクガル。別の情報から、管理者はFと推測。アカジは現場責任者。そして40代の幽閉されている女性がマリアガル、カリクガルの双子の姉妹で、ライバルだった人物と推定された。


 ファントムに協力を求め、憑依のスキルを導入してもらい、奴隷のドアンに憑依してもらう。ドアンの記憶を探り、ドアンの目を使って、さらに情報を集める。


 結界も分析される。広い敷地を覆う大きな結界だ。いつでも結界に入れるように、ポータブルダンジョンを設置する。これで結界を無視して屋敷に入れる。設置の実行者はベルベルである。この期間、雨女の木はお休みにしてもらう。


 気がつかれずにマリアガルを確保するのが望ましい。しかし気がつかれた場合は、ダンジョン転移を利用して、強引にマリアガルを拉致する。だがそうなった場合、カリクガルと全面対決になる。それはまだ避けたいのだ。


 奴隷だった通信員の協力を求める。通信員は神聖クロエッシエル教皇国の諜報機関の中枢にいた。結界による幽閉が、どのようなシステムになっているかも詳しいはずだ。

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