第182話 テッドとアリア
「リリエスが死んだんだな」
「人が死ぬのってあっけないわね。テッドにはしばらくは生きていてほしい」
「アリアは不死なのか」
「死ねないタイプのね」
「いつまでも生きたいわけじゃないってことか」
「今はやるべきことがあるけど、それが終わったらどうしていいかわかんないわね」
「記憶ってどうなってるの。子供時代の思い出とか」
「アズル教の神にアラクネにされた時に、ほとんどなくしたわ」
「ほとんどということは、覚えていることはあるんだ」
「楽しかったことだけは忘れないようにしている」
「昔はよかったって?」
「ぎすぎすしてなかった。ハデスとも仲が悪いわけじゃなかったわ。みんなで飲んで楽しかった」
「ハデスって、冥界の王だろ。魔王の親玉。昔の神様って善なのか悪なのか分かんないな」
「モンスターもね、違う世界からのお客さんだったのよ。冥界に帰るためには死ななきゃなんないの。それで殺してあげると、お礼に肉を置いてってくれるわけよ」
「凶悪じゃなかったんだ」
「戦いはするけど、凶悪じゃない。ゲームだったのよ」
「魔石は?」
「魔石はなかった。アズル教が冥界やモンスターを悪と決めつけて、モンスターが凶悪になって、魔石ができたの」
「アズル教は人々を救ったんじゃないのか」
「人間は救われる必要なんかなかったんだけど。人間もいつの間にか罪のあるものにされてしまって、お金を出して罪から救われるようになっちゃったわけ」
「それでアリアたち神様もアズル教の神様にやられたってわけか」
「私たちは死ねないからね。姿を変えられて、私ならアラクネにされて生きているわけよ」
「アリアの恋人はどうなったんだっけ」
「ディオニソスはガーゴイルにされて、死の谷に封印されたわ。絶対出て来られないようにされたはずなんだけど」
「でも会ったんだろう。32年前か」
「ジンウエモンというリッチに連れ出されていた」
「ジンウエモンは何のためにディオニソスを外に連れ出したんだろう」
「古代の神の中でもディオニソスは特別な力持っているから、その力を利用したかったんだと思う」
「しかしジンウエモンは死んだ。サーラが殺したらしいな。それでディオニソスは自由になったんじゃないのか」
「自由になったんなら、その兆候があるはずなのよ。私には解るはず。それがないのはまだ捕らわれている。ただ気配は感じるの。自分が何ものか、それが分かっていないのかもしれない」
「そう言えば、カリクガルなんだけど、貴族のパーティーとか、公式の催しとかに結構出ているのは知っているよね」
「王宮で女官たちが良く噂している。着ているものとかアクセサリーの宝石とか」
「表に出てくるカリクガル。あれはどうもニセモノらしい。多分幻像だな」
「私も変だと思っていたわよ。危険すぎるもの」
「幻像だとすると、幻像を使っているものがいる」
「傍にいるとは限らないけどね。でも近くの女官の中に幻像使いがいる可能性も結構あるわね。離れていると何かあった時に対応できないから」
「幻像使いは天使降臨の時のあの女だと思うんだ」
「あの女だったら、弱みを持っているはずなのよ。あの時エルザが幻像のスキル強奪しているの。そのことをカリクガルに報告していないんじゃないかと思う。幻像のスキル奪われたということは、リンクも奪われたっていうことなのよ。リンクはカリクガルにとって生命線のスキルよ。それにしては静かすぎる。何の反応もないのがおかしいのよ」
「その幻像使いは、スキルを強奪されたことを、カリクガルに秘密にしているっていうことか」
「それがその女の弱みになっているはずよ。その女を見つければ、付け入るスキができる」
「実は目星をつけている女はいるんだ」
「誰よ。私も探っているんだけど、決め手がないでいるのよ」
「F」
「あいつか。フローズン・ローズ。通称F」
「潜り込んでいる女官が、鑑定をかけて、Fが幻像スキルを持っていることを確かめた」
「幻像スキルを持っているのは一人とは限らないわよ」
「カリクガルは性格きつくて、側近は長く持たない。ちょっとでも気に障ると殺されるんだ。だから常に入れ替わっている」
「Fは長いの?」
「いいや。5年くらいかな」
「思ったより短いわね」
「しかもFはマリアガルの側近だった。だから我々もFはいつかカリクガルの側近から脱落すると思っていたんだ。そしてマークしていたのは神聖クロエッシエル教皇国からついてきた一番古い侍女だった」
「その侍女じゃないという決め手は何なの」
「ついこないだ顔を見せなくなった。おそらく殺されたんだろうな」
「カリクガルは異常者ね。自分以外を信用できない。おそらく被害妄想」
「カリクガルだけじゃなくて、双子の姉妹マリアガルもそっくりだったようだ。そして二人で殺し合った」
「二人には子供がいたのよね」
「マリアガルの子供は武術に優れ、魔法も天才的。カリクガルの子供は同じ年で、性格は良いが凡才らしい。二人で同じ女の子を好きになってね」
「子供の恋愛だよね。5年前なら二人ともまだ10歳」
「女の子が好きになったのはカリクガルの息子だった。大人しくて奇麗な子らしい。性格のいいカリクガルの息子を好きになったんだな」
「カリクガルの息子が良い人間に育つとは信じられないわね」
「マリアガルの息子はその子を誘い出して寝取ったんだ」
「子供のやる事とは思えない」
「その女の子はFの娘なんだよ」
「Fはその時マリアガルの手下だったのよね。ご主人様の息子が娘を犯した」
「Fはマリアガルを裏切って、カリクガルに乗り換えたんだ。娘が可哀そうだったのかな」
「ご主人様の息子の方が有望だったのに。Fは判断を間違えたわね」
「カリクガルとマリアガルはいつかぶつかっていたさ。普通に成人まで待てば、カナス辺境伯の地位はマリアガルの息子のものになる。文武両道の英雄が誕生しただろうな」
「その男の子は殺されたの」
「母親の目の前で。でも母親のマリアガルは、生かされた」
「確かリッチになるための生贄が必要だという話よね」
「リッチになったら、能力値は2倍になる」
「リリエスだったら、それでも勝てたけれどね。私じゃ無理だわ」
「3,4年はリッチになる準備に必要らしい」
「やっぱり3年後には倒したいわね」
「我々もそのつもりだ」
「それにしても次代のカナス辺境伯は良い人になるんだ」
「それで務まるはずがないだろう。いい人じゃ辺境伯は舐められて外国から攻められる。それが分かっているから、カリクガルはリッチになって延命しようとしているんだ」
「Fは弱みを握られてカリクガルに従っているのかな」
「娘だな。Fの娘の命がカリクガルに握られているんだろうよ」
「Fにとって、カリクガルが死ねばその呪縛から解放される」
「そう考えている可能性はある。カリクガルもそれは分かっているさ」
「マリアガルとカリクガルは互角の強さと言われていたけど、カリクガルが勝てたのは偶然なの」
「魔導士たちも半々に分かれて、壮絶な殺し合いだったらしい。彼女たちの魔法は古代語魔法で、その古代語魔法の決め手のようなものをカリクガルは手に入れたらしいんだ。それが何かは分からないが」
「マリアガルに会いたいわね。情報が欲しい」
「マリアガルを閉じ込めている邸の管理人はFだそうだ」
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