第189話 早春のレニー
冬が終わりを迎えようとしている。季節が変わるからだろうか。リリエスとモーリーの退場が何かの影響を与えたからだろうか。それとも時間が最高の心の医者だという言葉の通り、時間が癒してくれたのか。レニーの心がようやく前を向き始めた。
あるまだ寒い日。空だけは良く晴れていた。レニーはゴーレム馬のブルースを連れて近くの湖の森へ出かけていた。ハルミナの近郊の森である。
その森ようやく雪が解け、さんさんとした光が、地表に恵まれていた。木の若葉が出始めると陰になるので、今しか地表の草には光が届かない。
春の妖精と呼ばれる花が一面に咲いている。鳥がさえずるはじめ、無数の色とりどりの蝶が舞い、森は一年で一番カラフルになる。
レニーが白い花の群落に座っていると、不思議なおじさんが通って行った。鳥や蝶が後を追っている。リスやモモンガもいる。まるでパレードだ。ブルースまでついて行ってしまうので、レニーも急いでブルースのなかに入って後を追った。
「私はまだあいつらを許していない。戦う怖いおじさんなんだ。だから付いてきちゃだめだ。いつかあいつらとの戦いが終わる。そうなったらあいつらを許して、すべてを忘れて君たちと一緒に暮らそう。さあ今は帰っておくれ」
動物たちは森へ帰り、ブルースの中のレニーも動物に紛れて森に隠れた。奇妙なおじさんはハルミナの街に帰った。
しばらくしてレニーもダンジョンに帰る。ブラウニーを探して、変なおじさんの話をする。
「動物たちがそのおじさんの後をついていったのよ。動物パレードだった」
「レイ・アシュビーです」
「それでね。私は戦う怖いおじさんなんだ。だからついてきちゃだめだ。いつかあいつらとの戦いが終わって、あいつらを許して、すべてを忘れて君たちと一緒に暮らそうって言ってた」
「レイ・アシュビーは、昔悪い人にひどい目にあったんです。そんな目にあったらレニーはどうしますか」
「逃げる」
「レイ・アシュビーも逃げたんです。そこをサーラに救われて、教えてもらったんです。戦わないと、心の氷は一生溶けない」
「戦いが終わったら許すって言ってたけど」
「それ以上は私にはわかりません」
レニーは木工工房で、注文のあったベッドやテーブル、椅子を作る。モーリーからもらった最高の道具たちがあるからか、木工士としての腕は上がった。
時間が余ると、鳥や虫、いろんな動物を木で作る。こちらも本物そっくりに出来上がる。人は作らないのだが、初めてレイ・アシュビーの人形を作ってみた。その後ろに動物たちを並べて、パレードを再現してみた。
木のクズはスライムに食べさせる。このスライムはいつの間にか仲間になって、戦いについてくる。今ではけっこう能力値が高い。誰も名前を付けてやらないのでまだ名前がない。レニーがシュビーと命名してあげた。
シュビーは木のクズを食べるとペレットにして排出する。汚くはない。木のクズが1センチくらいの短く細い丸棒に固められて出てくる。レニーはこれを小さなストーブの燃料にしている。
ストーブはモーリーからもらった。木を愛するモーリーは焚火の代わりにストーブを愛用していた。細い枝を折って、ストーブに入れると、木から出るガスまで燃える。
夕方になるとまだ寒いので、小さいストーブで温まる。レニーはこのストーブにシュビーの排出したペレットを使っている。とても良く燃える。
夕食後は1時間、木の瞑想をする。そのまま魔力操作の瞑想に移行することもある。似ているけれども違う。木の瞑想は外の世界と中の世界が重なり合う。魔力操作は中の世界に外の世界を取り込んで魔力を増やすことだ。レニーは瞑想も上手になってきている。
気が向くと投擲練習もする。投擲は奴隷になっていた時の嫌な思い出があるので、敬遠しがちだったが、いずれ闘う時が来たら、遠くから攻撃できる投擲がいいのかなと思ってるレニーだ。
夜は眠りながらの訓練なのでらくちんなレニーである。気がついたら朝になっている。ブルースの中ではスリープの魔法がかかっているので熟睡できるのだ。
結界魔法はレベル5になっている。完全結界というスキルを覚えた。『結界魔法入門』という魔導書では、第8章が「攻撃する完全結界」になっている。レニーは結界魔法は防御だけだと思っていたので、戸惑っていた。
なにしろエルザたちがいなくなった時は、怖くてしょうがなかった。ブルースのお腹の中に逃げて、やっと自分の場所ができた。結界魔法のおかげである。守ってもらえる結界魔法はレニーを安心させてくれた。
レニーは怖いから逃げている。でも逃げるだけではだめだとも思っていた。強くなりたいとも思っていた。守ってもらって、同時に強くなれる今の環境が良かった。
でもその結界魔法が攻撃するというのだ。完全結界は自分ではなくて、相手に結界をかける。結界が破れなければ相手の攻撃はこっちに来ない。こっちの攻撃は相手に通るので、攻撃型の結界魔法と言われているらしい。
レニー自身はまだ使っていない。でもミラーリンクというスキルで、眠っているレニーのスキルは、ゴーレム馬のブルースも使えるようになった。それで夜の訓練はすべて完全結界での訓練になっているそうだ。
レニーが寝て、ブルースはサチュロスと戦いに出る。今日は湿原のダンジョンに向かう。沼が多く足場が悪い。ここのボスはラミアクィーンである。リリエスとケリーは隠密を使って直接ラミアクィーンと戦ったが、ブルースたちは愚直に1層ずつ進んでいく。
最初はフロッグの階層だ。小さいものはブルースが完全結界で囲み、そのまま結界を絞って握りつぶす。完全結界は凶悪だ。何しろドラゴンすら倒すことができる。
大きいモンスターは、サチュロスがエロスの大弓で射貫く。ちなみにエロスの小弓は、サチュロスには小さいので大弓に改造されている。矢は魔法矢で、必中のグローブを装備しているから外すことはない。
2層目は沼ガニ。ハサミを持つモンスターだ。物理攻撃だけなので問題ない。半分以上は踏みつぶす。3層目はマーシュリザード。水トカゲだ。人間くらいの大きさで、沼に潜んで敏捷が高い。これは普通に結界で守りながら進んで、攻撃されたら反撃していく。
4層目がラミアで、5層目が巨大なラミアクィーン。ラミアクィーンの毒液は強力だ。今までてこずっていたが、完全結界で包んでしまえばこちらに届くことはない。楽に倒せるようになった。
サチュロスはソロですべてのダンジョンを巡回している。アリアの厳命で使う武器は弓だけなので、相性が悪いのは、小さくて、弱いモンスターである。とにかく手がかかる。レニーたちと一緒のダンジョン巡回は、手が増えるので、サチュロスにとっても息抜きできる任務だった。
ソロの場合だと、サチュロスがエロスの大弓で、小さなフロッグをちまちま狩っているのだ。アリアに深い考えがあるのかと思っていたが、どうやらアリアは細かいことを考えるのが苦手なようだ。何らかの範囲攻撃が必要だった。
11体の幻像サチュロスたちは眠らない。セバスの管理するイエローハウスのダンジョン総てと、ブラウニーダンジョンの総てのダンジョンを巡回している。稼ぎだす富は彼等が一番多い。
能力値平均も全員200を超えている。カリクガルとの戦いが2年後になるなら、その時彼等の能力値平均は300に迫るだろう。勇者パーティーに近い強さである。それが11体もいるのだ。彼等をどう活用するかがカリクガルを倒すカギになるかもしれない。
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