第192話 ジル戦
ルミエとケリーが巨樹の前の食卓で話をしている。サーラと転生者ショウが拠点としていた場所だ。ケリーがひどい目にあってから、1週間後だ。
「ケリー、エイジング」
今度は何も起きない。
「ルミエ。僕の精神耐性256になった。もうルミエの呪術はかからないよ」
「1週間で良くここまで上げたわね」
「ずっと夢の世界で死に戻りしていたんだよ」
「どういうこと」
「1日目はただの激痛。10時間激痛に気を失わないでいると、耳に何か付けられて竜の咆哮。気を失うと最初からやり直す。激痛+竜の咆哮を20時間耐え抜いたら合格」
「ウゲッ!それ1日じゃ終わらないでしょう」
「夢魔処刑士のガカドは、それを無理やり1日にするの。難しいことは分からないけど」
「いいけど、眠らせてはもらえるの」
「1時間寝られる」
「ブラックというより、精神的拷問よ」
「2日目はミノタウロスのモンスターハウスに転移するの。50体くらいいて、凶暴なんだ。そこで戦ったり逃げたりする。1万回に1回くらい逃げられるんだけど。それを成功するまでやるわけ。死に戻りっていうやつ。夢だけど殺されるとき本当に痛い」
「言葉がない。もしかしたら能力値5%アップが、できるようになっているかもしれないわね」
「3日目は大好きな父さんや母さんやリリエスに僕なんかいらないって言われて、暴力振るわれて殺されるのね。逆に全員殺せたら合格」
「・・・・」
「4日目は僕が殺したモンスターの子供が、死体に取りすがって泣いていて、僕に向って素手で殺しに来る。今まで殺した分を全部やり終えたら合格」
「もういいわ。それを7日間やり終えたんだ。良く気が狂わなかったわね」
「ガカドが薬を使って、僕が気が狂う直前で止めてくれるんだ」
「私なら無理だと思う」
「精神耐性は強くなるんだけど、大事なことは感受性を失わない事なんだって。美しいものを美しいと感じる感情を無くしてはいけないらしいよ」
「ケリー大丈夫なの。お菓子美味しい」
「大丈夫。空はきれい。風は気持ちいい。ルミエは怖い」
ジルは海賊船に乗っていた。定期航路を狙うつもりだ。海賊団が46人、ザッツハルト傭兵団の精鋭が12人乗っている。指揮官はジルである。
ウインドサーフィンでケリーが追ってきているのに誰も気づいていない。ケリーの船は帆も海の青と同じ色で音もしないので気がつかないのだろう。ケリーは近づくと帆をマジックバッグにしまい、板のみで海賊船に近づいて密着した。
一真から開始の合図が来る。ケリーは粘糸を使って甲板に上がる。隠密をかけているのでだれも気がつかない。ポータブルダンジョンコアを置くと、一真、ルミエ、ワイズ、ベルベル、1号、ゴーレム馬が転移してくる。
まず敵の人数を減らす。ポータブルダンジョンコアを3つ取り出し、人の通りそうな場所に投げダンをする。ベルベルは離れたところにいる海賊を、長弓の毒矢で麻痺させる。作戦は全員捕縛、全員奴隷である。
ワイズは隠密のまま飛翔し、見張りをエロスの小弓の毒矢で麻痺させていく。気がつかれずに6人行動不能にする。隠れてジルにも攻撃したが、当たってはいるがジルはマヒ耐性があるのか効いていない。しかも気がつかれる。
クロヒョウの1号とゴーレム馬3頭を突入させる。敵は大混乱する。ケリーは粘糸で縛り上げ、一真は闇魔法の影縛りを使う。ルミエは魅了で動けなくして、拘束している。1号が噛みつきで足を攻撃し動けなくする。ゴーレム馬は竜の咆哮や投げダンへの誘いこみをしている。
一気に数が減って、動ける敵はあと8人。ここでジルを中心にやっと敵が隊形を作る。残ったのはザッツハルト傭兵団が多いようだ。槍を持って装備は革鎧である。チームの装備は武器はまちまちだが、鎧はメタル系の黒い鎧で統一している。
1号を中心とし馬部隊で8人を牽制し動きを抑える。倒した敵を船尾に固めて、ケリーの粘糸で拘束。42人を確認する。8人はどこかのダンジョンをさまよっている。
ジルはまだ余裕である。鎮静スキルをつかってこない。おそらく鎮静スキルを使うと、自分の近くにいる手下も無力化してしまうからだろう。
一真の念話で攻撃再開。ワイズが隠密を使い再び飛翔する。鎧を着ていない海賊に後ろから近づいて、鉛の矢を射る。これは敵味方関係なく憎しみが湧いてきて狂戦士化する。
