第183話 ブラウニーダンジョンの今

 放置しているので、サイスはブラウニーダンジョンが、今どうなっているかよく知らなかった。だがなんとなく大きくなっているのだろうとは感じ取っていた。


 実態はなんとなく大きくなっているどころではなかった。3人の奴隷と1匹のオオカミ型モンスターから始まった小さなダンジョンは、全世界に支配下のダンジョンを持つ、一大ダンジョン同盟になっていた。


 中心はハルミナのブラウニーダンジョン。それにブルーハウスダンジョンが統合されて、リングル・カナス周辺のダンジョンが加わった。リリエスとケリーの2回の魔導書探索で7大ダンジョンが加わり、チームメンバーが各地に散ったことで、子ダンジョンも各地にできた。


 メンバーもいつの間にか150人を超え、ハルミナを拠点とする大クラン、ブラウニークランに成長していた。中心はシルベスタ・カエリ・アミーフの3人。


 シルベスタとカエリは結婚した。カエリはオークによって破壊された生殖機能を取り戻し、精神的にも立ち直って、魔眼に頼らなくても目が見えるようになった。冒険者ランクは3人ともCランクである。


 お金がたまると3人は奴隷商から、処分予定の廃棄奴隷を買い続けた。四肢欠損、感覚欠損、高齢、孤児などが集まってきた。ファントムも捨てられた老人を連れてくる。


 先日は海賊団の奴隷となっていた獣人が加わった。ルミエがエルフの薬師を送り込んできた。人間だけではない。ちび丸が3か月間隔で子供を産む。いつの間にかオオカミ型モンスターの黒丸や、名前のないスライムが増えた。チームからゴーレム馬やワイズの1号の訓練が委託された。


 ファントムとブラウニーは全員に魔石喰いのスキルを取らせた。これで月3万チコリの収入になり、最低生活はできる。それだけでなく、筋肉がつくようである。運が良ければ能力値のスクロールや、スキルスクロールが手に入る。


 加入する時、ブラウニーの魔導書に自分の経験をコピーする。一人一人の経験は貧しくて、取るに足りない。しかし数は力なのである。150人にもなると、種類も内容もすごいことになる。中には隠密が交じっていたらしく、彼等のスキルも魔導書で学べる。


 5歳以上で生活3魔法を持たないものは、無料でこの基本スキルを与えられる。これがないと社会の底辺から抜け出せない。持っていると成人した時には、限界突破でヒールや水魔法、火魔法が手に入る。成人でリテラシー・計算のスキルがないものには、夕方勉強会が開かれている。勉強会の後は、ダンジョンに挑戦である。このダンジョンからはリテラシー(100分の1)のスクロールが宝箱から出る。


 成人で能力値が40以下の項目があるものは、夕食後それぞれの能力の特訓をする。1時間訓練、1時間それぞれの能力のスクロールがもらえるダンジョン挑戦である。


 ファントムがリオトから底辺住民50人の底上げという仕事を請け負ってきた。10人ずつ受け入れることになった。1期生は四肢欠損4人、盲目2人、能力の偏り1人、犯罪者3人。


 四肢欠損と盲目は今までのやり方ですぐ対処できた。能力の偏りはけっこう難しい。この18歳男性の場合、知力は60、魔力も55、幸運は53あるのに、それ以外の能力値が20台だった。身体能力は7歳児並みなのである。


 特別に木の瞑想を使ってみる。1か月で各能力は1上がった。夜寝ている時にゴーレム馬に入っての寄生レベリングで、1か月で能力値は5上がった。昼の子供用ダンジョンでの訓練でも2上がった。


 各能力値のスクロールで5%上げてやっと最低能力値が30以上になる。身体強化スキルを覚えさせ、荒療治だが義勇軍に入ってもらった。3週間後、能力値を3あげて、ヒールレベル1、土魔法レベル2を得て帰ってきた。


 身体能力値は35前後。11歳児並みだ。この男性は3期生と一緒に卒業していった。昼は成人用ダンジョンに入り、自分にヒールをかけられるようになったので効率は上昇していた。卒業時の身体能力はすべて40以上。


 魔力と知力が70以上になっているので、知的職業に付けるかもしれない。土魔法もあるから農民でもいいが、土木技師でも生きていけそうである。


 犯罪者は政治犯一人、窃盗や万引きの累犯者二人。政治犯は過激な民主主義者だ。先々代、二コラの父親の代に捕まった。自由にしてやりたいが、すぐには無理なので、能力値を上げてやる。能力値平均は80くらい。知力は124。将来はリオトの片腕になるだろう。


 貧乏なために盗賊になるしかなかった二人は、二人とも生活3魔法がなかった。15歳。限界突破でヒールなどが出るには、クリーンを10年続ければいい。その分を短期間に取り戻させる。


 毎朝、魔力操作訓練でMPを増やす。地下街を含む町の清掃を担当させ、1日に1000回以上クリーンを使用させる。清掃が終わるとリテラシーと計算の特訓。夕方はダンジョンで訓練。寝る前に気を失うまでクリーンをかける。3週間後、義勇軍に志願させる。


 ヒールとリテラシー、計算のスキルを得て帰ってきた。能力値平均は43。剣技や槍技のギフトスキルを持っているので兵士になれるかもしれない。もう1か月卒業を伸ばして、水軍のスキルを身に付けさせて、卒業させる。


 ファントムはブラウニークランのメンバーには、平均に上昇するだけではなく、さらに中流に上昇する道を開きたかった。


 毒薬を含まない薬師の魔導書が作られた。これにはヒールのスキルの習得や指圧のスキルが含まれている。ハルミナでは、限界突破によってヒールがレベル2以上になるものが増え、治療院はたくさんできるだろう。


 ヒールだけでなく、薬師の技術を持っていれば他と差別化できる。さらにトールヤ村のホーミック1世が伝えてくれた、指圧のスキルがあれば、最高の治療院になれる。


 水路開発により必要とされる水運・水兵スキルも将来性がある。索敵隊スキルも今必要とされている。隠密が紛れ込んでくれたので良い魔導書ができている。


 あとは全員にリテラシーと計算を身に付けさせたので、教師になるのもいい。たくさんの人の経験を集大成してあるので、料理人の魔導書もできている。


 リリエスのレシピ、ルミエのレシピ、ケリーの両親の海産物のレシピ、モーリーのレシピ、そして多くの人たちの人生が詰まったレシピが料理の魔導書に凝縮されている。料理人になるのもいいだろう。

 

 ブラウニーダンジョンの大事な役割の一つははレニーの育成である。エルザたちがいなくなることで、レニーはパニック起こしてしまった。今回のリリエスとモーリーの死も、レニーにはショックだったようだ。


 レニーは昼は結界士として(ブルースの中に入ったままだが)ダンジョンに入っている。午後は隔日で、モーリーの技を受け継ぐ木工士としていろいろな家具などを作っている。モーリーは『木工士の魔導書』を残してくれたので、レニーはそれに従って腕を上げているのであった。


 ブルースは他のゴーレム馬よりも格段に能力値が高く、みんなに頼りにされていた。夜はサチュロスに連れられて深い階層でレニーと一緒にパワーレベリングされているからだ。


 レニーの特別扱いは秋に10歳になって、ギフトを受け取るまでということになっている。能力値平均はもう100以上になっている。木の瞑想もしているから、強さはもう十分なのである。あとは心の問題だ。

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