第195話 鑑定スキル

 ワイズの薬師レベルが1つあがって8になった。最近の最大の成果は「神の乳ブースター」である。似たような三つの薬を一つに統合した。アリアの乳とカリクガルのポーション、ワイズの万能のブースター。これを良い所を残して統合した。


 HP、MPを含めて、すべての能力値を3%上げてくれる。副作用もないから何回でも使える。2時間効き続けて、苦くない。素材が安いということも重要だ。


 エルフの毒薬士ジュランのおかげもある。彼が教えてくれた、マンドラゴラから作る毒薬や媚薬は種類が多かった。薬師レベルが上がるのは、作った薬の種類が多いことによる。


 それだけではない。一真の記憶の中から、異世界日本の健康食品を再現した。これも薬品として認定された。店での販売でも人気である。


 ハチから採れるプロポリス、イチョウ葉、ブルーベリー、クコなど無数にある。セバスのダンジョンメニューに注文すると、これがけっこう買える。

 

 買えなかったら、サーチしてみる。案外身近にあったりする。一真の知り合いだったシオンに使われた睡眠薬も、サーチに引っかかった。サエカの浜辺に群生している植物から採れた。これはこの世界では未知の薬だ。


 ジルに使った麻痺薬は、もう耐性対策が取られていた。カリクガルに使うのはこの世界にまだ存在しない薬でないと効果がない。ワイズの役割はエリクサーの再現という守りの面と、新しい毒薬の発見という、攻撃の二面性がある。どちらも手を抜けない。


 錬金術はエリクサー再現のための手段である。しかし幅が広く、薬師だけでなく、魔道具士や、鍛冶師のスキルも含みこんでいた。成果も大きい。クロヒョウのゴーレム、一号を作り出すことができた。


 リリエスとケリーが手に入れてくれた新たな二冊の魔導書がある。月蛾のダンジョンから出た『結晶世界の錬金術』。これはいろんな物質の結晶を作ることから始まる。鉱物や金属の勉強の土台になるらしい。勉強していると、結晶化というスキルが発現した。


 魔法でいろんな結晶が作れる。これは楽しい。一真の分解の魔道具で物質を精製し、結晶化スキルを使う。ワイズは沼にハマった。一時期部屋がきれいな結晶であふれてしまうほどだった。


 木炭などの炭素は普通きれいなものではない。これを結晶化すると何種類かの結晶ができる。お気に入りは、きれいで硬い炭素結晶だ。結晶化スキルは汚いものを宝石に変える錬金術らしいスキルだった。


 ルミエがワイズのところに遊びに来て、石化を解除したり、自分に石化をかけて見せたりした。ワイズが冗談で石化した皮膚を結晶化してあげた。ルミエの肌が真っ白になる。気に入ったようなので、今度は炭素結晶にかえてあげた。


 ルミエはそれをさらに鱗化した。鱗化はライラ姫にかけられた呪いだった。しかし体が宝石で飾られているようで、幻想的にきれいだった。しかも硬くて丈夫。ナイフで切っても傷がつかない。ただ普段は普通の皮膚が楽でいいそうだ。石化されていたルミエには、普通の肌が貴重なのである。


 結晶化は面白いが、それが何の結晶なのかはこのスキルではわからない。鑑定スキルが必要なのだ。もう一冊の魔導書『ヘルメスの魔導書』は物質の合成、特に金属の合成をテーマにしているようだ。やっぱり鑑定スキルを取得するしかないか。


 鑑定のスキルは、自分の力で取るのは大変である。ケリーだって鑑定スキルを取ろうと長い間頑張っている。


 サイスの魔導書図書館には『鑑定』の魔導書があった。エルザとカシム・ジュニア、リリエスの知識を合体したものだ。


 鑑定の魔導書の中はさらに様々な分野の魔導書が分冊になっていた。ワイズがクリアできそうなものは『キノコ大図鑑』『染色素材の本』『毒魔法』あとは鉱物・宝石分野、植物分野、薬品分野、昆虫分野、地図・地理分野くらいだ。