狂戦士化した海賊が暴れている。海賊は味方のはずの傭兵に剣を向けている。ルミエにスキル強奪の指示が出る。傭兵からスキル強奪だ。海賊は傭兵を一人倒して、自分も倒された。二人ともまだ死んでいないと良いのだが。
ここでどこかのダンジョンに飛ばされていた海賊たち8人が船に戻ってくる。8人が混乱しているうちに、1号とベルベルが彼等を行動不能にして捕虜にする。あと6人だ。
ルミエはジルを除く傭兵たちからスキル強奪を完了した。一真が指示したのは乱戦である。ケリーは防御無視の剣でHPをちまちま削っている。攻撃も受けているが防具が優秀なので、ケリーのHPはあまり減っていない。減ったとしてもリンクで回復している。
一真は居合の構えだ。武器は日本刀である。近づく敵を見事に両断している。ベルベルは鞭である。まだ使い始めて日が浅いが、相手も槍のスキルを失っているのでいい勝負である。
1号は噛みつきで攻撃。足を狙われると防御しづらい。傭兵を一人倒している。ゴーレム馬たちは、敵の塊から離れた傭兵を、体で押して引き離す。引き離された傭兵は、ワイズがストーンバレットで打ちのめした。
その間にルミエはジルにアンチヒールをかける。これは術がかかると徐々にHPが減るはずなのである。しかし格上相手だと効果があるかどうかは分からない。
乱戦では数の優位が大切だ。2対1の状況を作れが一真の指示である。敵を倒した一真や1号達が、ケリーやベルベルに加勢する。スキルを失った傭兵が崩れる。
手が空いたものは敵にデバフをかける。デバフは左目の不運のデバフ。それに月蛾から奪った月光のデバフである。
ついにジルだけが残った。一真が舞台を整える。最終段階である。ファントムを呼び、捕虜を物化して、マジックバッグに入れる。ワイズとケリー、ゴーレム馬、1号を残して、他はいったん撤退を指示する。ワイズは隠密を使って飛翔しているので、ケリーとジルの1対1の対決の場面に見える。
「2年前、サエカで何やったか覚えているか。お前たちジル隊の4人がやったことだよ」
「子供が何か言っているが、覚えているよ。お前の母ちゃんか。俺にやられながら、気持ち良くなっていた婆あ」
「お前の仲間は僕たちが殺したよ。3人とも。お前が最後だ」
「自分が殺されるとは思っていないのか」
ジルは鎮静のスキルを発動する。ジルを中心に半径3メートルくらいの空間のすべてが静かになる。空間の中に取り込まれたケリーも動けないように見える。ゴーレム馬も1号も動きを止めた。
その瞬間ジルの頭上にいたワイズが、50メートルくらいの高さから、大岩を落とした。慣性があるから岩は空間で止められない。しかし何かが落ちてくるのに気付いたジルはすっと身を避けて回避した。
大岩を合図に、ケリーは月蛾触角でジルを原点とした座標空間を作る。ケリーの精神耐性は256。ジルの方がわずかに格上だった。しかしジュリアスの紫の布がジルの呪術をかろうじて防いでくれた。ケリーは鎮静に抵抗できていた。
20メートルのミスリル糸を出して、糸をピンと張り、両端に重りをつける。ジルを中心として回転を命じた。両端までには鎮静の魔法は届いていない。
ミスリル糸で、槍や防具を切断してジルを殺すことも可能だが、殺しはしない。ぎりぎりの力で巻き付ける。数分後にはジルはミスリル糸に全身を拘束されていた。
一真をはじめみんなが帰ってきた。ルミエが言う。
「あの日あんた達が攫ったエルフが私よ。覚悟しなさい。ジル」
しかしルミエの呪術は効かない。能力値が上の相手には呪術は効かないのだ。時間が経つうちにジルのMPが尽きて、無力になったジルが転がっている。
ファントムがジルを物化する。一枚の木の札になったジルからようやくルミエがスキル強奪をして、鎮静スキルと槍技スキルを奪い取った。
後日、王都アリアスの広場で、槍技スキルだけを返されたジルとカシム組の小次郎の公開一騎打ちがあった。観衆はたくさん集まった。賭け率は六分四分でジルの勝ちを予想する人が少し多い。ジルも有名だが、カシム組の小次郎もそこそこ有名だった。
勝負は小次郎の居合が勝った。負けたジルは高値で奴隷落ちした。ザッツハルト傭兵団はジルを買い戻してはくれなかったようである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます