第187話 モジュール

 一真のモジュールはだいぶ充実してきた。順不同で、回転・アンチ・マクロ(順次発動)・ランダム発動・座標原点指定・範囲指定・照準などがある。


 回転は魔道具に良く使われている。小麦の製粉機やミキサー、最近は木材をチップにするのにも活用されている。チップにした後、薬剤で煮て柔らかくし、分解の魔道具でセルロースファイバーだけ取り出す。これにスライムゼリーを加えて乾燥させると、良質の紙ができるのである。


 話が少しそれるが、セルロースファイバーは断熱材として使える。一真は冷蔵庫の改良を試みた。断熱はうまくいったのだが、うまくいきすぎて今度は冷えすぎる冷蔵庫ができてしまった。


 困った一真は、これをグーミウッド夫人の魔道具士リーゼに持ち込んだ。一真はどうもマダムキラーの少年のようである。リーゼにも可愛がられている。


 リーゼは一真に聞く。


「冷蔵庫の目的は何だと思う」


「物を冷やして、長持ちさせることかな。それに冷やすと美味しくなるものがある。エールやジュース類とか」


「物を長持ちさせるなら、アンチエイジングというスキルがあるわよ。それに熟成させた方が美味しいものがあるから、エイジングルームがあってもいいわよね」


 一真は前世の記憶にとらわれすぎて、目的をきちんと考えていなかった。リーゼは市場感覚の天才なのだ。人々が何を望んでいるか知っている。


 冷蔵機能は残したままエイジング・アンチエイジングを駆使した食品保存庫が出来上がった。その状態のまま保存するなら、アインチエイジングの速度調節を0にする。リーゼは細かい調節が得意なのである。冷え過ぎも調節機能で解決している。


 話をモジュールに戻す。回転は魔道具だけなく、ケリーが風刃を使う時にも利用している。風を回転させトルネードにする。それで風刃の刃が敵に当たる回数が増える。攻撃力の低さを手数で補っているのだ。


 アンチはルミエが良く使う。攻撃ではないが、アンチエイジングという形で、若返ることを希望する人が多い。アンチウォーターボールは強力なのだが、まだ普及していない。アンチファイアーボールは鉄鉱石の還元に使えるはずだ。


 月蛾触覚から、座標原点指定というモジュールが取り出された。これはケリーが糸魔法と組み合わせている。原点を基準に空間の2点を指定し、そこに鋼糸を張る。1点を固定し、もう1点を移動させる。大事なのはいったん消して張り直すのではなく、鋼糸を移動させることだ。


 鋼糸で輪を作り、素早く引き絞り、モンスターの首を刎ねる。いかに早く敵を倒すか、ケリーはその訓練中である。


 座標原点指定は、それが魔法の起点となるのなら、絶大な効果を発揮するはずだ。単純なファイアーボールでも、発現する場所がモンスターの目の前だとしたら、あるいは目の中、脳内だったとしたら、敵を簡単に倒せるだろう。


 実験では座標指定による魔法の発現は難度が高く、敵の体内での発動は今のところ不可能だそうだ。敵の体内での魔法の発現。中二病の一真のこだわりそうなところである。結論は自分が敵の体内入り込んだら可能だそうだ。しかいどうやって入り込むのか。その方法は未知である。


 照準はワイズやドライアドのベルベル、サチュロスたちが弓を射る時に利用している。矢の命中精度が上昇している。必中のグローブを併用するとさらに精度が上がる。


 彼等からは追尾のモジュールが欲しいと要望されている。矢を射てから、敵が動いた場合、いくら照準の精度高めても矢は外れる。追尾は弓士の夢である。これはまだ実現の見通しがない。


 範囲指定は範囲攻撃を精密に指定できる。ルミエのホーリーレインなどがそうだ。単体攻撃を範囲攻撃に拡大もできる。ただ実際使う人は少ない。範囲指定する時間がもったいない。大雑把でも早く使える方が実用的なのだ。


 エルフ奪還作戦で、永遠の旅人から手に入れた謎スキル拡大・縮小。限界突破によって倍率を自由に指定できるようになった。しかしモンスターを縮小して何かメリットがあるだろうか。


 スライムを縮小しすぎて見失うなどの失敗エピソードが伝えられている。自分を拡大しても、強くなるわけでもない。大きくなれば相手はびっくりするだろうが、だからと言って戦いに勝てるわけがない。


 最近取り組んでいるのが、ミラーリンク状態の解明だ。ミラーリンク状態でユニークスキルや種族スキルがコピーできる可能性が出てきた。これを活用できれば、スキルの可能性は飛躍的に高まりそうである。

 

 ユニークスキルは導入のコストが高く、有用であっても導入をためらう人が多い。種族スキルはそもそも導入しても無意味なことが多い。羽根がないのに飛翔を導入しても飛べるようにはならない。


 今後は魔力節約モジュールなどの希望が出ている。たしかに特殊な場面でしか使えないモジュールは使いこなしが難しい。汎用でしかも導入コストが低いモジュールが求められている。


 チームの優位性はリリエスの残したスキルスクロールの多様性にある。そのまま使うだけではなく、一真が魔道具にしたり、モジュールに分解できたりする。カリクガルに勝てるとしたら、この優位を生かすしか道はないだろう。


 さて一真の最近の動向だが、頻繁にネストに籠っている。ここでは時間が経過しないのに、修行ができる。しかもネストでの時間は、スクロール使用のクールタイムにカウントされている。2か月足らずで、5%の能力値増加のスクロールが使用できた。


 これは一真と同じようにネストが使えるワイズも同じ。二人は2年程度で、また進化の実を食べることができそうである。そうすると能力値が1・5倍になる。


 強化されるのは良いことだが、それでもカリクガルには遠く及ばない。あらためて失ったリリエスの偉大さを思う一真であった。リリエスなら能力値でもカリクガルを圧倒していた。一人でカリクガルに対峙して勝つことができた。


 アリアのレベルアップが上手くいけば、カリクガルと同等の戦力になる。ただ一真には勝ち筋が見えてこない。エロスの小弓で攻撃するだけのアリアの単純な攻撃方法では、カリクガルを倒せないと思うのだ。


 リリエスがいなくなったことで、いくつか大きな穴が空いた。一つは戦闘時のバフ・デバフの支援だ。バッファーは誰かがしなくてはならない。1人、あるいは2人。攻撃力の低い人物にやってもらうしかない。誰にすればいいのか。一真にはまだ見えてこない。


 二つ目は付与魔法。付与はセバスやブラウニーができるが、戦場での付与も欲しい。臨機応変に武器や防具に付与できる能力は必要だ。


 最後にリペアだ。これは戦場で使うわけではない。ガラクタを再生するだけならセバスやブラウニーでいい。


 ダンジョン外でのリペアが必要だった。特にディオニオス神殿の修復だ。中心部の修復はほぼ終わっているが、奥の宮殿遺跡、入り口の巨塔の修復が終わっていない。リリエスが熱心にやっていた事業である。一真は緊急性がないので放置すべきかと悩んでいる。

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