第194話 またテッドとアリア
「ついにジルを倒したな。あのジルが奴隷落ちとは」
『ケリーがやる気になってね。どういう思考回路か分からないけれど、リリエスの死が、何かのきっかけになったようなのよ』
「一真、ワイズ、ルミエ、ベルベルが参加していたと聞いた」
「ジル隊の直接の被害者3人と、ワイズは一真の従魔、ベルベルはルミエの同盟者だからね」
「ザッツハルト傭兵団は弱体化しているんじゃないかな」
「花形のジル隊の4人がやられて、しかも奴らの本当の顔が晒されたから。特にジルがカシム組の小次郎(一真)に、1対1の決闘で負けたのは大きかったと思うわよ」
「強くなったな。子供たち」
「ケリーの精神耐性は強くなったわね。毎晩2時間おきに泣き叫んでいたから、あれで精神耐性が強くなった」
「他の子たちはどうなんだ」
「ルミエの呪術は効かなかった。ワイズの麻痺薬もダメ。ジルは麻痺薬に耐性があった。既存の毒薬は効かない。一真やベルベルには強い攻撃手段がない。勝てたのは運が良かったからよ」
「カリクガルとの戦いはまだ無理か」
「今のあの子たちじゃ到底かなわない」
「やっぱりアリアがいないとだめか」
「私がいても勝てるかどうか。カリクガルにはマリアガルに勝った秘密の武器があるのよ。それが使われたら私にもどうしようもなくなるわね」
「まだ2年ちょっとあるから、何とかなるさ。それよりチームは解散か?」
「解散したいところなんだけどね」
「レニーとケリーは解放してやんないと」
「それがね、レニーが何か変なスイッチが入って、カリクガルと戦うっていうのよ」
「レニーは怖くてパニック起こしたんじゃないのか」
「そうだったんだけど、どっかでレイ・アシュビーと会ったようなのね」
「隠れたる神を信じたとして、どうして戦おうと思うのかな」
「わからないけれど、この頃はゴーレム馬のブルースから出て戦っているのよ」
「危なくないのか」
「パワーレベリングで能力値の平均は100以上あるから、ケリーよりは強い。それに完全結界でモンスターを囲んで、一方的に攻撃するスタイルだから、負けはしない」
「カリクガルと戦ったらどうだ」
「完全結界を破られておしまい。今のレベルでは無理」
「結局アリアとサチュロスたちでカリクガルを倒すしかないってことか」
「でも勝ち筋がまだ見えない。レベルを上げるだけでは勝てるとは思えない」
「秘策はあるのか」
「ないこともない」
「教えてくれるか」
「1号」
「クロヒョウのゴーレムだな。ワイズが可愛がっている。あれをどう使う」
「進化の実を食べさせてみたらね、能力値が1・5倍になったの」
「ゴーレムには進化の実は効かないと思ったが」
「ブルースは駄目だったのよ。1号だけ特別なの」
「でもそれだけじゃどうしようもない」
「能力値がすべて100以上になって、ネストが導入できたの」
「ワイズや一真が使っている虚無空間のスキルだったかな」
「ネストの中の時間は現実世界の時間とは違う。無限に訓練できるのよ。いくらでも強くなる」
「でもワイズが言っていたが、虚無に向かい合うのは限界があるって。孤独に耐えられなくなるって、言っていなかったかな」
「そこはゴーレムだから、大丈夫みたいなの。作るときにワイズが自分の魔石を削って1号に使ったらしい。そのせいで不完全だけど人格がある。獣人と似た属性を持ってしまったようなのよ。もともとモンスターが人化した存在を、獣人と間違えることが進化の実のバグなんだけどね。幻像が人型や獣人型だとそれも間違えているけど」
「もしかしたら化けるか。たしかに無限に訓練し続けられるんなら、どこまで強くなるか分からない」
「それだけじゃない。ネストにいる時間は、進化の実や、能力値スクロールのクールタイムの時間としてカウントされる。どういうことかわかる?1号は虚無の空間にいても平気なのよ。いくらでもいられる」
「無限に進化の実を食べられるってことか」
「でも本物の化け物作ったら、カリクガルを倒した後が怖い。私はカリクガルを倒した後はサチュロスは消すつもりでいる。でも1号はそういうわけにはいかない。モフモフだし」
「カリクガルを倒せるギリギリの強さの秘密兵器にするってことだな」
「それでもどうやって勝てばいいかは分からないけどね。ともかくチームはいったん解散する。そして戦う気のある人だけで再結成する」
「Fのことだけどね」
テッドは話題を変える。テッドは今、ゾルビデム商会の支店長ではない。その背後にいる巨大な組織の暗部の長だ。現時点で、全力で探っているのは、カリクガルの周辺だ。テッドはチームとは協力関係だが、目的が同じわけではない。ただアリアとの愛人関係は続いている。
「カリクガルの側近のフローズン・ローズ。美人よね」
カリクガルは周囲を信じないから、側近は次々粛清されて、今は通称「F」が側近だ。本名は分からないが、フローズン・ローズと呼ばれる女性である。誰かに噂をしているのを聞かれたら密告が怖いので「F」としか呼ばれない。天使降臨の時、ピュリスに現れたのがFである。
「Fの娘とカリクガルの息子は第1学園に通っている。同級生だ」
「私たちが動こうか」
「いや俺たちに任せてくれ。子供を接触させたら情が湧いて殺せなくなるだろ」
「殺す気なんだ」
「子供でも必要な時は殺す」
「理想の社会を作るには、手段を選ばない。それがあんたたちのやり方?」
「プロの医者は患者を殺せるやつだ。俺はそう思っているから」
「ロマンチストの仮面の裏は冷酷なテロリストか」
「俺を嫌いになるか」
「そんなこともないけど。でも同意はしない。手段と目的は分けて考えることはできないのよ。社会なんてきちんとした形がなくて、いつまでも完成しない。そうするとどうなるか。私は見てきたわよ。何回も。手段と思っているものが、いつまでも捨てられなくて、いつの間にかそれが目的になる」
「だけどやらなきゃならない時もある。俺はもうそういう道に入り込んでいるんだ。過去にも殺しているし、これからも殺す」
「子供殺して楽しい?殺人鬼さん」
「快楽のために殺すわけじゃない」
「快楽のために殺す殺人鬼はそんなにたくさん殺さない。あんたみたいな理想のために殺す人は、たくさん殺すのよね」
「できるだけ殺さない。Fの娘やカリクガルの息子も、可能なら助けるさ。だれであれ、できるだけ殺さない。しかしやるべき時はやる。アリアだって殺すだろ。どこが違うのかな?」
「自分のルールがあるのよ。他人に殺すことを委ねない。殺すかどうかの判断は自分だけがする。そこが違うのね。だから私は組織を認めない。国家は特に嫌。殺人の判断を任せろというのが国家だから」
「チームだって組織だろ?」
「たまたま同じ馬車に乗った人が、一時的に手を組んでいるだけよ。チームが解散したら、さばさば別れる。まあ一夜限りの男女の関係に近いかな」
「戦争の時はどうする。2,3年後には始まるぞ」
「国家と国家の戦争には巻き込まれたくはない。どっかに隠れていようかな。私が生きていればだけど」
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