 ワイズは困った時は一真に頼る。念話で話す。


「一真。私、鑑定のスキル必要なんだ」


「鑑定は自分で取るのは時間がかかる。少なくとも三,四年は必要かな」


「私たちが協力したら何とかならないかな」


「実は憑依したら可能かもしれない」


「そんなことできたっけ」


「俺の持っている映像記憶を、カード型記憶に編集して、ワイズに渡すと、経験が共有できるはずなんだ。憑依はまだ謎が多いスキルなんだよ」


「それじゃたくさんの人に憑依して、その経験を私にくれるかしら」


「いや憑依って、だれにでもできるものじゃないんだ。今俺ができるのはワイズと、ケリーだけ」


 かつてアンジェラやクルトにできたのは、よっぽど相性が良かったのか。それとも一真の心がまだ柔軟だったからなのだろう。


「ケリーが協力してくれれば相当助かるわね」


「あとはワイズとケリーの従魔とか、ゴーレム馬とかも大丈夫かもしれない」


「私には1号と馬いるし、ケリーにも馬いるから、皆で協力したら2か月で何とかならないかしら」


 ケリーは協力してくれることになった。1号はネストを使える特別訓練コースに入っているが、鑑定の習得は問題ないようだ。まず全員で魔導書を共有する。


 1号と馬たちには、未知のモンスターと戦ってもらう。ブラウニーにそのための特別ダンジョンを作ってもらった。


 ケリーはダンジョン外の未知のものの担当。ブラウニーに教えてもらい、サーチでそれを捜し歩く。地図情報が更新されているから、とてもやりやすい。


 一真とワイズはレイ・アシュビーの図書館でたくさんの本の知識を仕入れる。


 魔導書は前の段階をクリアしないと、次の段階は現れないが、普通の本は段階関係なく読める。二人はページをめくってカード型記憶でそれをデータ化しているだけである。読むのはネストに籠っている時でいいのだ。


 砂漠の図書館にはサイスをチーフとしたブラウニーダンジョンの清書チームが入ってる。すでに半分くらいはデータ化され、清書されて本になっている。二人はそのお手伝いも兼ねている。もちろんデータは念話2スキルでそのままもらう。


 そこで一真が凄いものを見つけた。江戸時代の日本からの転生者の書いた本である。『漢方異世界植物対照』『ツボ覚書』『珠算教本』の3冊である。署名はないが多分ジンウエモンだろう。リッチになって闇落ちする前に書いたと思われる。


 探せばまだ出てくるかもしれない。リッチになる前のジンウエモンは、間接的にだが、ジンメル達に大きな影響を与えた。ジンメル達の道場では長い間ジンウエモンは神に近い扱いだ。彼等はジンウエモンがリッチになったことは知らない。彼等にこの本のことを教えたら、感激するに違いなかった。


 それよりワイズが興奮している。漢方薬という新しい世界だ。この世界と薬草を使う点でよく似ているが、全く違う薬の世界がこの本には詰まっている。この本に書かれているのは、この世界の薬草が漢方薬の何に当たるか。そしてそれがどのような効用があるかなのだ。


 ワイズは鑑定スキル以上に、この本に夢中になった。いやこの本の薬草を見つけて新たな薬を作ることも、鑑定スキル習得にはプラスに働くので、全く離れたわけではない。


 ドタバタしながら1カ月半たったころ。プチ鑑定というスキルが発現した。これが出るとあとはこのスキルを1年間くらい使いまくれば鑑定は取れると言われている。


 最初に鑑定スキルが発現したのは1号である。1号は1日に1か月ネストに籠る。1号はネスト内で、24時間休みなく、虚無を鑑定したのである。彼は5日で鑑定のスキルを手に入れた。


 一真とワイズは10日かかった。普段の3倍ネストに籠った成果である。鑑定スキルが取れると、二人はケリーを残して去った。


 ネストのないケリーは、こつこつ頑張るしかない。1号の協力を得ながらダンジョンで未知のモンスターと戦う。サーチで未知の生物や商品に出会う。図書館で知らないキノコを暗記した。鑑定がとれたのは盛夏になってからであった。


 サーチのレベルが一つ上がったのでケリーは喜んでいる。それに自分の力で鑑定スキルを取った最年少記録だろう。ケリーはまだ7歳なのだ。









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